黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
577 / 960
18章

大砲は北へ

しおりを挟む
 ゴウンゴウンと大きな音が温泉大陸に響き渡り、温泉大陸に設置されている固定大砲が北を向く。
手入れもこの際しっかりしようという事で、ドワーフの職人達も協力して大砲を整備している。
リュエールから「エルフのネリリスの最後の予言で4の砲は北を向かせろ」という言葉を聞いて、「この4つの砲台の事だと思う」と言い、北に向ける様に頼まれて固定しているところなのである。

「久々に大砲が動くところを見たな」
「ここ数年動かして無かったですからね」

 ルーファスとシュテンが大砲を見上げ、【刻狼亭】の裏庭で走り回るティルナール達を追い駆ける朱里が「こらぁー!」と声を上げている。
ようやく3月に入り、冬眠や蜜籠りから従業員が復帰して【刻狼亭】もキチンと回り始めている。
リュエールとキリンも温泉大陸へ戻り、今は悪阻もそんなに激しくなく、食べ物に少し好き嫌いが出るくらいで治まっているらしい。

「もぉー、悪い子!駄目でしょ!危ないから建設中は立ち入り禁止です!」

 朱里の小言にティルナール達三つ子はキャッキャッと声を上げて喜んでいる所を見ると、朱里の小言は三つ子には効いていないらしい。

 最近の三つ子は言葉を覚えよく喋るのと、身体能力が上がりやすい年齢なのもあってウズウズと体を動かすのが止まらない時期でもある。
そろそろ三つ子を連れて狩りでも行って色々覚えさせないといけない時期かとルーファスは思っている。
このままでは力加減が判らずに朱里が怪我をすることになりかねない。

 力を扱う上で一番やらなくてはいけないのが、相手を見極める事。
力を存分に使って良い相手と、力を加減しなくてはいけない相手を覚えなければ、咄嗟に手を伸ばした時に朱里などはポキリと骨を折られそうでもある。
獣人の力と人族の力では、獣人の方が力が強い為に、子供と言えど気を付けなくてはいけない。

「ティル!エル!ルーシー!お前達いい加減にしないと痛い目を見るぞ!」
「はーい。ちちうえ」
「わかったー」
「でもあそびたかったんだもん!」
「遊ぶなら別の場所にしなさい!ここは木材があって危ないの!」
「「「ぶぅー」」」

 狼の習性なのか群れのリーダーには従うらしく、三つ子もルーファスには素直に言う事を聞き、朱里には少し反発的である。
第一次反抗期の様な物なので、イヤイヤ期を入れたら第二次反抗期かもしれないが、少しだけ言う事を聞かない事が増えている。
成長していくうえで、まぁ多少の反抗は朱里も容認しているが、生意気盛りになった物だと渋い顔をしてしまう。

「ほんの少し前までは可愛かったのに・・・」

 ティルナールは小さなマッドサイエンティストでも目指しているのか、よく草木をいじっては怪しげな草汁を作ってクロやササマキに付けたりするので魔獣にはほどよく逃げ回られている。
ルーファスいわく、一番好奇心旺盛なので冒険者タイプか研究者タイプらしい。

 エルシオンは少しおどおどした泣き虫でティルナールとルーシーに振り回されて付き合って騒いでいる節がある。基本、1人ならば甘えん坊で大人しく本を読んでいる様な子である。
ルーファスいわく、怖がりな分、危険感知能力が高いので商人等やらせてみると良いかもしれないらしい。

 ルーシーは良くも悪くもおしゃまな女の子。ルーファス譲りというより、ルーファスの母親譲りの顔立ちは既に4歳で完成形態に近い気もするが、大人になれば確実にモテそうな高貴な顔立ちをしている。
ただ、ミルアやナルアと同じく夢見る女の子でもある。ルーシーの場合は絵本の中の王子様に憧れる様な物ではあるけど、冒険絵本が多いのでどうなるやらである。
ルーファスいわく、お転婆なところをどうにかしないと顔立ちと立ち振る舞いにギャップが出そうな将来が怖いそうだ。空想するのが好きなルーシーは物書きにでもなれば良いのではないかとも言っていた。

