黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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18章

大砲は北へ

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 ゴウンゴウンと大きな音が温泉大陸に響き渡り、温泉大陸に設置されている固定大砲が北を向く。
手入れもこの際しっかりしようという事で、ドワーフの職人達も協力して大砲を整備している。
リュエールから「エルフのネリリスの最後の予言で4の砲は北を向かせろ」という言葉を聞いて、「この4つの砲台の事だと思う」と言い、北に向ける様に頼まれて固定しているところなのである。

「久々に大砲が動くところを見たな」
「ここ数年動かして無かったですからね」

 ルーファスとシュテンが大砲を見上げ、【刻狼亭】の裏庭で走り回るティルナール達を追い駆ける朱里が「こらぁー!」と声を上げている。
ようやく3月に入り、冬眠や蜜籠りから従業員が復帰して【刻狼亭】もキチンと回り始めている。
リュエールとキリンも温泉大陸へ戻り、今は悪阻もそんなに激しくなく、食べ物に少し好き嫌いが出るくらいで治まっているらしい。

「もぉー、悪い子!駄目でしょ!危ないから建設中は立ち入り禁止です!」

 朱里の小言にティルナール達三つ子はキャッキャッと声を上げて喜んでいる所を見ると、朱里の小言は三つ子には効いていないらしい。

 最近の三つ子は言葉を覚えよく喋るのと、身体能力が上がりやすい年齢なのもあってウズウズと体を動かすのが止まらない時期でもある。
そろそろ三つ子を連れて狩りでも行って色々覚えさせないといけない時期かとルーファスは思っている。
このままでは力加減が判らずに朱里が怪我をすることになりかねない。

 力を扱う上で一番やらなくてはいけないのが、相手を見極める事。
力を存分に使って良い相手と、力を加減しなくてはいけない相手を覚えなければ、咄嗟に手を伸ばした時に朱里などはポキリと骨を折られそうでもある。
獣人の力と人族の力では、獣人の方が力が強い為に、子供と言えど気を付けなくてはいけない。

「ティル!エル!ルーシー!お前達いい加減にしないと痛い目を見るぞ!」
「はーい。ちちうえ」
「わかったー」
「でもあそびたかったんだもん!」
「遊ぶなら別の場所にしなさい!ここは木材があって危ないの!」
「「「ぶぅー」」」

 狼の習性なのか群れのリーダーには従うらしく、三つ子もルーファスには素直に言う事を聞き、朱里には少し反発的である。
第一次反抗期の様な物なので、イヤイヤ期を入れたら第二次反抗期かもしれないが、少しだけ言う事を聞かない事が増えている。
成長していくうえで、まぁ多少の反抗は朱里も容認しているが、生意気盛りになった物だと渋い顔をしてしまう。

「ほんの少し前までは可愛かったのに・・・」

 ティルナールは小さなマッドサイエンティストでも目指しているのか、よく草木をいじっては怪しげな草汁を作ってクロやササマキに付けたりするので魔獣にはほどよく逃げ回られている。
ルーファスいわく、一番好奇心旺盛なので冒険者タイプか研究者タイプらしい。

 エルシオンは少しおどおどした泣き虫でティルナールとルーシーに振り回されて付き合って騒いでいる節がある。基本、1人ならば甘えん坊で大人しく本を読んでいる様な子である。
ルーファスいわく、怖がりな分、危険感知能力が高いので商人等やらせてみると良いかもしれないらしい。

 ルーシーは良くも悪くもおしゃまな女の子。ルーファス譲りというより、ルーファスの母親譲りの顔立ちは既に4歳で完成形態に近い気もするが、大人になれば確実にモテそうな高貴な顔立ちをしている。
ただ、ミルアやナルアと同じく夢見る女の子でもある。ルーシーの場合は絵本の中の王子様に憧れる様な物ではあるけど、冒険絵本が多いのでどうなるやらである。
ルーファスいわく、お転婆なところをどうにかしないと顔立ちと立ち振る舞いにギャップが出そうな将来が怖いそうだ。空想するのが好きなルーシーは物書きにでもなれば良いのではないかとも言っていた。

