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22章
魔国の学園祭5
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エグザドル学園の学園祭はバザー中心で、孤児院や街の復興作業などの支援金に回されたりするらしく、色々な物が売られている。
手作りの物から、家にあった物を持ってきたりと、そこは貴族の多い学園なのでいいものが出ているから、親達も必死になって買っていている。
私は目利きは出来ないから、ルーファスが「ほぅ」と目を光らせている物を手に取って「これ?」と聞いては購入していって、学園側が購入したものを届けてくれるそうなので、手ぶらのまま歩いて回れるから、それが楽ではあるけど、スクルードが手を伸ばして離さないものはそのまま買って持ち歩きしている。
「スーは満足したか?」
「あんぷー!」
両手で手作りの船のぬいぐるみを持って、えへーっといい笑顔で尻尾を振っていて、スクルードの笑顔につられて私達も笑いながらティルナールの案内で体育館へ行くと、これは完全に演劇ホールで二階席まであるとは驚きである。
「凄い広いホールだね」
「学生時代にしか演劇なんて出来ないからね。だから、この時を輝けるように思い出に残る様にって事で、このホールは卒業生からの寄付もあって豪華なんだよ」
なるほど、確かにそれならここが学生の夢の場所だからこそ、お金に余裕のある卒業生が寄付してここまで凄くなったのは頷ける。
普通なら二階席はオペラグラスとか必要そうだけど、二階席には個室のような部屋が並び、テレビモニターの様になっている通信魔道具が壇上をモニターで映し出して見せてくれる上に、お茶やお菓子に軽食付き。
うちは騒いじゃいそうな幼児のスクルードが居るから、この個室は有り難いものかも。
まぁ、刻狼亭の料亭の個室と違って、人数によって部屋の大きさが変わったりはしないようだけど。
「それじゃ、しばらくは劇を見ててね。ボクはカメラでみんなの青春を撮ってくるから」
「はーい。頑張って広報さん」
「ふふっ、じゃーねー」
ティルナールが出て行き、ルーシーが軽食と飲み物を頼んで席に着くと、学生が『魔国の聖女』という演目を始めた。
お話としては、リロノスさんとありすさんの話が色々とアレンジされたものらしく、本人達を知っているだけに……どんなものだろうと、ワクワクしながら見ていたわけです。
魔国では戦争と内乱が続き、「死の病」が流行してしまい、人々がどんどん倒れていく、『魔王』リータスは助けを祈り求めると、そこへ異世界からへ黒髪黒目の『聖女』アイリスがやってきた。
アイリスの祈りで魔国の「死の病」が消えていくが、アイリス自身が病に侵されてしまう。アイリスを助ける為にリータスが、世界中を旅してアイリスを救う薬を手に入れ、二人は結ばれる……と、いうお話。
「へぇぇ。なんだか素敵な恋物語って感じだね」
「アカリ……あの二人が温泉大陸へ来た時の事を忘れたのか?」
「あはは……まぁ、あの時は二人も若かったよね?」
リロノスさんがリータスって事なんだろうけど、劇のリータスはカッコいいけど、初めて会った時のリロノスさんはありすさんに振り回されてストレスで胃痛を抱える魔王で……軟弱なイメージがある。
ありすさんも今でこそ黒髪黒目だけど、出会った頃はプリン頭の脱色で髪の毛痛みまくりだったし、コギャルって感じだったのは否めない。
時代が美しく二人を美化させたようなイメージが劇にはあるのかもしれない。
「これの続きの二幕目には父上と母上も出て来るのですよ?」
「そうなの?」
「オレ達が関わる様なシーンがあるとは思えんが……」
ルーシーがニコニコとサンドイッチを差し出して、「二幕目はニ十分後ですわ」と楽しそうな声を出す。
サンドイッチを貰って頬張ると、中身はミートローフのようなパテが入っていて、魔牛を使った物なのかジュワッとした柔らかなお肉と野菜が美味しい。
「父上もどうぞ」
