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偶然の遭遇と優しい瞳
しおりを挟む不自然にならぬように、幾つか商品を買って店を出たシエラとリンゼイが馬車に乗り込もうとすると思わぬ人物に引き止められる。
「皇女殿下。」
「っ、…マッケンゼン公爵。」
ウェヌスは貴族御用達の店である為に、視線も多い。
婚約者とはいえ、不仲である筈のふたりに興味があるのか決して少なくはない人々が見ていないフリをしながら聞き耳を立て、様子を窺った。
「皇女殿下にお目に掛かります。」
「あ、会えて嬉しいわ。奇遇ね…」
突き刺さる視線を気にして言った社交辞令であったが、リヒトの思わぬ反応にシエラまでもが頬を染めてしまいその様子に周りはざわついた。
「……俺も、嬉しいです。」
そう言って本当に嬉しそうにはにかんだリヒトに黄色い声が上がった。
「ところで、…今日はどうして街に?」
「アカデミーの視察の帰りです。殿下が見えたので。」
(正しくはジェレミア殿下の部下が見えたのだが…まぁいい。)
「そう。」
(店の中に居たのに?それとも馬車が見えたと言う事かしら、)
それでもシエラが乗っているのは貴族のものだとはすぐに思われるだろうそれなりの馬車だが、皇族の紋章も入っていないなるべく地味な馬車を選んできたつもりであった。
ジェレミアの部下である彼は本来騎士であるのでスパイが下手である。
ジェレミアなりにシエラを監視するだけではなく、護衛も兼ねていると言う事であろうかそれなりに名のある騎士を任命していた為に、
リヒトはすぐに気付いたのだが、シエラはその事に気付く様子はなかった。
考え込んでしまったシエラの頬をリヒトが優しく撫でるとシエラはビクリと肩を震わせて硬直してしまう。
「ご迷惑でしたか?」
「…いえ、」
そう言ってシエラがチラリとジェレミアのスパイを見たのに気付くリヒト。
(気付いているのか…?)
「彼をご存知で?」
「….え?(彼って、尾行している彼の事かしら)」
「貴女を尾けている、あそこの彼です。」
リヒトはスパイにバレぬよう耳元囁くように尋ねた。
「…っ、知りません。貴方こそ知っている風ね?」
「……いえ、皇女殿下の視線が一瞬彼を見たので。」
「嘘ね…。」
「はい…私の馬車に乗れば、尾行は中断されますが?」
「きっと、すぐに報告に行くでしょうね。」
「お力になれるかと、」
「…貴方が私の味方をするという事?」
「信じられませんか?近頃、皇女殿下がお変わりになられた理由は分かりませんが….情報は必要でしょう?」
「タダほど怖いものはないわ。」
「俺の謁見を拒否しないで、会って頂きたい。毎回じゃなくていい。」
「…(故意だとバレているのね)拒否していないわ。…努力する。それだけ?」
「はい。ただ、あなたに会いたい。」
その切なげな表情は女性であれば誰もが恋をするであろう表情であったが、シエラはじっと見つめて、リヒトの真意を探っているようだった。
(何を考えているのかしら…嫌いな人を急に好きになる筈が無いし…。)
「信用されていませんね。」
「どうかしら。けれど、確かにこれから貴方の力が必要になる時が来るわねきっと。私は皇女という割には無力なので。」
「では、承諾と受け取っても?」
「まずは、馬車に乗るだけよ。」
そう言ってシエラがリヒトの手を取ったのを見ると、シエラを尾行している騎士は慌てて何処かに走って行く。
どうやらジェレミアに報告しに行くのだろう。
「安全な場所は?」
「他の者の目と耳を封じられる場所で、最も安全な場所があります。」
「そう。ではお任せするわ。」
「何の疑いもなく?」
「私などいつでも如何にだって出来たでしょう。今更殺すはずもないし…真意は分からないけれど陥れるメリットもないだろうから大丈夫よ。」
リヒト片眉をピクリと動かした後に少しだけ愛想笑いで微笑んだ。
「そうですか。」
(女性としての危機感は考えもしないのだな。)
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