黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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11章

ルーファスとケンジ

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 ケンジが感謝しろと言いたげにこちらを見るが、感謝など出来るような事は何一つとしてない。
リルはケンジに相変わらず噛みついたりしてはいるが、嫌がっているというよりはじゃれついている延長線でしかない。
 
 すっかりケンジが怖い人間だと怯えてしまっている朱里は胃の下が冷たく感じられて、早く帰りたいというより、このケンジという男に関わりたくなくなっている。
リルの事は心配だが、時間を移動して自分を車で轢く練習を何度もした様な人間と同じ空間に居る事の方が怖い。

「ああそうだ。三野宮さん、君のおかげでオレはリルに出会えた。凄く感謝してるんだ。君の望むことを1つ叶えてあげても良いよ。元の世界に帰りたいなら送るよ」
 ケンジが良い案だろ?と、いう顔で口元を上げているが、朱里にとっては孤独に生きる人生を歩めと誘っている言葉でしかない。

 ルーファスが朱里を抱きしめる腕の力が強めると、朱里もルーファスを抱きしめ返す。
「私の居場所はこの人のいる場所だから、この世界でルーファスと子供達と生きていく。元の世界に戻る気はさらさら無いの」
 お互いの体温に安心を覚えながらケンジに首を振ると、ケンジが「ふーん」と首をかしげる。

「前に聞いた時は、兄弟が心配だから元の世界に帰るって言ってたけど今回は・・・ああ、今回は兄弟が居ない三野宮さんか。ごめん。コレは忘れてよ」

 兄弟が居るから・・・帰る・・・?今回は、居ない・・・?
ケンジの言葉の意味が飲み込めず、朱里の頭が答えを出す前に涙は溢れ出していた。

「成程、アカリの家族を殺したのはお前か・・・」

 ルーファスが絞り出す様に言った言葉は朱里の涙が悟った物と同じだった。
あの日の光景が頭の中をよぎる。誰も生き残ってはいない家の中で物音がしたのを覚えている。
キィ・・・と軋むあの音は足を静かに忍ばせる音ではなかっただろうか?

「オレは犯行を見てただけ。オレの物音で冷静になった犯人が母親と祖母だけ殺して立ち去る時と、オレが何もせずにいた場合は一家全員殺される場合があるだけ」
 ケンジは悪びれも無く言うが、それは犯人では無いからという理由だからだろうか?

「何故、犯行を目撃していて止めなかった!」
ルーファスの言葉に朱里もケンジを涙で滲む目で見つめれば、ケンジは「それは無理」と一蹴する。

「何で関係のないオレが家に居たんだって話になれば、それはそれで面倒くさい事になる。そして、家族が生き残っていると三野宮さんはこの世界には来ない。母親と祖母だけ死亡の場合は、長男次男を産んだ後で元の世界に帰ってしまう。その場合は長男が非常にヤバい人生を歩んで子孫のリルが生まれた時には環境が悪すぎて、リルは4歳で亡くなってしまう。家族を皆殺しにされていた方が都合が良いのは、オレもアンタも一緒」
 ルーファスと自分を交互に指してケンジが「そうだろ?」と問いかける。

「オレをお前と一緒にするな!時間を移動できる術を持ちながら、何故、全てを救う道を探さない!」
 痛いほど朱里を抱きしめる手に力を入れ、怒りに肩を震わせるルーファスに朱里も、どうして幼い妹と弟だけでも救ってくれなかったのかと問いかけたいが、答えは先ほどの物と同じ物しか返ってこないのだろうと、唇を噛みしめて涙を流すだけだった。

「時間を移動出来ても人の行動は常に変わる。物音1つで大きく変わるんだ。それを1つ1つ救う術を探すのは膨大な時間とお金が必要だ。オレの能力は万能じゃないからね。目的を見失わないで動かないと意味が無くなる」
 
 ルーファスとケンジが睨み合っていると、カキンと小さな金属音の様な物が部屋に響く。
ロボット店員とギルが光る剣のような物でぶつかり合っていた。

「折角、ダンジョンで拾った剣も同じ剣だと切れない物ですね」
 ギルがロボット店員と攻防を繰り広げるとケンジが「またアンタか」とため息を吐く。

「ギル・アーバント、アンタもしつこいな。どの歴史でもアンタはオレに辿り着くんだよね。どうしてだろうな?」

「さぁ?どの歴史に居た私も貴方を気に入らなかっただけでしょうね」
 ニッコリとギルが笑顔でケンジに答えるとケンジがリルを自分の手から離し、手をコキコキと鳴らして首を左右に揺らせば、バキバキと骨のなる様な音がする。

『ケンジ!止めて!ケンジは弱い!絶対怪我する!』
 リルが携帯を使って騒ぐが、ケンジはヘラッと笑ってリルに「大丈夫だから」と手をヒラヒラと上げる。

「とりあえず、これはアカリの分です」
 左にスッと避けたケンジにギルの蹴りが左に思いっきり入る。
体をくの字に曲げてケンジが呻いて床に膝をつく。

「これは貴方がこの時間軸の歴史で過去にした私の友人から託された分です」
ギルの蹴りが再びケンジに入ると、ケンジが信じられないような物を見る目でギルを見上げる。
 
「痛っ・・・何で、オレが見た歴史の中では攻撃は避けられるはずなのに・・・」
 ケンジの目に動揺が見れるとギルがニコッと笑って答える。

「何度も私が貴方に辿り着いて蓄積された経験です。それに、この時間軸の歴史を貴方が動かせなくなったからですよ。リルが無事に22歳を超えられるこの歴史を貴方は私に蹴られたぐらいで無駄にするほど頭は悪くないでしょう?」

 ルーファスと朱里が驚いた顔でギルを見れば、ギルはいつも通り笑い「やれやれですね」とケンジの胸倉をつかむとパンパンと頬を叩いてこれで終わりとポイッと手を離す。 
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