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20章
黒狼亭⑤
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浜辺に居ても体が潮風でベタベタするだけなので、【刻狼亭】が本来あった場所で座って、今後の事を話し合っていると、くぅー……とお腹が鳴り、ルーディクスさんが「何か食べ物が無いか探してくる」と、探しに行った。
食べ物はあるにはあるんだけど、何があるか判らないから、一応、万が一に備えて、ここで採れる物があるなら採ってもらった方が良いかもしれないと、調味料だけ用意して、後はルーディクスさんに任せた。
私の持って来た道具の中に男物の着物もあったので、チクチクと縫いながらルーディクスさんが羽を出せる様に背中に切れ目を入れて縫っていく。
お裁縫具箱はハガネに入れられた物だったけど、あって良かった。
流石、私の従者なだけはある。
「ハガネ……」
まだ1日も経っていないのに、一人で心細くなる。
時代が違うから、私にはハガネもグリムレインもエデンもケルチャもケイトも誰一人として繋がりが無くなってる。
ルーファスとの繋がりも無い。
寂しさにじわりと涙が出て、針を持つ手が見えずに、指に赤い粒が出来る。
「っ……。痛いなぁ……」
指を口に入れて鉄錆びた味に涙がまた滲む。
心の中がストンと何も無いようで誰でもいいから側に居て欲しい。
「泣いているのか?」
ルーディクスさんの声に肩がビクッと震えて、涙を拭くと笑顔で「おかえりなさい」と言う。
少し眉を下げたルーディクスさんに、着物を手渡す。
「はい。この着物に着替えちゃってください! ルーディクスさん不審者みたいな恰好ですから」
「いいのか? これは……?」
「それは私の夫の着物です」
「……ミヤは、夫が居るのか?」
「番なんです。これでも私、七人の子供のお母さんなんですよ? ふふっ」
ルーディクスさんが首を捻って眉間にしわを寄せているけど、人を疑ってはいけない。
ついでに言えば、あなたの子孫ですからね!と、教えてあげたいところだ。
私ってば、歴代のトリニア家の中で一番子供を産んでるトリニア家復興に一役買った大女将ですからね。
これはトリニア家の歴史上、残して良い事だと思う。
まぁ、出産経験は三回だけですけどね。
「番ならば、側に居るのが当たり前だと思うが……」
「はい。だから、あの人と子供達の所へ帰る為に、私は今できる事を全力でするのみです!」
「よくわからんが、だったら尚更、この大陸から早く旅立つべきだと思うが?」
「いいえ。私はルーディクスさんを助けたいです! この大陸をいい場所にして、東国の勇者をギャフンと言わせてやるんです!」
今は精一杯、寂しくない様に元気な振りをしておこう。
この大陸を温泉大陸にしてから、考えればいい。
ルーファスや子供達、温泉大陸の皆の為に、絶対にこの時代を変えないといけない。
ルーディクスさんに何かのお肉を貰って、道具の中からまな板と小刀とお鍋を取り出す。
私が料理をしている間に、ルーディクスさんは着物に着替えて、やっぱりルーファスのご先祖様だけあって、着物がよく似あう。
寂しくない様にルーファスの着物を持ってきておいて良かった。
直ぐに帰るつもりで一着しか持って来てなかったけど。
「ルーディクスさん、その長い髪、縛りますか?」
「そういえば、紐がどこかにいってしまったな」
言っては何だけど、ルーディクスさんは髪の毛オバケって感じなので、絶対、結ぶべき。
道具の中から髪紐を出して、ルーディクスさんをしゃがませると、三つ編みにしてぐるぐると紙ひもで縛る。
「よし! これで良いですよ」
「ああ、悪いな。ミヤ」
「いえいえ。子供達の髪とかよく結んでましたから」
正面を向いたルーディクスさんは、やっぱり、ルーファスによく似てた。
少しルーファスの方が優しい顔をしていると思うのは、ルーファスが私に見せる顔はいつだって優しいからかな?
また涙でぼやけそうな視界に、私ってこんなに泣き虫だったかな? と、少しだけルーファスと会った頃の自分を思い出す。
竜人の国に連れて行かれた時も、何だかんだで私は助かったんだから、今回もきっと大丈夫。
「お鍋直ぐに出来ますからね」
「肉だけだったかが大丈夫だったか?」
「ふっふっふっ、カバンにお芋だけはいっぱい入れているので大丈夫です!」
「ミヤのカバンは色々出て来るな」
実はカバンの中に手を入れつつ、カバンの中で空間に鍵を開けて、道具を出し入れしているだけなんだけどね。
流石にこれは【刻狼亭】の鍵なので見せるわけにはいかない。
あと、お肉だけじゃ流石に足りないからね。何のお肉か判らないけど……。
「ルーディクスさん、ご飯を食べてお腹いっぱいになったら、頑張りましょうね!」
「ああ、ミヤにこの大陸を助けて何か得する事でもあるのかわからんし、信用していいのかも分らんが、不思議とお前は信用が出来るのは何故なんだろうな?」
「きっと、私が弱っちいからですよ。私がルーディクスさんを裏切っても、ルーディクスさんなら私ぐらい一捻りでしょ? だから、私がルーディクスさんに何かするって事は無いし、安心出来るんじゃないかな? って、思います」
「そういうものか?」
「そーいうもんですよ。まぁ、私はただ、この大陸に温泉出たら良いなぁって、思ってるだけです」
「ふむ……」
ああ、「ふむ」っていう所はルーファスにソックリだ。
でも、不思議。
ルーファスはお母さん似だから、アーバント家の顔立ちのはずなのに……もしかして何処かで、トリニア家の誰かがアーバント家の人と結婚して、ルーファスのご両親の所でまたトリニア家に混じったのかな?
