黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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11章

鬼払い②

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 既に『鬼払い』は『問題』拾いとなっている。
朱里と乳幼児2人の安全が第一なのでグリムレインに真っ向勝負を挑むよりもマシだからである。
 
 しかし、そこは簡単にいかないのがグリムレインの言うところの今まで学んできた事を出せと言う所で、氷がつぶての様に飛んできたり、雪で視界が見えにくくなったり、木の板を拾ったと思えば、グリムレインの作った氷に色がついているだけの物だったりと、一筋縄ではいかないのである。

「びへーきしぃっ!!」
大きなくしゃみをしてズズッと鼻水をすすり、ハガネが「さみぃ」と毛布を頭から被りながら丸まって芋焼きの火の周りに手を当てに来る。

「あれ?ハガネ冬眠じゃなかったの?」
「あっ、ハガネだ!久しぶりだね!」
 リュエールとシュトラールが何度目かの書き取りをさせられながら、ハガネに気付き声を掛ける。

「あー、叩き起こされたんだよ。グリムレインとアカリに」
 ハガネが口をへの字に曲げながら、元気に叩き起こしてきた元凶達の顔を思い出しガクリと項垂れる。
「お疲れ様。ハガネ」
「よし。書き取り終わり!もう1回行くよ皆!」
 子供達が拳を上げて「おーっ!」と叫ぶと、ハガネが「オッサンには無ぇ元気だわ」とぼやいてテンに「その見た目で言われてもねぇ」と笑ってハガネを芋をひっくり返すトングでつつく。

「それにしても今回はまたえらく難儀してんなぁ」
「皆さんちゃんと状況判断出来ていませんからねぇ。身内に甘いところ嫌いじゃないですけど、これが何かの襲撃だったら全滅ものですよねぇ」
 グリムレインに素直に戦いを挑んだ方がまだ鈴は取りやすそうだと思いながらも、2人は芋を焼く木の板がグリムレインから飛ばされてくる都度にキャッチして火にくべていく。


 時間が経つにつれ、『問題』の板はどんどん火にくべられ、数を少なくしていく。
グリムレインの声高らかな笑い声と朱里の「ほら!皆頑張って!」の応援の声が響く。
子供達も何度も往復しているせいで疲れてきているが、大人もいつもの力押しが出来ない分、別の意味で疲れている。

「『問題』の薬草の名前を製薬の奴らに聞きに行ったら、あいつ等教えてくれねぇし!」
「製薬部隊は女将の仲間だから無理に決まってんだろ!」

「やっと答えられた『問題』で貰えた鈴・・・赤でした・・・」
「いいじゃないか。恋愛成就できるといいな・・・うん」

「グリムレインのヤツ、俺達が手も足も出せないの知ってて派手な攻撃しやがって」
「今年の鬼役、ギルさんなら楽だったんだけどな・・・」

 従業員が「はぁー・・・」と項垂れながら、作戦本部の方を見ればルーファスと数名の従業員が真剣に話し合っている。

「そろそろ木の板が無くなるころだ。しかし、鈴はかなりの数残っている」
「女将は元気いっぱいですが、お嬢さん達が心配ですね」
「いや、さっき近付いたらお嬢さん達も元気いっぱい手を叩いてたぞ」
「魔法部隊が風で雪を払い視界を先ずは手に入れて、視界が開けた所で女将とお嬢さん達をグリムレインから引き離す。あとは一斉に通常通りの戦闘に持って行ければ押し切れるかもしれない」
「グリムレインは雪を操るから、視界が開けるのは一瞬だと思って動け」
「行くぞ!」
 本気部隊が作戦本部から出てくると、ハガネが魔法で空に緑色の光を放つ。

「嫁よ。ハガネの合図だ。婿が本気で掛かってくるようだぞ?」
「ふふふ。今年の鬼役の私達は歴代に残る鈴を死守した鬼役じゃないかな?」
「あーい!」
「むーい!」
 朱里がミルアとナルアに「イエーイ」と声を出し親指を立てて笑う。
「おっ、その前にリュー達が最後のあがきに来たぞ」
「さぁ!リューちゃん達に『問題』です!【刻狼亭】の料亭には個室のお部屋が21部屋あります。1つのお部屋にテーブルは1つ、椅子は6個。さぁ合わせて何個テーブルと椅子はあるかな?」
 朱里が「算数のお勉強だよ」とニコッと駆け寄って来た子供達に笑う。

