黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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18章

魔法

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 手の平の上で拳程の大きさの水玉を出して、それをお湯に変えると四散させて少し湿り気を帯びた空気を乾燥魔法でカラッと乾かし、朱里がニコッと笑う。

「アカリ、すげぇなやればできるじゃねぇか」
「えへへ。魔法使いに私もなれる?」
「んーっ、そりゃどうだろうな?アカリ程度の魔法は基礎だからな」
「むぅ・・・ならハガネは魔法使い?」
「まぁ魔法系統は俺の得意分野だな」
「おお、見せてください!すごいやつ!」

 朱里が両手を広げてハガネに抱きつくと、ハガネが「仕方ねぇなぁ」と言いながらニッと笑って着物の懐から手の平に種を出し、朱里の手の平に種を何個か置くと指をくるくる回す。

「いいかー。よく見てろよ?」
「うん!どうするの?」

 種から芽が出ると一気に成長して花を咲かせ、ハガネが花の上で手を回すと、花が無くなり、朱里が首を傾げると朱里の肩をハガネが指さし、朱里が肩を見るとカラフルな玩具の鳥が肩に数匹とまっている。

「わぁ!小鳥、いつの間に?!」
「そりゃあ、一流の魔法使いだからな」
 驚く朱里にハガネが肩の鳥に手を振ると鳥は花冠になり、ハガネが朱里の頭の上に花冠を乗せる。
パチパチと朱里が手を叩くとハガネが朱里の手の平に饅頭を1つ乗せる。

「ほれ、オヤツでも食っとこうぜ」
「うん。ありがとー」
 饅頭を口にした朱里がむふーっと笑顔を向けて、ハガネはお茶を淹れて頬杖をつきながら朱里に笑いかける。

 そんな朱里とハガネのやり取りを半目で見ているのは【刻狼亭】の事務員達である。
今日は『堕とし札』の日でルーファスとリュエールとシュトラールの3人で旅館と料亭を担当して厄払いをする為に朱里は料亭の事務所に置かれ、ミルアとナルアは料亭の手伝いで駆り出され、三つ子はキリンとフィリアが冬の露店市場に連れて行っている。

「今のは魔法というより、手品ですね」
「まぁ、小さい子には魔法も手品も同じでしょうしね」

 朱里が7歳頃の記憶まで戻っている事は伝えられているので、従業員も子供として見ている。
そして、子供故の柔軟性なのか魔法に関しては朱里は教えた事を素直に覚えるので魔法が使える様になっている。
親兄弟が殺されている事を忘れている事で、心が傷ついていない分出来ているのかもしれないとは思うが、そこはハガネは気にせずに朱里に色々覚えさせていっている。
魔法を使う感覚を覚えさせておけば、記憶が戻っても後々役に立つかもしれないという親心の様な物である。

「アカリさん、クッキーも食べますか?」
「食べるー!」
 小鬼がクッキーの入った筒を転がして持ってくると朱里が小鬼を両手で拾い上げる。
自分の膝の上に乗せて、クッキーの筒を開けて1枚小鬼に渡すと自分の口にも1枚入れる。

「サクサクで美味しいねー」
「これに冬リンゴのジャムつけるとまた一段と美味しいですよ」
「あのジャム美味しいよねー」
「・・・あれ?アカリさんはジャムの事覚えてるんですか?」
「ん?んー・・・わかんない」

 コトンと、白い果肉の入った冬リンゴのジャムの瓶が朱里と小鬼の前に置かれ、テンが蓋を開けるとスプーンをジャムの瓶に入れてから自分の机に戻っていく。

「テンありがとー」
「テンさんありがとうございます!アカリさんジャムつけましょ!」

 小鬼がジャムをスプーンですくい上げて朱里のクッキーにつけて、朱里も小鬼のクッキーにジャムをつけて2人でサクサク食べ始め、満足そうに笑って食べる2人にハガネとテンが少し眉を下げて笑う。

「小鬼ちゃん、私ねお家に帰ったらお人形のお洋服いっぱい持ってるよ」
「・・・僕は着せ替え人形じゃないですよ?」
「可愛いのいっぱいあるよ?」
「ですから僕は着せ替え人形じゃないです」
「えー、絶対可愛いよ?」
「むぅ、アカリさんは子供の頃はけっこうワガママっ子だったんですね」
「むぅ、小鬼ちゃんお洋服いっぱい着ようよー」

 朱里が小鬼をむぎゅっと抱きしめながらイヤイヤと首を横に振ると小鬼も首を横に振り押し問答を繰り返していると、スポンとテンに小鬼を後ろから取られて朱里が「あーっ」と恨みがましい目でテンを見上げると、笑顔を返されて朱里が「ピィッ!!」と悲鳴を上げてハガネの腕にしがみ付いて隠れる。

「テン怖い・・・」
「そりゃあ、アカリがしつけぇのが悪ぃって」
「むぅ~、お家帰ってお人形さんで遊びたい・・・」
「まぁ旦那達の『堕とし札』が終わるまでは屋敷にゃ帰れねぇから、もうちっと我慢だな」
「違うの!私のお家のお人形さんが良いの!お父さんが買ってくれたの・・・うさぎさんのおっきいのが良い・・・ぐすっ、お家帰りたい・・・っ、ふぇ、ぐっ」
「泣くなよアカリ・・・」

 困った表情でハガネが朱里の頭を撫でながら「どうしたもんかね・・・」と呟いていると事務所のドアを勢いよく開けてシュトラールが入って来る。

「ここの『堕とし札』もやりに来たよ!あっ、母上だ!母上泣いてるの?頭ぶつけたって聞いたけど大丈夫?」
 朱里の記憶が抜けてからシュトラールだけ『踊り子』関係の救護班で忙しく会いに来ていなかったのである。
シュトラールが朱里の側まで行って、「母上!」と元気に声を掛ける。

「記憶無いって聞いたけど、どう?オレの事覚えてる?」

 尻尾をパタパタ振りながらシュトラールが屈託のない笑顔を向けると朱里がハガネの腕から顔を上げてシュトラールを見上げる。

「・・・うさんくさい・・・」
「はい?!母上!うさんくさいって何?!酷くない?!」
「ふふっ、お兄さん犬みたい。ふふふ」
「酷いよー。母上~っ、もう、でも母上は泣いてるより笑ってた方が良いよ」
「ふふっ、ルーファスさんのお顔に似てるけど、お兄さんは少し頼りないね」
「母上、それ褒めてないよね?!オレなんかけなされてる?!」
「ぷっ・・・あははは、お兄さん面白い」

 朱里の笑い声にハガネが少しホッとすると、シュトラールが「もう酷いよー」と言いながら『堕とし札』を交換して回り、朱里が「ついて行くー」とシュトラールの後をついて行き、結局ハガネも付き合わされることになる。
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