「いや、オレはいい。スーが欲しがっているからな」
「まんう、まんう」
「スーにはまだ無理よ。こっちの卵サンドならいけるかもだけど」
卵サンドをルーシーが差し出すと、小さく千切ってルーファスが口元まで持っていき、スクルードがニコニコで口に入れたものの、「はにぇ……」と口からポロッと出して、私の持っているミートローフサンドの方に手を伸ばしている。
「まんう!」
「んーっ、じゃあ少し待っててね」
お皿の上で紅茶用のスプーンでミートローフを潰して細かくしてから、スクルードの口に持っていくとパクッと口に咥えて尻尾をブンブン振っている。
「魔牛にやられたか……」
「贅沢を覚えちゃいましたね」
「まんうー、まんうー」
スクルードのご飯コールに少し苦笑いだ。魔牛の味を覚えてしまうと、普段のお肉が拒否されそうで怖い気もするけど、魔牛は美味しいから仕方がないよね。
私達がそうこうしているうちに、二幕目が始まった。
「私達はどんな感じなんでしょうね?」
「変に美化されていなければいいがな……」
二幕目は、『聖女』アイリスが「元の世界へ帰りたい」と嘆き悲しむシーンから始まる。リータスはその悲しみをなんとか止めてあげたいと、同じ異世界から来た者がいないかを探す。
そんな時、観光大陸の若き当主ルドヴェイがアミスという少女に出会う。アミスは異世界から来た少女で、ルドヴェイの「番」だった。
リータスは異世界から来たアミスをアイリスの話相手にしようと、観光大陸へアイリスを連れて二人旅に出る。
アイリスとアミスは仲の良い姉妹の様で、リータスは自分の国へルドヴェイとアミスを招待する……が、国へ帰る途中、海賊に襲われてアイリスが亡くなってしまう。
嘆き悲しむリータスは王の座を弟へ譲り、観光大陸でアイリスの死を悼み、今も国に帰る事無くアイリスの墓を守っている……と、まぁこんな感じの悲恋で終わってしまう。
「事実とは結構違うけど、微妙に事実が見え隠れしているのが、なんともいえない」
私とルーファスの意見はそんな感じだった。
でも、私達まだ生きているうちから劇にされてしまうなんて、なんとも背中がこそばゆい話である。
手作りの物から、家にあった物を持ってきたりと、そこは貴族の多い学園なのでいいものが出ているから、親達も必死になって買っていている。
私は目利きは出来ないから、ルーファスが「ほぅ」と目を光らせている物を手に取って「これ?」と聞いては購入していって、学園側が購入したものを届けてくれるそうなので、手ぶらのまま歩いて回れるから、それが楽ではあるけど、スクルードが手を伸ばして離さないものはそのまま買って持ち歩きしている。
「スーは満足したか?」
「あんぷー!」
両手で手作りの船のぬいぐるみを持って、えへーっといい笑顔で尻尾を振っていて、スクルードの笑顔につられて私達も笑いながらティルナールの案内で体育館へ行くと、これは完全に演劇ホールで二階席まであるとは驚きである。
「凄い広いホールだね」
「学生時代にしか演劇なんて出来ないからね。だから、この時を輝けるように思い出に残る様にって事で、このホールは卒業生からの寄付もあって豪華なんだよ」
なるほど、確かにそれならここが学生の夢の場所だからこそ、お金に余裕のある卒業生が寄付してここまで凄くなったのは頷ける。
普通なら二階席はオペラグラスとか必要そうだけど、二階席には個室のような部屋が並び、テレビモニターの様になっている通信魔道具が壇上をモニターで映し出して見せてくれる上に、お茶やお菓子に軽食付き。
うちは騒いじゃいそうな幼児のスクルードが居るから、この個室は有り難いものかも。
まぁ、刻狼亭の料亭の個室と違って、人数によって部屋の大きさが変わったりはしないようだけど。
「それじゃ、しばらくは劇を見ててね。ボクはカメラでみんなの青春を撮ってくるから」
「はーい。頑張って広報さん」
「ふふっ、じゃーねー」
ティルナールが出て行き、ルーシーが軽食と飲み物を頼んで席に着くと、学生が『魔国の聖女』という演目を始めた。
