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ウィクトル大公家の新しい家族
国中にウィクトル公子の婚約を祝う新聞が撒かれて、続々と王宮へと貴族や他国の要人達の馬車が入って行く景色はまるで何かの記念日のようだ。
ウィクトル大公の計らいで会場である王宮の大ホール以外の平民達が暮らす街にもご馳走様やダンスの催しがされていてすっかり祭りのような空気だ。
王宮へと向かう馬車の列に並ぶ少しの時間にもすでに見える大物達の家門を見てメーデアは無意識に爪を噛んだ。
(マルグリス如きに少し急ぎすぎたかしら?)
マルグリスで権力を持たない名ばかりの侯爵夫人になるよりも、優秀な秘書として同席させて貰って、他国の要人や富豪に見そめられるという未来もあったのではないか?などと見当違いな後悔をめぐらせているのだ。
いくら容姿が好みだと言っても、ずっと苛々している様子のアルベルトに近頃は嫌気がさしてきている。
その上にまさか本当に子でも出来たのか増すばかりの食欲と体重にげんなりしていた。
結局型落ちのドレスを着て来る羽目になったメーデアは虚な様子でぶつぶつと何かをずっと呟くアルベルトの整った身だしなみを眺めて羨ましく思った。
それと同時に、型落ちのドレスを着ている自分の隣には最新のタキシードを来たアルベルトがどのアクセサリーよりも自慢になるのだとも思った。どうせ侯爵夫人になるのなら別にドレスくらい小さなことだと自分に言い聞かせた。
更生する様子のないアルベルトを彼の両親が見放し、彼はいずれ妻と共に臣下へと下ることになるなんて考えもしていない。
メーデアはまだ自分こそがマルグリス侯爵夫人になると信じているのだ。
ルージュが幸せになるのは気に入らないが、あちらもアルベルトとは違う男性と婚約するのだからもう過去のことは水に流すべきか?高位貴族の妻同士仲良くしていくべきじゃないか?とメーデアはそこまで勘違いしていた。
大人しいルージュを踏み台に次は社交会で昇りつめていこう。
(私ほどなら社交会で華と呼ばれたりするかしら……?)
そう考えてるとメーデアは憂鬱だったルージュの婚約式が段々と楽しみになった。
アルベルトはその逆で、時間が経てば経つほど憂鬱だった。
目の前に座るいつもより香水の匂いが強いメーデアの甘すぎる香りに酔いそうだと思ったし、王族も参加するこのパーティで型落ちだというのにやけに艶めかしく派手に主張するドレスを着る彼女が恥ずかしくて仕方なかった。
秘書でいる時はこれほど派手ではなかったし、もう少し弁えていた。つまらないルージュよりも活発で理解のある女性だと思っていたが今や娼婦だ。
いや、生きる為に働く彼女達のほうがまだいい。
メーデアはただの毒婦だ。
どうして自分は淑やかで笑顔が愛らしいルージュを蔑ろにしてまでまるで毒蛇のようなメーデアを愛でていたのだろう?とアルベルトはどうしても後悔が募った。
(ルージュ、ルージュ……お前にはずっと俺だけだっただろう?顔を見れば恋しくなって戻ってくるよな?)
意地を張ったのだと涙してアルベルトの元へと駆けてくるルージュを想像してアルベルトは心を落ち着かせていたが、彼もまた大きな勘違いをしている。
ルージュの心は八年間の中ですっかりと冷め切ってしまった。
アルベルトを恋しく思うことはもう二度とないし、彼が侮っていた無能なルージュは人脈も広く人望も厚い。
婚約を解消した「ただの貴族の男」が簡単に近づける相手ではないのだ。
ましてやもうルージュはウィクトル公子の婚約者だ。
「また仲直りしよう……」小さく呟いた声はメーデアにすら届いていないほどだが、アルベルトはきっとそれが叶うと信じていた。
二人が現実を理解するにはまだ少しの時間がかかるのだろう。
先日、アルベルトは彼の両親によって国王に提出された廃嫡とマルグリス家からの除名届が受理された事を知らない。
ルージュの身分が変わるのと同時に、彼の身分が今日を持って変わり今日を持って彼が二度とルージュと会える日は来ないだろう。
アルベルトとメーデア。
二人を乗せた馬車はとうとう王宮の敷地を跨いだ。
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