黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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24章

冬眠準備のその前に

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 秋に残った枯れ葉も木枯こがらしと共に枝から離れ、枯れ葉一つ無い木々ばかりになってきた温泉大陸はもう冬支度ふゆじたくというところである。
温泉街の住民も厚手の着物や半纏はんてん羽織はおって寒さ対策に余念がない。

 温泉街を二歳の息子スクルードと手を繋ぎ、私のもう片方の手は夫のルーファスと繋いでいる。
スクルードの片手には木で作った車輪の付いた狼型のカートを引いている。
これはルーファスの手作りで、狼の背中は四角に切り取られていて、色々物を入れられるようになっている。
紐が狼の肩口に通してあるのでスクルードはその紐を手に持ってコロコロと小さな音を立てて引いているのである。

「おっ、スー坊お菓子持ってくかい?」
「うーっ! あいあとー!」

 お店の人が声を掛けてきて紙袋に入れたお菓子をスクルードに手渡してくれる。
スクルードは嬉しそうにお礼を言って狼カートにお菓子を入れる。

「ありがとうございます。良かったねスーちゃん」
「すまないな、店主」
「いえいえ、冬眠の間は【刻狼亭】さんには、お世話になりますから、宜しくお願いします」
「ああ、任せておけ」

 冬が始まると温泉街でも冬眠に入ってしまう種族のやっているお店を守るのは【刻狼亭】の役目で、昔からやってきていたものである。

 あと、これは今年から取り入れられたリュエールの提案で、なるべく冬の時期も各店舗が休業しないでやっていけるように「刻狼亭の従業員を各店舗に貸出します」という宣言をした。
「従業員休みなし!? ブラック企業!?」と、言ったらリュエールに頬っぺたを左右に引っ張られたけど……。

 毎年、秋から冬にかけて暗殺者が出ていた温泉大陸も、私が現れてからは入国証明証も手に入らないわ、跡継ぎも子供も次々生まれるわで……温泉大陸の権利を欲しがった所で無駄になるとあって、暗殺者も減ってしまい……【刻狼亭】に新しい従業員は中々増えなくて、色々条件を付けて見習い期間として、温泉街の休業店舗に信用のおける従業員が店番として立ち、見習いは【刻狼亭】の料亭と旅館で正式雇用するかどうかを見極めるらしい。

 休業店舗も冬の間にお金が入るし、【刻狼亭】も従業員が増やせるかどうか見極められるので試験的なものらしいけど、冬場を預かる従業員は手がいくらあっても足りなかったから、良いことなのだとは思う。

 ただ、新人はミスをするものなので……そういうところのカバーは大変そうだなとは思う。
まぁ、その為に新人にはペアとなる小鬼が一人ずつ付くことになる。
このペアの小鬼は、まだ情報取り扱いの出来ない子供の小鬼達で、この子達もまた小鬼の情報見習の子達とあって、新人の働きや動きを情報という形で報告をする事で、見習い訓練をするのである。
つまり、小鬼にとっても刻狼亭にとっても見習いを同時に働かせられる良い提案でもあるのだ。


賄賂ワイロ貰っちゃいましたね」
「わーろ?」
「スー、その言葉は忘れろ。コラッ、アカリはスーに余計なことを言うな」
「ふふっ、悪いスーちゃんに育っちゃう」

 嬉しそうな顔をしているスクルードに、将来もう少し落ち着いた大人になって欲しいと今から教育熱心になっているルーファスに、揶揄からかい気味に笑うと「まったく」と小さく肩をすくめられる。

 その後もスクルードの狼カートの中は街の人達にお菓子を追加されて、街中で甘やかされている。
レーネルくんやルビスちゃんもそうだけど、温泉大陸は小さな子供達を甘やかしながら声を掛けて、自分達を覚えさせていく。

「大女将さん、揚げ菓子持ってくかい?」
「持っていきまーす!」
「揚げたてだよ。スーちゃんにもあげようね」
「やーん。お豆腐屋さん大好きー!」
「よしとくれよ。大旦那が怖い顔して睨んでくるんだから」

 笑いながらお豆腐屋さんがおからで揚げた揚げ菓子を油とりの入った紙袋に入れてくれてる。私がこの大陸に来た時からあるお店で、ここの揚げ菓子はお祭りの時の揚げ菓子でも出店しているところで、私のお気に入りである。
ああ、でもお豆腐屋さんの顔を直ぐに覚えたのも、このお菓子のおかげだから、意外と街の人が子供達にお菓子をあげて顔を覚えさせることは間違ってはいないのかも?

「うちの番を幼子扱いするな。豆腐屋、厚揚げを十個と焼き豆腐を八個、屋敷に届けておいてくれ」
「あいよ。冬休暇の子供達に届けさせておくよ」
「ああ、頼む」

 ルーファスが揚げ菓子に夢中になっている私とスクルードをお豆腐屋さんの椅子に座らせて、お豆腐屋さんに注文をして支払いを済ませてくれる。
今日は揚げ豆腐の餡かけと、麻婆豆腐をするので、この後は麻婆豆腐用のひき肉を買いにお肉屋さん予定である。
お豆腐尽くしな気もするけど、体を温かくする為に少し辛めのお料理で攻めていきたい。
まぁ、今年も魔国から魔牛が届いたので魔牛のステーキを焼く予定もあるのだけどね。
ふふふっ、今年も美味しく頂いてスタミナをつけて冬を乗り切りたいところです。
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