「えーと、部屋が21室だからテーブルも21個それに6個ずつの椅子だから・・・」
「6個を21個・・・」
 リュエールが指で空にソロバンを弾くしぐさをして、シュトラールが指で「えーと」と数えている。
「147個!・・・ですか?」
 リュエール達の友達の薬問屋の兎獣人ゼファートが小さく手を上げて答える。
朱里がぱちぱちと手を叩いて「正解です。鈴をあげましょう」と、鈴をポイポイと上から投げていく。

「ゼファートくんは計算が早いね」
「薬の数とか間違えたらいけないから、計算は得意です」
「皆もゼファートくんみたいに計算が早くできると、将来役に立つからお勉強は大事だよ」
 子供達は鈴を拾い「はーい」と答えると、ゼファートに「やったな!」と声を掛けながら撤収していく。

「さて、そろそろ私達も撤収ですよ」
「うむ。嫁は意地が悪い」
「何とでも言ってくださいな」
 グリムレインがフゥーと冷気を吐き出して周りの温度を下げると吹雪を一瞬ブリザードにして姿をくらます。

「「「逃がすか!【風】ウィンド」」」 
 
 本気部隊の魔法部隊が三方向から風魔法を放ち雪を上へ巻き上げて視界を確保すると、グリムレインがその場に立ち尽くしている。

「アカリとミルアとナルアの確保だ!」
 
 グリムレインの体をルーファスと一緒に本気部隊が駆けあがると、背中に朱里もミルアもナルアもおらず消えていた。
ピシンと音がし始めるとパシャーンと砕ける音がし、グリムレインが砕け散るとスターダストが煌めき、辺りの雪も無くなり視界が戻ると救護班のテントの横でグリムレインと朱里がミルアとナルアを抱きながら手を振る。

「『豆汁』が届いたので終了ですよー!」

 『鬼払い』の縁起物は『豆汁』という、豚汁に似た物に3種類の豆が魚のすり身と一緒に団子にされた物で、この『豆汁』が運び込まれた時点で『鬼払い』は終了なのである。

 朱里が笑って満足そうにしているので、ルーファス達も「仕方がないな」と苦笑いをしながら朱里達の元へ戻ると、朱里とグリムレインから「皆、本気で来てくれて良かったのに」「だな。皆、腑抜け過ぎる」と言葉を貰い、「女将とお嬢さん達が居るのに本気出せるわけないじゃないですかー!」と言えば、朱里とグリムレインが口に手を当てて笑う。

「私がグリムレインの背中に居たのは『問題』を空から落とした時までよ。大事な娘2人を戦場に置いておくわけないでしょ?」

 朱里がミルアとナルアを抱きしめながら「ねーっ」と笑う。

「女将達は救護テントの横で芋を焼く火で温まってましたよ」
 製薬部隊が芋焼き場を指さし、半笑いしながら「薬草の答えを言おうものなら睨まれますからね」と朱里を見る。

「グリムレインの腕輪と私の腕輪で通信をして、問題を出す時だけ声を出してたの」

「我の背中に居た嫁とチビ達はハガネの【幻惑】を始めに雪を降らせた時に皆に掛けておいたものだから、ほぼ初めから嫁は戦線離脱しておったのだ」

 朱里がドヤ顔で「ふふーん」と得意そうな顔をするが、ハガネは「その為だけに冬眠から俺は起こされたんだけどな」とグリムレインと朱里を小さく睨みつける。

「皆、今年は趣向が変わってて楽しかったでしょう?」
 朱里の言葉に一同は「あー、まぁ・・・はい」と、言うしかなかった。

「『問題』に答えられなかった人達、勉強不足です。私が幻惑だと気付かなかった人達も修行のやり直しですよ?今回は勉強の大切さと、何が起こるか、起きているのかを見てもらうのに良い機会だったでしょ?ふふっ」

 朱里とグリムレインが「来年も頑張ろう!」と手を合わせている事から、来年も2人で何か企む気満々の様だった。

 子供達にも「来年も『問題』用意しておくから勉強しておいてね」と笑いかけ、子供達に「普通にグリムレインから鈴奪いにいくよ!」と叫ばれて「なら来年は体術のお勉強だね」と朱里に笑顔で返されたのだった。
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