お話としては、リロノスさんとありすさんの話が色々とアレンジされたものらしく、本人達を知っているだけに……どんなものだろうと、ワクワクしながら見ていたわけです。
魔国では戦争と内乱が続き、「死の病」が流行してしまい、人々がどんどん倒れていく、『魔王』リータスは助けを祈り求めると、そこへ異世界からへ黒髪黒目の『聖女』アイリスがやってきた。
アイリスの祈りで魔国の「死の病」が消えていくが、アイリス自身が病に侵されてしまう。アイリスを助ける為にリータスが、世界中を旅してアイリスを救う薬を手に入れ、二人は結ばれる……と、いうお話。
「へぇぇ。なんだか素敵な恋物語って感じだね」
「アカリ……あの二人が温泉大陸へ来た時の事を忘れたのか?」
「あはは……まぁ、あの時は二人も若かったよね?」
リロノスさんがリータスって事なんだろうけど、劇のリータスはカッコいいけど、初めて会った時のリロノスさんはありすさんに振り回されてストレスで胃痛を抱える魔王で……軟弱なイメージがある。
ありすさんも今でこそ黒髪黒目だけど、出会った頃はプリン頭の脱色で髪の毛痛みまくりだったし、コギャルって感じだったのは否めない。
時代が美しく二人を美化させたようなイメージが劇にはあるのかもしれない。
「これの続きの二幕目には父上と母上も出て来るのですよ?」
「そうなの?」
「オレ達が関わる様なシーンがあるとは思えんが……」
ルーシーがニコニコとサンドイッチを差し出して、「二幕目はニ十分後ですわ」と楽しそうな声を出す。
サンドイッチを貰って頬張ると、中身はミートローフのようなパテが入っていて、魔牛を使った物なのかジュワッとした柔らかなお肉と野菜が美味しい。
「父上もどうぞ」
「いや、オレはいい。スーが欲しがっているからな」
「まんう、まんう」
「スーにはまだ無理よ。こっちの卵サンドならいけるかもだけど」
卵サンドをルーシーが差し出すと、小さく千切ってルーファスが口元まで持っていき、スクルードがニコニコで口に入れたものの、「はにぇ……」と口からポロッと出して、私の持っているミートローフサンドの方に手を伸ばしている。
「まんう!」
「んーっ、じゃあ少し待っててね」
お皿の上で紅茶用のスプーンでミートローフを潰して細かくしてから、スクルードの口に持っていくとパクッと口に咥えて尻尾をブンブン振っている。
「魔牛にやられたか……」
「贅沢を覚えちゃいましたね」
「まんうー、まんうー」
スクルードのご飯コールに少し苦笑いだ。魔牛の味を覚えてしまうと、普段のお肉が拒否されそうで怖い気もするけど、魔牛は美味しいから仕方がないよね。
私達がそうこうしているうちに、二幕目が始まった。
「私達はどんな感じなんでしょうね?」
「変に美化されていなければいいがな……」
二幕目は、『聖女』アイリスが「元の世界へ帰りたい」と嘆き悲しむシーンから始まる。リータスはその悲しみをなんとか止めてあげたいと、同じ異世界から来た者がいないかを探す。
そんな時、観光大陸の若き当主ルドヴェイがアミスという少女に出会う。アミスは異世界から来た少女で、ルドヴェイの「番」だった。
リータスは異世界から来たアミスをアイリスの話相手にしようと、観光大陸へアイリスを連れて二人旅に出る。
アイリスとアミスは仲の良い姉妹の様で、リータスは自分の国へルドヴェイとアミスを招待する……が、国へ帰る途中、海賊に襲われてアイリスが亡くなってしまう。
嘆き悲しむリータスは王の座を弟へ譲り、観光大陸でアイリスの死を悼み、今も国に帰る事無くアイリスの墓を守っている……と、まぁこんな感じの悲恋で終わってしまう。
「事実とは結構違うけど、微妙に事実が見え隠れしているのが、なんともいえない」
私とルーファスの意見はそんな感じだった。
でも、私達まだ生きているうちから劇にされてしまうなんて、なんとも背中がこそばゆい話である。
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