黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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17章

氷竜と樽酒を

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 北のマスカン地区 グリムレインいわく『樽酒が美味い!!』という場所で、宿に付いた早々グリムレインがルーファスを連れて樽酒を飲みに行ってしまったのは仕方がない。
 朱里としてはお酒は冬リンゴのシードルで充分味わったので樽酒は男2人で大人のお楽しみとしてお過ごしくださいという感じだったりする。
なにせ、こちら子供組はスイーツバイキングというパラダイスという名の体重計が恐ろしい場所へ向かっている。
お腹のお肉は気になるけれど、甘い物は食べたい!!お酒に構っているお腹のお肉は無いのだ。

「ここのスイーツバイキングは王室御用達の美味しいケーキが盛りだくさんなのですわ」
「あっ、注意が1つあるのですわ!チョコの中に樽酒の入った物も有名なのでティル達が食べない様に気を付けてくださいませ」
「はーい。ならチョコ以外を美味しく食べましょうね!」
「「はいなのです!!美味しいスイーツをいっぱい食べるのですわ!!」」
「あーい!」
「あいあい!」
「すいーちゅー!」
 
 6人で向かった先は『フルール・フレー』という元は教会だった場所を改築してお菓子専門店にした場所で教会の名残りのあるステンドグラスが綺麗な建物だった。
 抜かりの無いミルアとナルアが予約席を1ヵ月前から入れていたという念の入れ方である。

「予約をしたミルア・トリニアですわ」
 入り口の女性店員にミルアがニコッと笑顔で話し掛けると、女性店員が「まぁ・・・っ」と驚いた様な顔でミルアとそのご一行様を見つめてから席へ案内する。
普段は気にもしていなかったが、双子と三つ子がこうも揃っているのは珍しいものだよねぇと朱里は1人うんうん頷きながら店員について行く。

 『フルール・フレー』のスイーツバイキングは真ん中の赤いカーペットの上にテーブルが置いてあり、左右に分れた席から取れるようになっている。
バイキング方式はお皿に自由に自分で好きな物を持って行くスタイルで飲み物だけ店員に注文という形になる。

 朱里達の席は8人掛けの丸いテーブルでコートを掛けられる場所がある壁側。
ミルアとナルアは素早くコートを脱ぐとアンゴラータ族の最新作の薄桃色のタートルネックに白いリボンスカートのお揃いの物で12歳の誕生日にルーファスと朱里が贈った小さな魔法反射の石の付いたネックレスをしている。
朱里と同じ様に金の蓋があり、狼の形で透かし彫りがしてある物である。

 朱里は三つ子達のコートを脱がせてコート掛けに掛けてから自分のコートを脱ぐ。
朱里は黒のタートルネックに紺色のマーメイドスカート。少しだけミルア達より大人っぽさを意識している。
そしてお馴染みのクロのネックレスもしている。

「さぁお皿は持ちましたか?欲しいものは姉上達に言いなさい。わたくしがお皿に入れてあげますから、良いですね?」
 ミルアとナルアがティルナール達にトングを片手に言い聞かせると三つ子は「あい!」とお返事良い子に答える。
トングを持たせたらきっとケーキがグチャッといわされそうなので、三つ子にはトング禁止の方向でいってもらっている。
 朱里はテーブルでお茶の番人をしている。
こういう所では荷物やコートが持ち去られても解り難そうなので1人は残っていないといけないのが悲しい所だったりする。

「王室御用達とあって可愛いお嬢様がいっぱいねぇ・・・」

 見れば上質な洋服のお嬢様方が多く、元貧乏人の朱里としては場違いな雰囲気に少しビクビクしてしまったりもする。そしてちょっぴり若い子が多くて30代後半に足を踏み入れた朱里としては若い子に紛れるのは気恥ずかしいものもある。

「教会でデザートバイキングなんて罰が当たらないかしら?元教会だから今は良いのかしら?」

 昔この世界に来た異世界人が信仰心の熱い人だったらしく、建てた物だと言われている教会で何を信仰していたかは像も何も残っていないので分からない。
ステンドグラスにしてもユリの花やラベンダーといった花ばかりで手掛かりにもならない。
朱里は無神論者なので例えステンドグラスや像があってもよくは分らないのだが。

「大丈夫ですよ。200年以上前に信者も1人もいない使われていなかった教会ですので」
「ふぇ?わっ!」
 朱里の独り言に心地よいバリトンボイスが響き、驚いて声の主を見上げると、ハニーブロンドにファイヤブルーの瞳をした20代後半と思わしき背の高い青年がニッコリ微笑んでいた。
服は以前ミールの両親が住んでいたタルアニ国の騎士団の制服を上品にした感じでゴテゴテと勲章の様な物がいっぱいついている。

「えと、教えていただいてありがとうございます・・・?」
 独り言に勝手に割り込まれただけなのでお礼をいう必要はあるのかどうかはわからないが一応お礼を言って少しだけ首を傾げる。
「いえいえ、良ければチョコレートでも如何ですか?」
 青年がそういうと執事の様なお仕着せを着た従者が白い皿に盛られたチョコレートを差し出してくる。
「どうぞ」
 執事にそう言われて、少し眉を下げて朱里は手で結構ですとストップをかける。

「いえ、お気持ちだけで結構です」

「・・・そうですか。それは残念です」

 少し青年が悲し気な表情をして「それでは」と言って軽く会釈をしてから立ち去る。
悪い事をしてしまったかな?と思いつつも、ミルア達がここのチョコはお酒入りだと言っていたのでお酒耐性の低い自分が今回は保護者を頑張らねばいけないのだから、酔ってはいけないとの心構えもあった。

「あの子達まだかかるのかしら?」
 中央のテーブルで三つ子を相手にミルアとナルアが楽しそうにデザートを選んでいるのを見て、まだかかりそうねと紅茶を飲んで待っていたところ、何やら周りの視線が気になる。

 周りの若いお嬢様方の視線がチクチクと刺さる感じがして居心地が悪いのは気のせいかな?と、少しだけ「おばちゃんが1人でここに座っているのは場違いなのかしら?子供達早く戻ってきてぇー」と心の中で思っていたりする。

「貴女、何様のつもりですの?無礼では無くて?」

 薄いラベンダー色の髪をしたザ・お嬢様!!という15歳くらいの少女が取り巻きのお嬢様を連れて少し怒りながら朱里に声を掛けて来る。
キョトンとした後で朱里が首を傾げるとお嬢様はギリッと唇を噛む。
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