「旦那様、砲台の4つのうち3つまで整備が完了したみたいです」

 砲台から魔法でパンッと空に打ち上げられた火の玉を確認して、あと1台砲台の整備が終われば固定砲台はいつでも砲撃出来る準備万端状態になる。
シュテンがそれを確認して、港の方へも目を向ける。
港の沖の方でもパンッと魔法の火の玉が上がる。

「【刻狼丸】の大砲も整備が終わったようだな」
「はい。これで海でも襲撃があれば対応出来ますね」

 高速船【刻狼丸】は防御特化の船なので、今回大砲を取り付けた。
男のロマン半分と言う感じではあるらしいが・・・ネリリスの予言の4の砲がよくは分らないが、備えあれば患いなしなのである。

「しかし、砲台なんて予言とはいえ物騒ですね」
「ああ。しかし降りかかる火の粉は払わねばならんからな」

 嫌な予言ではあるが、目の前で子供達に「メッ!」と怒っている朱里の姿を目にして、何があっても守らなければならないのは番と子供達で、北に大砲を向けて助かるというならば全力で迎え撃つ準備をするまでなのである。

「それにしても北ですか・・・」
「北は旅行で行ったくらいで特に何か恨みをかうような事は無いんだがな」

 北に位置するのは氷山の多い雪に閉ざされた大陸ばかりでグリムレインが好き好んで行くくらいしか無いだろう。
春や夏のほぼない国。
南国のミシリマーフ国が冬が3日しか無い様に北の国も春や夏が数日しか無い様なものなのだ。

「面倒な事にならなければ良いんだがな」
「そうですね。何だかんだで温泉大陸は襲撃に遭いやすいですからね」
「まぁこの大陸はまだ土地が余っているからな・・・やれやれだ」

 温泉大陸の一部が栄えているだけで他はそのまま手付かずのままの土地が多く、魔力を多く帯びた土地がそのままなのは他の国としては喉から手が出るほど欲しいらしい。
温泉の効果や食べる物にも魔力が豊富に出る。大陸の人間が飢えない程度の自給自足の生活が出来る分しか野菜などは作っていない。
輸出する事も無い為に他国から目を付けられている事かもしれない。

 しかも今は朱里やありすといった異世界人の【聖域】や【聖女】といった特殊能力者がいる為に温泉大陸の人間は健康で尚且つ2人の生み出す生産物は売れている為、経済的も程よく回してくれているので過疎る事無く新しい物を取り入れながら発展していっている。

 狙われやすい土地でありながらも、生活する上では食うに困らず健康面も保証されているので温泉大陸の住民が外の大陸へ移住する事は少ない。
むしろ一度甘い蜜を覚えてしまった後で、外の大陸で生きて行くのは大変で追い出されては困るという感じでもある。

 新しい住人のドワーフ達や東国の職人が増えて、技術向上も見込まれている。
温泉大陸が狙われる要素は多々あるが、その1つに朱里の存在がある以上、手を緩めるわけにはいかない。

「ルーファス、お昼ご飯の準備してますねー!」

 朱里が子供達と手を振って笑う。
この笑顔を曇らせない為に手段など択ばない。

「ああ、砲台の整備が終わったら行く」
「うん!子供達のお腹の虫が大合唱する前に終わると良いね」

 子供達と「お腹が空いたら帰る~」と歌いながら朱里が出て行く。
リュエールやシュトラールの所に自分の孫となる子供が生まれる分、ルーファスは守る者がまた増える事になるが、温泉大陸の当主としては「安心して任せておけ」と言うしかない。


 パンッと最後の砲台からも魔法の合図が上がり、大砲全ての整備が終わりを告げた。
シュテンが空に狐火を合図に打ち上げ、空砲が空に上がる。
ドォーンと4発上がり、各大砲から魔法で合図があり、ルーファスとシュテンが頷く。

「稼働確認はおおむね大丈夫の様ですね」
「後はなる様になるだろ」

 温泉大陸の住民が「また何かあるのかねぇ?」と、いつもの様に苦笑いしつつ、旅行客にいつもの様に「いらっしゃい温泉大陸へ」と声を掛けていく。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。