意外と、そう思うと感慨深いものがある。
食べ物はあるにはあるんだけど、何があるか判らないから、一応、万が一に備えて、ここで採れる物があるなら採ってもらった方が良いかもしれないと、調味料だけ用意して、後はルーディクスさんに任せた。
私の持って来た道具の中に男物の着物もあったので、チクチクと縫いながらルーディクスさんが羽を出せる様に背中に切れ目を入れて縫っていく。
お裁縫具箱はハガネに入れられた物だったけど、あって良かった。
流石、私の従者なだけはある。
「ハガネ……」
まだ1日も経っていないのに、一人で心細くなる。
時代が違うから、私にはハガネもグリムレインもエデンもケルチャもケイトも誰一人として繋がりが無くなってる。
ルーファスとの繋がりも無い。
寂しさにじわりと涙が出て、針を持つ手が見えずに、指に赤い粒が出来る。
「っ……。痛いなぁ……」
指を口に入れて鉄錆びた味に涙がまた滲む。
心の中がストンと何も無いようで誰でもいいから側に居て欲しい。
「泣いているのか?」
ルーディクスさんの声に肩がビクッと震えて、涙を拭くと笑顔で「おかえりなさい」と言う。
少し眉を下げたルーディクスさんに、着物を手渡す。
「はい。この着物に着替えちゃってください! ルーディクスさん不審者みたいな恰好ですから」
「いいのか? これは……?」
「それは私の夫の着物です」
「……ミヤは、夫が居るのか?」
「番なんです。これでも私、七人の子供のお母さんなんですよ? ふふっ」
ルーディクスさんが首を捻って眉間にしわを寄せているけど、人を疑ってはいけない。
ついでに言えば、あなたの子孫ですからね!と、教えてあげたいところだ。
私ってば、歴代のトリニア家の中で一番子供を産んでるトリニア家復興に一役買った大女将ですからね。
これはトリニア家の歴史上、残して良い事だと思う。
まぁ、出産経験は三回だけですけどね。
「番ならば、側に居るのが当たり前だと思うが……」
「はい。だから、あの人と子供達の所へ帰る為に、私は今できる事を全力でするのみです!」
「よくわからんが、だったら尚更、この大陸から早く旅立つべきだと思うが?」
「いいえ。私はルーディクスさんを助けたいです! この大陸をいい場所にして、東国の勇者をギャフンと言わせてやるんです!」
今は精一杯、寂しくない様に元気な振りをしておこう。
この大陸を温泉大陸にしてから、考えればいい。
ルーファスや子供達、温泉大陸の皆の為に、絶対にこの時代を変えないといけない。
ルーディクスさんに何かのお肉を貰って、道具の中からまな板と小刀とお鍋を取り出す。
私が料理をしている間に、ルーディクスさんは着物に着替えて、やっぱりルーファスのご先祖様だけあって、着物がよく似あう。
寂しくない様にルーファスの着物を持ってきておいて良かった。
直ぐに帰るつもりで一着しか持って来てなかったけど。
「ルーディクスさん、その長い髪、縛りますか?」
「そういえば、紐がどこかにいってしまったな」
言っては何だけど、ルーディクスさんは髪の毛オバケって感じなので、絶対、結ぶべき。
道具の中から髪紐を出して、ルーディクスさんをしゃがませると、三つ編みにしてぐるぐると紙ひもで縛る。
「よし! これで良いですよ」
「ああ、悪いな。ミヤ」
「いえいえ。子供達の髪とかよく結んでましたから」
正面を向いたルーディクスさんは、やっぱり、ルーファスによく似てた。
少しルーファスの方が優しい顔をしていると思うのは、ルーファスが私に見せる顔はいつだって優しいからかな?
また涙でぼやけそうな視界に、私ってこんなに泣き虫だったかな? と、少しだけルーファスと会った頃の自分を思い出す。
竜人の国に連れて行かれた時も、何だかんだで私は助かったんだから、今回もきっと大丈夫。
「お鍋直ぐに出来ますからね」
「肉だけだったかが大丈夫だったか?」
「ふっふっふっ、カバンにお芋だけはいっぱい入れているので大丈夫です!」
「ミヤのカバンは色々出て来るな」
実はカバンの中に手を入れつつ、カバンの中で空間に鍵を開けて、道具を出し入れしているだけなんだけどね。
流石にこれは【刻狼亭】の鍵なので見せるわけにはいかない。
あと、お肉だけじゃ流石に足りないからね。何のお肉か判らないけど……。
「ルーディクスさん、ご飯を食べてお腹いっぱいになったら、頑張りましょうね!」
「ああ、ミヤにこの大陸を助けて何か得する事でもあるのかわからんし、信用していいのかも分らんが、不思議とお前は信用が出来るのは何故なんだろうな?」
「きっと、私が弱っちいからですよ。私がルーディクスさんを裏切っても、ルーディクスさんなら私ぐらい一捻りでしょ? だから、私がルーディクスさんに何かするって事は無いし、安心出来るんじゃないかな? って、思います」
「そういうものか?」
「そーいうもんですよ。まぁ、私はただ、この大陸に温泉出たら良いなぁって、思ってるだけです」
「ふむ……」
ああ、「ふむ」っていう所はルーファスにソックリだ。
でも、不思議。
ルーファスはお母さん似だから、アーバント家の顔立ちのはずなのに……もしかして何処かで、トリニア家の誰かがアーバント家の人と結婚して、ルーファスのご両親の所でまたトリニア家に混じったのかな?
意外と、そう思うと感慨深いものがある。
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