黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
904 / 960
26章

金竜と赤毛

しおりを挟む
 秋の行楽シーズン前になり、温泉大陸も紅葉が深まる前にお客さんに新しい催しで楽しんでもらおうと、企画の話が常に事務所で行き交っている。
小鬼さん二人は情報から面白そうなものを提案しては、リュエールに却下されたり、一部企画として企画案を出すように言われたりしている。

 その横で、金竜エデンと製薬部隊のロタルスとウエイトが、紐でエスタークさんをぐるぐる巻きにして製薬室へ連行している。

「離せ! 止めろ! 主の裏切者ぉぉ―ッ!!!!」

 主こと、イルマールくんはエスタークさんに「逆らえなかった」と微妙な顔で謝りながら見送っていた。これも最近の日課と言えば、日課だろうか?
 イルマールくんは、義母であるありすさんに逆らえず、「ドラゴンハーフから人間に戻れるならいい事っしょ?」と、言いくるめられてしまったのだ。
 エスタークさんとしては、ドラゴンハーフの強靭きょうじんな肉体を失うことは、イルマールくんを助ける上でマイナスだと思っている。
実際、相方のダリドアさんは身軽ではあるけれど、ドラゴンハーフの時のような力は発揮できないらしい。

 主従関係を結んでしまうと、やはり主人を守るのが従者の務めだと思うようで、色々思う所があるらしい。
しかし、ドラゴンの多いこの温泉大陸で、会うたびにドラゴン達に火を吹かれたり、土を掛けられたり、嫌な顔をされるのは辛いと思う。
光竜のアルビーですら、凄く嫌な顔をするし、ドラゴン達としては、自分の仲間を早く解き放って返して欲しいのもある。

 私もね、ドラゴンを分離させて、またこの世界に蘇らせられるなら、それに越したことは無いと思う。
アクエレインみたいに、時間をかけて少しずつ失った体を戻していかなきゃいけないから、時間も掛かるし、ドラゴンが何処へ解き放たれるかも見付けるのは至難の業だからね。
アクエレインは運が良かっただけともいえる。

 これに関してはアルビーが、ドラゴンはそれぞれの好きな場所に帰ってしまうだろうから、底で探すしかないみたいで、ドラゴン達は「あいつはここが好きなはずだ!」と、よくドラゴン談議をしている。

「母上、エデンと製薬部隊が無茶しないように見張りに行ってて」
「はぁーい。皆、企画頑張ってね」
「はい。大女将もあいつ等が無茶しないようにしてくださいよ」
「うふふー、それはどうかしら~?」

 私が言って聞く様な製薬部隊では無いと思うのよね。
ただ、ドラゴン関係は私に一任してしまった方が、なにかミラクルを起こしそうだというリュエールの提案ともいえるし、ただ単に、私がここに居るとルーファスがソワソワして落ち着かないのもある。

 何年経ってもルーファスの私に対する『番』への愛情は減ることは無いし、秋に入るから蜜籠りシーズンで十人目をご希望らしくて、隙あらば手を出そうとしてくるのよね……ルーファスも元気の良い人と言える。
まぁ、あと一人くらいなら……と、思わないでも無いんだけど、コハルが手を焼く魔の一歳児の時点で、これで妊娠に乳幼児抱えてコハルの面倒も見るとなると……少し地獄を見そうな気がする。

 スクルードみたいに下に妹や弟が出来たと、お姉さんの自覚をコハルが持てばいいけど……今のところは我が儘お姫様なのよね。
それにミルアも子供を産むし、フィリアちゃんも産むし……母親の手が必要な気がするんだけど、ルーファスとしては「それは夫婦で何とかすれば良い」という感じでねー、でも、きっと私が動くことになると思うのよ。
妊婦でふぅふぅ言いながら動くのはキツイとだけ言っておこう。

 製薬室の扉を開けると、室長のマグノリアさんとテッチにピルマーが手に怪しげなポーション瓶を持っているのを見て、また別のポーションの実験台にしようとしているなぁというのが見て取れる。

「こらぁ! ドラゴンハーフの分離するポーション以外は使ったら駄目よ!」
「嫌だなぁ大女将ったら、あははー」
 サッとポーションを自分達の後ろ手に隠した時点でアウトだと思うの。
油断も隙も無い製薬部隊の面々である。これだから、エスタークさんも嫌がって逃げるんだってば。

「さぁ! 赤毛、覚悟するのー! 死ねなのー!!」
「それ、ドラゴンの台詞かー!?」
 エデン、死ねって言っちゃう辺り駄目だと思う。
エデンが手から金色に光る魔法の渦を出して、羽交い絞めにされたエスタークさんの鳩尾みぞおちに魔法を叩き込む。

「ぎゃあああああ!!!!」

 悲痛なエスタークさんの叫びが上がり、製薬部隊が気絶したエスタークさんに土留どどめ色のクワの実の様な黒紫色のポーションを口に入れ始め、大丈夫かな? と、心配していたら、エスタークさんが痙攣けいれんし始めて、エデンと製薬部隊が一斉に私を見る。

「はいはい。やればいいんでしょー! 『水癒アクアヒーリング』」
 アクエレインが力を貸してくれなくても、一人くらいなら水の最上級回復魔法を私一人でも使えるようになったのよ。まぁ、魔力の消費が凄いけど……
エスタークさんを水で包み込んで回復させると、エデンも製薬部隊も「また次だー!」と騒いでいる。
反省しない人達だ。
これはまだまだ続きそうな予感がする。

しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。