766 / 960
24章
冬眠準備のその前に
しおりを挟む
秋に残った枯れ葉も木枯らしと共に枝から離れ、枯れ葉一つ無い木々ばかりになってきた温泉大陸はもう冬支度というところである。
温泉街の住民も厚手の着物や半纏を羽織って寒さ対策に余念がない。
温泉街を二歳の息子スクルードと手を繋ぎ、私のもう片方の手は夫のルーファスと繋いでいる。
スクルードの片手には木で作った車輪の付いた狼型のカートを引いている。
これはルーファスの手作りで、狼の背中は四角に切り取られていて、色々物を入れられるようになっている。
紐が狼の肩口に通してあるのでスクルードはその紐を手に持ってコロコロと小さな音を立てて引いているのである。
「おっ、スー坊お菓子持ってくかい?」
「うーっ! あいあとー!」
お店の人が声を掛けてきて紙袋に入れたお菓子をスクルードに手渡してくれる。
スクルードは嬉しそうにお礼を言って狼カートにお菓子を入れる。
「ありがとうございます。良かったねスーちゃん」
「すまないな、店主」
「いえいえ、冬眠の間は【刻狼亭】さんには、お世話になりますから、宜しくお願いします」
「ああ、任せておけ」
冬が始まると温泉街でも冬眠に入ってしまう種族のやっているお店を守るのは【刻狼亭】の役目で、昔からやってきていたものである。
あと、これは今年から取り入れられたリュエールの提案で、なるべく冬の時期も各店舗が休業しないでやっていけるように「刻狼亭の従業員を各店舗に貸出します」という宣言をした。
「従業員休みなし!? ブラック企業!?」と、言ったらリュエールに頬っぺたを左右に引っ張られたけど……。
毎年、秋から冬にかけて暗殺者が出ていた温泉大陸も、私が現れてからは入国証明証も手に入らないわ、跡継ぎも子供も次々生まれるわで……温泉大陸の権利を欲しがった所で無駄になるとあって、暗殺者も減ってしまい……【刻狼亭】に新しい従業員は中々増えなくて、色々条件を付けて見習い期間として、温泉街の休業店舗に信用のおける従業員が店番として立ち、見習いは【刻狼亭】の料亭と旅館で正式雇用するかどうかを見極めるらしい。
休業店舗も冬の間にお金が入るし、【刻狼亭】も従業員が増やせるかどうか見極められるので試験的なものらしいけど、冬場を預かる従業員は手がいくらあっても足りなかったから、良いことなのだとは思う。
ただ、新人はミスをするものなので……そういうところのカバーは大変そうだなとは思う。
まぁ、その為に新人にはペアとなる小鬼が一人ずつ付くことになる。
このペアの小鬼は、まだ情報取り扱いの出来ない子供の小鬼達で、この子達もまた小鬼の情報見習の子達とあって、新人の働きや動きを情報という形で報告をする事で、見習い訓練をするのである。
つまり、小鬼にとっても刻狼亭にとっても見習いを同時に働かせられる良い提案でもあるのだ。
「賄賂貰っちゃいましたね」
「わーろ?」
「スー、その言葉は忘れろ。コラッ、アカリはスーに余計なことを言うな」
「ふふっ、悪いスーちゃんに育っちゃう」
嬉しそうな顔をしているスクルードに、将来もう少し落ち着いた大人になって欲しいと今から教育熱心になっているルーファスに、揶揄い気味に笑うと「まったく」と小さく肩をすくめられる。
その後もスクルードの狼カートの中は街の人達にお菓子を追加されて、街中で甘やかされている。
レーネルくんやルビスちゃんもそうだけど、温泉大陸は小さな子供達を甘やかしながら声を掛けて、自分達を覚えさせていく。
「大女将さん、揚げ菓子持ってくかい?」
「持っていきまーす!」
「揚げたてだよ。スーちゃんにもあげようね」
「やーん。お豆腐屋さん大好きー!」
「よしとくれよ。大旦那が怖い顔して睨んでくるんだから」
笑いながらお豆腐屋さんがおからで揚げた揚げ菓子を油とりの入った紙袋に入れてくれてる。私がこの大陸に来た時からあるお店で、ここの揚げ菓子はお祭りの時の揚げ菓子でも出店しているところで、私のお気に入りである。
ああ、でもお豆腐屋さんの顔を直ぐに覚えたのも、このお菓子のおかげだから、意外と街の人が子供達にお菓子をあげて顔を覚えさせることは間違ってはいないのかも?
