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11章
石ころ
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床で伸びて倒れたケンジを見下ろしながらギルが日記をトドメとばかりにケンジの顔に投げつける。
リルが耳を下げながら『ケンジ・・・だからケンジは弱いって言ったのに・・・』と、しゃがみ込みながらケンジの頭をペシペシ叩いている。
「ギル叔父上はケンジを知っていたのか?」
「会うのは初めてだと思うんですけど、どうもどの時間軸でも私はケンジに辿り着いている様ですから、友人に探してほしいと頼まれていた男がケンジなんでしょうね。と、そうだ忘れてました」
ギルがケンジの口に何かを入れると口と鼻を摘まんで飲み込ませると「忘れたらまた怒られるところでしたよ」と機嫌よく戻ってくる。
ルーファスも見た事のある物にまさかとケンジの首を見れば、ケンジの首に鎖が垂れ下がる。
ギルとの追いかけっこで定番の時間が経つごとに重くなっていく鎖である。
「ギル叔父上、何でこんな物を・・・?」
「時間移動して逃げる相手なら、目印は必要でしょう?私が追うのではないので丁度いいでしょうからね。この歴史はケンジの中では確定してしまったでしょうから、何十年後でも何百年後でも移動したところで逃げ切れないと思いますしね」
ギルが目を細めて笑うと、ルーファスが小さく身震いする。追いかけっこをする時に見せる獲物をいたぶる目は追い回された事があるルーファスには危険な物に映る。
「ギル叔父上、まさかとは思うが・・・追い駆ける相手は・・・」
「永遠を生きる種族ドラゴン。ネルフィームがケンジをこれからコレを目印に追い駆けるんですよ。【復讐】の手助けがネルフィームが主従契約する時の条件です」
苦労性でギルに振り回されてばかりの黒竜ネルフィームの意外な主従契約に少し驚くと、ギルが言葉を続ける。
「ケンジにとっては道端の石ころの様な相手でも、他の誰かにとっては大切な命なんですよ。目的ばかりに目を捕らわれていると、見過ごしてしまった石ころにこうして恨みをかうんです。まぁ、私もケンジに言えた義理ではないんですけどね」
何かと人に恨みをかう様に生きているギルにとっても自分の言葉は耳の痛い言葉でもある。
それでもネルフィームが自分を【復讐】相手に選んで追ってくれるなら、きっとギルは喜んで追い回してもらう。
ほんの少し、ネルフィームに追い回されるケンジが羨ましいと思うギルの気持ちは胸に秘めたまま笑顔の下に隠しておく。
「いったいケンジは何をしてネルフィームに恨みをかったんだ?」
「助けを求める声を無視して通り過ぎただけ、それだけでも恨みはかうものです。【復讐】しても消えた命は戻らない。ケンジにとっては違うのでしょうが、私達にとっては取り返せない物です。【復讐】なんてするくらいなら、忘れて幸せの中で生きて行く方が大変ですから、アカリは楽な方へ逃げずに大変な方を選んで生きて行きなさい」
朱里の顔にハンカチを押し付けて、ギルがルーファスの肩に手でポンポンと軽く叩き、まるで何かを線引きするように言って聞かせる。
幸せに生きろと言っているのか苦労しろと言っているのか言い回しの諄さはギルらしく、ギルもギルで屈折した愛情の持ち主なのである。
嗚咽を漏らす朱里にルーファスが抱きしめたまま朱里の頭に頬を摺り寄せる。
「アカリにはオレや子供達が側にいる。むしろケンジがオレ達にとっての石ころだ。石ころに復讐した所で意味はないからな」
「ふっ、えぐっ・・・うん。わかってる」
甥夫婦を見ながら、ギルが小さく笑って自分の言葉が無くても【復讐】に捕らわれてしまう事はないか・・・と、店を出ると、最後になるかもしれない大切な友人の名前を呼ぶ。
「ネルフィーム!」
空から黒いドラゴンが下りてくると、黒髪の高身長の美女に変わる。
「どうだった?主」
「私達の【復讐】相手はケンジ・タナカで間違いはない様だよ」
「そうか。主、長い事付き合わせてすまなかったな」
「【復讐】を済ませたら、また何処かへ行くのかい?」
「どうだろうな。主、あまり人を困らせて嫌われないようにな」
「その時はネルフィームが慰めてくださいよ」
「それはごめんだ。主は本当に手が掛かる」
いつものやり取りの様に見えて、別れの言葉を2人は交わす。
ネルフィームがギルに笑いかけてからギルの額にキスをするとギルが下を俯く。
「主、今まで有り難う」
「・・・」
俯いたギルにネルフィームが目を細めて、ギルをその場に残し店の中へ入っていく。
「ネルフィーム・・・」
呟いた大切な友人の名前にまだ一緒に居たい気持ちが心に広がる。
店の中で何かが爆発するような音がボンとすると店のガラスが割れ黒煙が店の中から上がると、ギルが弾かれたように地面を蹴って店に入る。
天井からシャワーの様にネルフィームの黒炎をまとった人物に降り注いでいる。
「一体、これは何事なのかな?」
ネルフィームに【復讐】された惨状は解るが、問題は店の中に居る人数だ。
ギルが出ていった時とは店の中の人数が変わっていた。
