黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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19章

刻ーとき―

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 静まり返った森の中に忘れ去られたダークエルフの小屋の中で手前の部屋にルーファスとギルを残し、ネルフィームが朱里を連れて奥の部屋へ行く。

「主達は聞き耳を立てそうだからこの部屋には結界を張って音を遮断しておこう」
「聞かれたくない話なんですか?」
「聞かれたくないというより、二人が聞けば未来が多少変わってしまうかもしれないからな」
「未来……ですか?」
「今から私が話す事は未来の話だ」

 ネルフィームは薄暗い部屋の中に黒炎で青白い明かりを付けて、この部屋に置かれていた自分の鱗を朱里の手に乗せる。
朱里が鱗を指で持って黒炎に翳しながら見れば『刻』の文字。

「ネルフィームこれは何の鱗なんですか?」
「私の鱗だ。未来の」
「未来のネルフィームの鱗?こくって字がありますけど……」
「それは『こく』ではなく『とき』だ」

 そういえば、刻狼亭で慣れ過ぎて『こく』と呼んでばかりいたが、『とき』とも呼び事はあったかも?と朱里が思い出して頷く。

「私達はこの小屋でカイナを見付けた。カイナは覚えていなかったようだが、おそらくアカリが看病していたのだろう」
「私は何もしてないですよ?ここに来たのも初めてですし……」
「それはそうだ。この『刻』の文字の通り、未来のアカリがこの時代でカイナを救って、私や主をこの小屋へ導いた」

 少し唇に指を付けて朱里が「ケンジの時を移動する機械……」と呟きネルフィームが頷く。
しかし何故自分がここでカイナを助けていたのかは謎である。
確かにカイナは知り合いではあるが、それ程親しいわけではない。
何より、刀の事もワヴィナスが居れば通じた事で、言っては悪いが、カイナが生きていようと死んでいようと関係は無かった様にも思う。

「おそらく未来で何かあって必要な事だったのだろうな」
「それは何でしょうね?」
「それはもう少し時が経たなければわからない事だろうな」
「でも私が未来の事を知ってしまってもいいんでしょうか?」
「私の鱗がメッセージとして置いてあったという事は、アカリにこの場所を覚えさせろと言う事だ」

 自分の鱗が置いてあった場所を爪でコツコツと叩いてネルフィームが朱里に首を傾げて見せる。
朱里もこの部屋とネルフィームが叩いた場所を覚える様に見て頷く。

「未来の私は何か言わなかったんですか?」
「一言も話さず、ここへ導いたらいつの間にか消えていた」
「未来の私は説明不足ですね……もし私が未来でここに来ることがあれば説明の1つでもしておきたい所です」
「未来の事は喋れば喋った分、変わってしまう。だから喋らなかったんだろう」
「くぅっ、リルさんは喋れなかったからセーフという事だったのかしら?」

 未来からケンジに過去へ連れ去られ、この時代で目を覚まし、そして未来へ帰って行った朱里によく似た黒狼族の子孫で生まれつき話せない子、それがリルだ。
リルはあれからアルビーと結婚して上手くやっているだろうか?
未来の事は解らないが、あの子が幸せにやっていてくれたらと思う。
話す事で未来が変わるというが、リルは紙に言葉を掻いていたことはノーカウントなのだろうか?

「まぁ、これで時間を移動する機械は完成する事が証明されたな」
「そうですね……でも、リルさんにしてもそうですけど、私に似た子孫って可能性は無いかな?リルさんが初めに私にアリアさんとか言ってたし」
「そうだな。あるかもしれんが、あれはアカリに私は思えた」
「まぁ、考えても未来の事は解らないし、議論するだけ無駄だよね」