「旦那様、砲台の4つのうち3つまで整備が完了したみたいです」

 砲台から魔法でパンッと空に打ち上げられた火の玉を確認して、あと1台砲台の整備が終われば固定砲台はいつでも砲撃出来る準備万端状態になる。
シュテンがそれを確認して、港の方へも目を向ける。
港の沖の方でもパンッと魔法の火の玉が上がる。

「【刻狼丸】の大砲も整備が終わったようだな」
「はい。これで海でも襲撃があれば対応出来ますね」

 高速船【刻狼丸】は防御特化の船なので、今回大砲を取り付けた。
男のロマン半分と言う感じではあるらしいが・・・ネリリスの予言の4の砲がよくは分らないが、備えあれば患いなしなのである。

「しかし、砲台なんて予言とはいえ物騒ですね」
「ああ。しかし降りかかる火の粉は払わねばならんからな」

 嫌な予言ではあるが、目の前で子供達に「メッ!」と怒っている朱里の姿を目にして、何があっても守らなければならないのは番と子供達で、北に大砲を向けて助かるというならば全力で迎え撃つ準備をするまでなのである。

「それにしても北ですか・・・」
「北は旅行で行ったくらいで特に何か恨みをかうような事は無いんだがな」

 北に位置するのは氷山の多い雪に閉ざされた大陸ばかりでグリムレインが好き好んで行くくらいしか無いだろう。
春や夏のほぼない国。
南国のミシリマーフ国が冬が3日しか無い様に北の国も春や夏が数日しか無い様なものなのだ。

「面倒な事にならなければ良いんだがな」
「そうですね。何だかんだで温泉大陸は襲撃に遭いやすいですからね」
「まぁこの大陸はまだ土地が余っているからな・・・やれやれだ」

 温泉大陸の一部が栄えているだけで他はそのまま手付かずのままの土地が多く、魔力を多く帯びた土地がそのままなのは他の国としては喉から手が出るほど欲しいらしい。
温泉の効果や食べる物にも魔力が豊富に出る。大陸の人間が飢えない程度の自給自足の生活が出来る分しか野菜などは作っていない。
輸出する事も無い為に他国から目を付けられている事かもしれない。

 しかも今は朱里やありすといった異世界人の【聖域】や【聖女】といった特殊能力者がいる為に温泉大陸の人間は健康で尚且つ2人の生み出す生産物は売れている為、経済的も程よく回してくれているので過疎る事無く新しい物を取り入れながら発展していっている。

 狙われやすい土地でありながらも、生活する上では食うに困らず健康面も保証されているので温泉大陸の住民が外の大陸へ移住する事は少ない。
むしろ一度甘い蜜を覚えてしまった後で、外の大陸で生きて行くのは大変で追い出されては困るという感じでもある。

 新しい住人のドワーフ達や東国の職人が増えて、技術向上も見込まれている。
温泉大陸が狙われる要素は多々あるが、その1つに朱里の存在がある以上、手を緩めるわけにはいかない。

「ルーファス、お昼ご飯の準備してますねー!」

 朱里が子供達と手を振って笑う。
この笑顔を曇らせない為に手段など択ばない。

「ああ、砲台の整備が終わったら行く」
「うん!子供達のお腹の虫が大合唱する前に終わると良いね」

 子供達と「お腹が空いたら帰る~」と歌いながら朱里が出て行く。
リュエールやシュトラールの所に自分の孫となる子供が生まれる分、ルーファスは守る者がまた増える事になるが、温泉大陸の当主としては「安心して任せておけ」と言うしかない。


 パンッと最後の砲台からも魔法の合図が上がり、大砲全ての整備が終わりを告げた。
シュテンが空に狐火を合図に打ち上げ、空砲が空に上がる。
ドォーンと4発上がり、各大砲から魔法で合図があり、ルーファスとシュテンが頷く。

「稼働確認はおおむね大丈夫の様ですね」
「後はなる様になるだろ」

 温泉大陸の住民が「また何かあるのかねぇ?」と、いつもの様に苦笑いしつつ、旅行客にいつもの様に「いらっしゃい温泉大陸へ」と声を掛けていく。
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