黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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17章

氷竜と氷の城7

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 ハレイワ大陸のベルドーラ都市にある氷の城。
城主のヴァレリーが消えた事で数週間後には城は消えてしまうらしい。
城の中で店を構えていた人々は「今年は随分早かったな」と言いながらも冬が良いものになる事は解っているのでにこやかに店仕舞いを始めていた。
店の人々はこの後、ベルドーラの都市の自分達の店や露店に戻るらしい。
氷の城の中の方が温かく、店の土地代も要らないとあって、毎年人気の城内出店なのだとか。

「皆、早々に撤収していきますわね」
「店仕舞いの分、安くしていただけましたけど、これならば先程買ったお土産も安く買うべきでしたわね」
 そんな事を言うのはトリニア家の長女と次女でルーファスが可愛い娘の為ならばとかなりの量の買い物をしたのは持っている荷物の量で解る。

「ルーファス・・・買いすぎですよ?」
「いや、つい・・・」
 ジト目で朱里がルーファスを見上げて手に持っている荷物にため息を吐く。
ルーファスは少し耳を下げながらも手の平の鍵で荷物を仕舞い込んでいく。この鍵は【刻狼亭】の重要な鍵の方ではなく、重要な鍵は今現在リュエールが持っている。この鍵は『簡易倉庫』の様な物。
色々物が入れられて便利で手ぶらで歩けるので良いが、それにしても買い過ぎである。

「ルーシー、土産だ」
 誤魔化す様にルーファスがルーシーに小さな人形を渡す。
人形を渡されたルーシーはその人形が何か分かった瞬間に人形を両手でギュッと握って尻尾をブンブン振っていた。
ルーシーのお気に入りの絵本『メノン』シリーズの人形で主人公メノンと一緒に旅をしている白い子犬『クリュスターシ』の人形。
子供の絵本の登場人物にしては長い名前なのがネックではあるが、クリュスターシは不思議な犬でここぞという時にはヒーローの様にメノンを助けるちょっとした王子様的な役割をしている。
その為、クリュスターシは女の子には人気がある。つまり、ルーシーの憧れの王子様もクリュスターシなのだ。

「このクリュスターシのお人形どうしたんですか?」
「ここが舞台の絵本が昔あってな。今は廃版で見かけなくなったんだがここでは今も絵本の舞台という事で人形を売っているようだ」
「そうなんですか?そのお話どうして廃版になったんでしょう?」
「この城が幻の都市エルシオンに繋がっているという話がメノンの絵本で書かれていた事でな。メノンの絵本を真似してエルシオンに入ろうとして行方不明になったり死者がでたからだ」
「それは・・・物騒というか廃版になっちゃいますね・・・」

 しかし、メノンシリーズの絵本は実際にある場所や伝説などが題材として書かれている本なのだからもしかするともしかするのかもしれないと、少しばかり浪漫を残して考えてしまう。

「ルーシー良かったねー」
「あい。んふーっ」
 クリュスターシの人形を持ってコクコクと頷き、ルーファスのコートの端を持ってスリスリしているルーシーにルーファスの頬が緩んでいる。
その様子をじっと見ているティルナールとエルシオンに朱里がルーファスを突く。

「ティルとエルには何かないんですか?」
「ああ、ティルとエルにはこっちだ」
 ルーファスがティルナールに丸い人形を渡す。
丸い人形にはボタンが付いていてボタンを開けると中には色々な形の人形が入っている。

「ルーファスこれ何ですか?」
「これはパズルだ。人形同士を合わせてパズルを完成させるものだ。ティルはこうした物を弄り回すのが好きだからな」
「なるほど。知恵の輪とかずっと弄ってますからねぇ」
 ティルナールが早速床の上に人形を広げて弄り回し始めている。集中すると周りが見えなくなるのがティルナールだったりする。

「エルにはこれだ」
 エルシオンには玩具の剣を渡す。
男の子は剣とか好きだよねぇとは思うけれどエルシオンは微妙な顔で少し困った顔をしている。
「エルは怖がりだからな。これがあれば少しは怖いものもやっつけられるんじゃないか?お守りだ」
ルーファスの言葉にエルシオンが納得がいったのか「あい!」と尻尾を振り始める。
流石ルーファスちゃんと1人1人見てますね!と、朱里が良い笑顔で小さく親指を上げる。

 子供達3人それぞれが満足した顔を見てルーファスが最後に朱里の手に「アカリにはこれだ」と何かを渡す。
手の平には氷の結晶の形をしたガラス細工の髪飾りが乗せられ、朱里が横髪に着けると「似合ってる」と笑顔で言われて少しはにかみながら朱里がお礼代わりに抱きつく。

「ありがとうございます!」
「アカリも店が全て締まる前に少し見てくると良いぞ」
「ふふっ、そうします」
「ティルはあの通り夢中だから動かないだろうしな子守りはしておく」
「はーい。お願いします!」
 
 朱里が一応子供達に買い物に行くか尋ねたが、一緒に行きたがったのはエルシオンだけなのでエルシオンと手を繋いで朱里がお土産を物色しに行くと、途中でグリムレインに店先で捕まった。

「嫁、ヴァレリーの石を加工してもらったぞ」
「ありがとう。わぁ、耳飾りにしてもらったんだ」
 ヴァレリーが消える前に朱里に渡した涙の形の石をグリムレインが加工してくると言い持ち出していた物だ。
涙の形の石を銀色の金属で出来たイヤーカフスに付けてくれたらしい。
銀色の金属部分には雪の結晶があしらってあって可愛いながらもシンプル。
髪留めともお揃いに出来る感じだ。

「ヴァレリーさんがくれたこの石何だろうね?」
「エルシオンに行く鍵だ」
「エルシオン・・・」
「チビッ子の方ではない。この城から行ける幻の都市エルシオンだ」
「やっぱりあるんだ。幻の都市」
「ああ。氷属性で尚且つ許しのある者だけがいける。まぁ、今回は時期が早いから行かぬが、そのうち嫁を連れて行こう。それがあれば嫁でも凍り付くことは無い」
「あははー・・・楽しみにしてます」
 凍るの?!とは流石に言えない。そしてそんな寒い所なの?!とも言えない。
そして絵本で行方不明になったり亡くなった人が出た訳が少し判った朱里だったりする。

 ベルドーラの都市の氷の城でお土産屋で色々買い込み、部屋に戻り旅の支度をし終えると次は何所へ向かうのかと聞けば、ミルアとナルア、そしてグリムレインが口をそろえて次の目的地を話す。

「『移動遊園地』」
「常に移動しながら興行をしている遊園地『ガーデン』ですわ」
「このハレイワ大陸から少し行った場所で今まさに来ているのですわ!」

 異世界の移動遊園地とはどんなものなのか?と朱里が少し首を傾げつつも「楽しそうだね」と口にして、少しばかり三つ子から目を離さない様にしなくてはと眉を下げる。
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