 朱里とネルフィームが部屋から出るとルーファスとギルが部屋のドアの前で耳をピンと立てていたのを見て二人は「何をしているのか」と胡乱な目でギルとルーファスを見る。

「これはルーファスが気になると言いまして!」
「なっ!ギル叔父上が先にドア越しに聞き耳を立てていたんだろ!」

 醜い言い争いを始めた二人を見てネルフィームが「置いて帰りたくなってきた」と呟き、朱里が口元を手で押さえながら笑って、ようやく四人は帰る事になった。

 ネルフィームが悠々と飛びながら、薄暗くなっていく空を見上げてルーファスが朱里を毛布で包み、毛布の中で朱里がルーファスの胸に頭を擦り付けて笑う。

「魔石そんなに取れなかったけど、砕けて飛び散った分は何処まで飛んでいったんだろうね」
「それは解らんが、大地に魔石の欠片が大きく飛んできた土地は豊かな土地になるからな、乾いた土地に大きい欠片が飛んで行ってくれればいいんだろうけどな」
「なら私やありすさんや倫子さんが削って袋に入れた分は温泉大陸や倫子さんの住んでいる場所に埋めると良いかもしれないね」
「そうだな。それに雪樹の森にかなり大量に砕け散った欠片があるからダークエルフ達も自分達の故郷を再建出来るだろうし、これから生まれて来る子供達は魔石の影響で魔力の強い子が生まれるだろう」
「サザンさんが【勇者】として語られると良いですよね」

 獣化して話を聞いていたギルが顔を上げて小さく欠伸をする。

「次に魔獣の【王】が生まれる時の予想も立ちますし、この時代はある意味、いい時代ですよねぇ。こうも【病魔】【魔果】が連続できて、細かく言えば、【病魔】の前に流行り病もありましたし、夏には猛暑で流行り病もありましたし、兆候がある事で世界を浄化するシステムである【王】が動き出すんですから。歴史にしっかり刻み込んで未来の人々へ残ると良いんですけどねぇ」

 ギルの言葉にネルフィームがフッと声を出して笑って「私達ドラゴンがこの歴史を覚えた。この事を伝えていこう」と話す。


 未来で再び【王】が現れた時のドラゴン達の会話は以下の物だった。

『だから我々は予兆の様に流行り病や人々が多く亡くなった時に魔獣の【王】が出現すると言っただろう?【王】になる前に倒せと言ったのに……。過去に【王】を倒した武器は東国の管理だったが、【勇者】の称号を持った王が【王】を倒せずに死んだ後で、温泉大陸に預けられたが、【王】を討った時に砕け散った。打ち直したが管理する東国の王に子孫が居ないせいで受け継がれず、武器は東国の手によって火山に葬られた。【勇者】の称号をダークエルフに取られた事で腹を立てていたからの。武器を扱える温泉大陸の人間にまで【勇者】の称号を取られるのが嫌だったのだろうな。許容の狭い奴等よの』

『っと、それは別の時間軸の話か。修正が入ったのだったな。忘れておったわ。東国の王を助けて……そうだそうだ、武器は打ち直して東国の王の子孫に受け継がれたのだったな。しかし、問題は扱える人間がおらん事よの。異世界人はもうおらんからの。お前達では扱えん。別の方法を探すがいい』

『私達の知識を借りたい?うーん。魔界を繋ぐ宝石が昔あった気がするけどなぁ。魔界に【王】を飛ばしてしまえば良いと思うけど、何処かで見たんだよねー……すごく懐かしい子が持ってた気がするんだけど、誰だったかなぁ』

『アカリよ!アカリが持ってたわ!』
『ああ!そういえばいつまでも劣化しない人形があったね。アレかぁ……でも、アレ何所に置いたんだっけ?』

『久々にアカリの所で酒盛りでもするか?』
『あっ、良いね!100年物の寝かせておいたお酒があるよ!』
『それなら飲んだかもしれない』
『何てことするのー!100年物がー⁉』
『暴れないの!危ないわね!』

『え?魔界の宝石の在り処?そんなの自分達で探しなよ。私達は忙しいの』
『アカリはドラゴン・マスターって言えば有名な子。ヒントはあげたんだから頑張って』
『無責任?はぁ?こっちは忠告したのに、耳を貸さなかったあんた達が悪いんでしょ?』

『温泉大陸の当主の伝手を紹介してほしい?んなもの自分達でどうにかしなよ』
『困った時だけ温泉大陸の当主を頼るの止めときなよ。当主は番見つけたばかりで今は何処にも動きたくないって駄々こねて俺等がここに来る羽目になったくらいだしね』
『アイツ本当にドラゴン使いが荒い』
『こんなにコキ使われるのは誰ぶりかね?』
『一番はアカリじゃない?』
『あー、確かに』

 ドラゴン達がドッと笑い、結局、魔界の宝石は温泉大陸の当主のみが開けられるロックヘルの倉庫だった為に文句を言いながら引きずり出された当主だった。
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