黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
610 / 960
19章

本当の星降り祭り

しおりを挟む
 胸に針で刺した様な痛みがチクチクとし始め、【怨嗟】が出始めている事に気付く。
ありすを見ればありすも胸を押さえている。
時間が無い事だけは確かな様で、シュトラールも自分を回復しながらの魔石崩し切りに疲労の色は隠せていない。
ケルチャが木々でバリケードを再度してくれているおかげで黒い魔獣達と戦う事はひとまず回避できている。
倫子はひたすら魔石を斬っているがありすや朱里ほど上手く切り取れているわけではないので疲れが出てきていた。

「嫁、どうする?聖水を今作り直すか?」
「私が水玉を出すから、ありすさんにそれを混合してもらって聖水にしてもらえればお互いに、効果が付くだろうから少しは時間稼ぎできるかも?」

 グリムレインと朱里が水玉を作っている間に、ありすが胸を押さえて蹲って倒れ、リロノスが朱里の特性ポーションを飲ませて【怨嗟】の浄化をしたものの、気を失っていて聖水作りでは無さそうだと朱里のみで聖水作りをしてグリムレインが再びドームを巡らす。

「アカリは大丈夫か?」
「大丈夫です。ありすさんは【聖女】の力がいつも漏れている状態だから少なくとも私はその影響を受けてありすさんより持ちがいいんです」

 ルーファスの耳が心配そうに下に下がり始めているのを笑顔で大丈夫だと言い切る。
自分はまだ頑張れる大丈夫、そう思っている矢先にシュトラールが「なにこれ⁉」と声を上げた。

「どうしたのシューちゃん⁉」
「何かあったのか⁉」

 朱里とルーファスの声にシュトラールが耳を下げて魔石を指さす。
大分、小さくなってきた魔石ではあるが、まだ4,5メートルは高さがある。
流石に上に登らねばわからないとグリムレインが朱里とルーファスを手に持って飛び上がると、二人の眼下には魔石の上に立つシュトラールの足元に赤黒い1メートル程の石が魔石の中にあった。

「あれは、魔石の核だな……」
「魔石の核?」
「おそらくアレを壊せば魔石も壊れる」
「シューちゃん!それ切れる?」

 シュトラールが首を振って「無理!硬くて切れない!」と両手を上げる。
魔石の上にルーファスと朱里が立つとキィィンとシュトラールが持っていた刀が鳴り始めは激しく動き、シュトラールが慌てて両手で押さえる。

「母上、どうしよう⁉オレじゃそろそろ限界なのかも?」
「わかった。母上に刀を貸して」
「いいの?大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど、大丈夫!シューちゃんの腕が切られちゃうよりマシ!」

 刀の刃先を見ない様に柄だけを見て手に取り、昔切られた腕が違和感の様に疼くのを朱里が顔を歪めながら自分を抑え込む。
恐怖心はもう心の中にずっとある。
乗り越える勇気が無いのは乗り越えなくても周りが自分を助けてくれていた環境に置いてもらっていたからだと思いながら、なけなしの勇気を振り絞って刀の柄を両手で握りしめると、ルーファスが手の上に手を乗せてきた。

「アカリの手の上からならオレでも協力は出来る」
「ルーファス……」
「アカリは目を瞑っていろ。刀の型は覚えたからアカリの負担にならない程度に動かす。アカリは刀を握って力を抜いていろ」
「私も、私も頑張ります!」
「……無理はするな。わかったな?」
「はい」

 刀を構えて赤黒い核を薙ぎ払う様に一閃入れると、刀が砕け、それと同時に周りの魔石が砕けて勢いよく飛び散りそれは規模を広げて雪樹の森から外へ、空へと飛び散りギルが「これが本当の星降り祭りですよ!!歴史的瞬間です!!」と一人はしゃいだ声を上げた。

 魔石は約二時間飛び散り続け、残ったのは半分欠けた赤黒い核だった。

「刀……折れちゃった」
「核どうする?」

 核を前に朱里が折れた刀の柄を持ちながら「あちゃー」と言い、倫子が持っている刀で核を切ろうと倫子が切りつけたが、刀が砕け散り「あわわわ」と声を上げ、残ったのは朱里の持つ小刀だけとなった。
カイナが既に頭を抱え「月刀ー山茶花ーがぁあぁぁ」と蒼白な顔で先祖の刀に悲鳴を上げているが、三等分にされた時点で月刀ー山茶花ーは砕けていたともいえる。

「えいっ!」

「「「え?」」」

 朱里が核に小刀を刺したのを見て一同が声を上げると、核がミシミシと音を立てて砕け散り、小刀も砕け散った。
小さくカリンカリンと何かがこすれ合うような音を立てて核が空気に消えていく。

「私の小刀も砕けちゃいました」
「でもまぁ、核も砕けたから相打ちじゃないの?」

 朱里が小刀の柄を持ちながら言い、シュトラールの呑気な言葉に一同が唸る。
ギルの話では数百年単位で魔獣の王は現れ、世界の浄化をするのだとしたら、遠い未来で再び現れるのだろう。
しかし、伝説の刀は砕け散っている。
子孫の為に残せるのは砕けた刀を集めれるだけ集めて、未来の技術で復元してもらうしかないだろう。
温泉大陸のドワーフ達が直せると良いが、流石に三等分にしただけでも大変だったのに、これを復元は難しいだろう。

「まぁ、とりあえず……もう【怨嗟】も無いし、魔石も世界に飛び散った。魔獣達も時期に治るだろう。魔石もまた元に戻るだろうしな」
「一件落着だね」
「じゃあ、皆帰ろうか!」

 ローランドとグリムレインとケルチャの背中に従業員やリロノス達が乗り、ネルフィームに朱里とルーファスとギルが乗り込んだ。

「私は寄りたい場所があるから、ローランドとグリムレインとケルチャは先に行っていろ。私の飛ぶ速さなら直ぐに追い越すしな」

 ネルフィームが同朋三人に先に行けと急かし、三人、というより、グリムレインとケルチャが「嫁が」「アカリが」と騒いでいたが、追い抜かされる前に温泉大陸に行って、帰って来た朱里を待ち構える準備をした方が朱里が喜ぶだろうとネルフィームに言われてすごすごと飛び立って行った。

「ネルフィーム、寄りたい所ってどこなんです?」
「主は何となく察しはついているだろう?」
「まぁ、何となくはね」

 ネルフィームがゆっくりと飛びながら、カイナが寝かされていたダークエルフが昔住んでいた小屋へと朱里達を連れて行った。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。