【刻狼亭】の当主の黒い着物を着た白金の髪の男と【刻狼亭】の従業員を総指揮する係りの者が着る灰色の着物を着た黒狼獣人の男が増えていた。
リルが耳を下げながら『ケンジ・・・だからケンジは弱いって言ったのに・・・』と、しゃがみ込みながらケンジの頭をペシペシ叩いている。
「ギル叔父上はケンジを知っていたのか?」
「会うのは初めてだと思うんですけど、どうもどの時間軸でも私はケンジに辿り着いている様ですから、友人に探してほしいと頼まれていた男がケンジなんでしょうね。と、そうだ忘れてました」
ギルがケンジの口に何かを入れると口と鼻を摘まんで飲み込ませると「忘れたらまた怒られるところでしたよ」と機嫌よく戻ってくる。
ルーファスも見た事のある物にまさかとケンジの首を見れば、ケンジの首に鎖が垂れ下がる。
ギルとの追いかけっこで定番の時間が経つごとに重くなっていく鎖である。
「ギル叔父上、何でこんな物を・・・?」
「時間移動して逃げる相手なら、目印は必要でしょう?私が追うのではないので丁度いいでしょうからね。この歴史はケンジの中では確定してしまったでしょうから、何十年後でも何百年後でも移動したところで逃げ切れないと思いますしね」
ギルが目を細めて笑うと、ルーファスが小さく身震いする。追いかけっこをする時に見せる獲物をいたぶる目は追い回された事があるルーファスには危険な物に映る。
「ギル叔父上、まさかとは思うが・・・追い駆ける相手は・・・」
「永遠を生きる種族ドラゴン。ネルフィームがケンジをこれからコレを目印に追い駆けるんですよ。【復讐】の手助けがネルフィームが主従契約する時の条件です」
苦労性でギルに振り回されてばかりの黒竜ネルフィームの意外な主従契約に少し驚くと、ギルが言葉を続ける。
「ケンジにとっては道端の石ころの様な相手でも、他の誰かにとっては大切な命なんですよ。目的ばかりに目を捕らわれていると、見過ごしてしまった石ころにこうして恨みをかうんです。まぁ、私もケンジに言えた義理ではないんですけどね」
何かと人に恨みをかう様に生きているギルにとっても自分の言葉は耳の痛い言葉でもある。
それでもネルフィームが自分を【復讐】相手に選んで追ってくれるなら、きっとギルは喜んで追い回してもらう。
ほんの少し、ネルフィームに追い回されるケンジが羨ましいと思うギルの気持ちは胸に秘めたまま笑顔の下に隠しておく。
「いったいケンジは何をしてネルフィームに恨みをかったんだ?」
「助けを求める声を無視して通り過ぎただけ、それだけでも恨みはかうものです。【復讐】しても消えた命は戻らない。ケンジにとっては違うのでしょうが、私達にとっては取り返せない物です。【復讐】なんてするくらいなら、忘れて幸せの中で生きて行く方が大変ですから、アカリは楽な方へ逃げずに大変な方を選んで生きて行きなさい」
朱里の顔にハンカチを押し付けて、ギルがルーファスの肩に手でポンポンと軽く叩き、まるで何かを線引きするように言って聞かせる。
幸せに生きろと言っているのか苦労しろと言っているのか言い回しの諄さはギルらしく、ギルもギルで屈折した愛情の持ち主なのである。
嗚咽を漏らす朱里にルーファスが抱きしめたまま朱里の頭に頬を摺り寄せる。
「アカリにはオレや子供達が側にいる。むしろケンジがオレ達にとっての石ころだ。石ころに復讐した所で意味はないからな」
「ふっ、えぐっ・・・うん。わかってる」
甥夫婦を見ながら、ギルが小さく笑って自分の言葉が無くても【復讐】に捕らわれてしまう事はないか・・・と、店を出ると、最後になるかもしれない大切な友人の名前を呼ぶ。
「ネルフィーム!」
空から黒いドラゴンが下りてくると、黒髪の高身長の美女に変わる。
「どうだった?主」
「私達の【復讐】相手はケンジ・タナカで間違いはない様だよ」
「そうか。主、長い事付き合わせてすまなかったな」
「【復讐】を済ませたら、また何処かへ行くのかい?」
「どうだろうな。主、あまり人を困らせて嫌われないようにな」
「その時はネルフィームが慰めてくださいよ」
「それはごめんだ。主は本当に手が掛かる」
いつものやり取りの様に見えて、別れの言葉を2人は交わす。
ネルフィームがギルに笑いかけてからギルの額にキスをするとギルが下を俯く。
「主、今まで有り難う」
「・・・」
俯いたギルにネルフィームが目を細めて、ギルをその場に残し店の中へ入っていく。
「ネルフィーム・・・」
呟いた大切な友人の名前にまだ一緒に居たい気持ちが心に広がる。
店の中で何かが爆発するような音がボンとすると店のガラスが割れ黒煙が店の中から上がると、ギルが弾かれたように地面を蹴って店に入る。
天井からシャワーの様にネルフィームの黒炎をまとった人物に降り注いでいる。
「一体、これは何事なのかな?」
ネルフィームに【復讐】された惨状は解るが、問題は店の中に居る人数だ。
ギルが出ていった時とは店の中の人数が変わっていた。
【刻狼亭】の当主の黒い着物を着た白金の髪の男と【刻狼亭】の従業員を総指揮する係りの者が着る灰色の着物を着た黒狼獣人の男が増えていた。
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