「うちの番を幼子扱いするな。豆腐屋、厚揚げを十個と焼き豆腐を八個、屋敷に届けておいてくれ」
「あいよ。冬休暇の子供達に届けさせておくよ」
「ああ、頼む」
ルーファスが揚げ菓子に夢中になっている私とスクルードをお豆腐屋さんの椅子に座らせて、お豆腐屋さんに注文をして支払いを済ませてくれる。
今日は揚げ豆腐の餡かけと、麻婆豆腐をするので、この後は麻婆豆腐用のひき肉を買いにお肉屋さん予定である。
お豆腐尽くしな気もするけど、体を温かくする為に少し辛めのお料理で攻めていきたい。
まぁ、今年も魔国から魔牛が届いたので魔牛のステーキを焼く予定もあるのだけどね。
ふふふっ、今年も美味しく頂いてスタミナをつけて冬を乗り切りたいところです。
温泉街の住民も厚手の着物や半纏を羽織って寒さ対策に余念がない。
温泉街を二歳の息子スクルードと手を繋ぎ、私のもう片方の手は夫のルーファスと繋いでいる。
スクルードの片手には木で作った車輪の付いた狼型のカートを引いている。
これはルーファスの手作りで、狼の背中は四角に切り取られていて、色々物を入れられるようになっている。
紐が狼の肩口に通してあるのでスクルードはその紐を手に持ってコロコロと小さな音を立てて引いているのである。
「おっ、スー坊お菓子持ってくかい?」
「うーっ! あいあとー!」
お店の人が声を掛けてきて紙袋に入れたお菓子をスクルードに手渡してくれる。
スクルードは嬉しそうにお礼を言って狼カートにお菓子を入れる。
「ありがとうございます。良かったねスーちゃん」
「すまないな、店主」
「いえいえ、冬眠の間は【刻狼亭】さんには、お世話になりますから、宜しくお願いします」
「ああ、任せておけ」
冬が始まると温泉街でも冬眠に入ってしまう種族のやっているお店を守るのは【刻狼亭】の役目で、昔からやってきていたものである。
あと、これは今年から取り入れられたリュエールの提案で、なるべく冬の時期も各店舗が休業しないでやっていけるように「刻狼亭の従業員を各店舗に貸出します」という宣言をした。
「従業員休みなし!? ブラック企業!?」と、言ったらリュエールに頬っぺたを左右に引っ張られたけど……。
毎年、秋から冬にかけて暗殺者が出ていた温泉大陸も、私が現れてからは入国証明証も手に入らないわ、跡継ぎも子供も次々生まれるわで……温泉大陸の権利を欲しがった所で無駄になるとあって、暗殺者も減ってしまい……【刻狼亭】に新しい従業員は中々増えなくて、色々条件を付けて見習い期間として、温泉街の休業店舗に信用のおける従業員が店番として立ち、見習いは【刻狼亭】の料亭と旅館で正式雇用するかどうかを見極めるらしい。
休業店舗も冬の間にお金が入るし、【刻狼亭】も従業員が増やせるかどうか見極められるので試験的なものらしいけど、冬場を預かる従業員は手がいくらあっても足りなかったから、良いことなのだとは思う。
ただ、新人はミスをするものなので……そういうところのカバーは大変そうだなとは思う。
まぁ、その為に新人にはペアとなる小鬼が一人ずつ付くことになる。
このペアの小鬼は、まだ情報取り扱いの出来ない子供の小鬼達で、この子達もまた小鬼の情報見習の子達とあって、新人の働きや動きを情報という形で報告をする事で、見習い訓練をするのである。
つまり、小鬼にとっても刻狼亭にとっても見習いを同時に働かせられる良い提案でもあるのだ。
「賄賂貰っちゃいましたね」
「わーろ?」
「スー、その言葉は忘れろ。コラッ、アカリはスーに余計なことを言うな」
「ふふっ、悪いスーちゃんに育っちゃう」
嬉しそうな顔をしているスクルードに、将来もう少し落ち着いた大人になって欲しいと今から教育熱心になっているルーファスに、揶揄い気味に笑うと「まったく」と小さく肩をすくめられる。
その後もスクルードの狼カートの中は街の人達にお菓子を追加されて、街中で甘やかされている。
レーネルくんやルビスちゃんもそうだけど、温泉大陸は小さな子供達を甘やかしながら声を掛けて、自分達を覚えさせていく。
「大女将さん、揚げ菓子持ってくかい?」
「持っていきまーす!」
「揚げたてだよ。スーちゃんにもあげようね」
「やーん。お豆腐屋さん大好きー!」
「よしとくれよ。大旦那が怖い顔して睨んでくるんだから」
笑いながらお豆腐屋さんがおからで揚げた揚げ菓子を油とりの入った紙袋に入れてくれてる。私がこの大陸に来た時からあるお店で、ここの揚げ菓子はお祭りの時の揚げ菓子でも出店しているところで、私のお気に入りである。
ああ、でもお豆腐屋さんの顔を直ぐに覚えたのも、このお菓子のおかげだから、意外と街の人が子供達にお菓子をあげて顔を覚えさせることは間違ってはいないのかも?
「うちの番を幼子扱いするな。豆腐屋、厚揚げを十個と焼き豆腐を八個、屋敷に届けておいてくれ」
「あいよ。冬休暇の子供達に届けさせておくよ」
「ああ、頼む」
ルーファスが揚げ菓子に夢中になっている私とスクルードをお豆腐屋さんの椅子に座らせて、お豆腐屋さんに注文をして支払いを済ませてくれる。
今日は揚げ豆腐の餡かけと、麻婆豆腐をするので、この後は麻婆豆腐用のひき肉を買いにお肉屋さん予定である。
お豆腐尽くしな気もするけど、体を温かくする為に少し辛めのお料理で攻めていきたい。
まぁ、今年も魔国から魔牛が届いたので魔牛のステーキを焼く予定もあるのだけどね。
ふふふっ、今年も美味しく頂いてスタミナをつけて冬を乗り切りたいところです。
41
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。