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しおりを挟むどうにも気になる、アイリーンのパートナーの事を頭から振り払ってエレノアと今日の披露宴に集中した。
何の問題も無く時間が過ぎて、とうとう月が顔を出すと披露宴も解散して、身内だけの晩餐の時間が来た。
今日の為に使用人達が頑張ってくれたのだろう、いつもと違う王太子宮の特別な雰囲気を感じながら歩く。
エレノア達は私達よりも着替えに時間がかかるので、父の元へと向かう途中だった。
何と無く、今日は月が特別綺麗に見えて城から見える景色の全てが美しか見える。
王宮に宿泊する外国からの貴賓も、城から出て行く馬車にも今日祝福してくれた全部に心の中で礼を言う。
が、城を出る馬車に逆らってくる人影のようなものが一つ
人と言うには不気味な動きだが、他のものにも見えない。
ゆらゆらと不気味な動きの黒ずくめの者は何かに追われて来たのか後ろをしきりに気にしている。
(まぁ、もうすぐ衛兵がいる場所、問題ないだろう)
そう思いながらも心配になって監視していると、ぴたりと足を止めた其の者が顔を隠す全ての物を取り払って此方を見上げ、目が合った。
彼方も予想外だったのか、少し狼狽えてから力無く笑う。
その頼りのない表情には見覚えがあった。
「アッシュ……!」
何かあってからでは遅いと必死で階段を駆け下りて、アッシュの元へと向かう。
慌てて付いてくる護衛達を少し引き離してしまっているが、多分問題ない。まずは彼の目的を知らなければならない。
下まで降りるとやはりアッシュはそこに居た。
(私を待っていたのか?)
「アッシュ……君だったのか」
「見てよ殿下……僕を繋ぐ全部」
「は……?」
手首の拘束具とそれを鳴らす音に彼が窮屈であることも、アイリーンがそうした目的も理解した。
けれどそこまでして連れて来たのは何故か?
アッシュはどうやって逃げて来たのか?
様々な疑問が浮かんで、言葉を選ぶよりも先にただ彼を睨みつけた。
けれどもしかすると確かめたかったのかもしれない。
エレノアにとってアッシュがどれ程のモノだったのか、
そしてもう終わらせたかったのかもしれない、アッシュを。
やけにエレノアの執着するアイリーンは何故かエレノア以上にエレノアを傷つけた者達を恨んでいたから。
「ーっ、足を片方切ってきたんだ。あの鎖があると部屋の中しか歩けないから」
ぎごちない歩き方はそう言う事だったのか、おそらく雑に止血されているだろう足首より下の無い彼の左足を凝視した。
「何の目的で来た?」
「君の所為だと思ってた、君が奪ったって」
「……」
「でも僕が自分で手放してた全部台無しにしてた」
「それなら、ここに来るべきじゃない」
「ううん、僕は玩具にされる。それならーー」
「やめろ」
「此処で償おうと思って、エレノアに伝えて……」
「アッシュ!!」
一歩、あと一歩、間に合わなかった。
「愛してたのは本当だったって」
自らの腹部を深く刺した彼はボロボロと涙をながして青白い顔でもう限界なのだとその瞳で訴えかけた。
「セレンが……ずっと僕の近く、に、いるん、だ」
「……」
「お、願い……エレノアに愛してるって伝え……て、ね」
自らの足元で力尽きたアッシュを見下ろして、マントを脱いで隠した。
彼への配慮ではなく、これ以上騒ぎにならないようにだった。
それにそっと触れて言えなかった返事をした。
「申し訳ないけど、伝えないよ」
シドは振り返ってその場に居合わせた馬車と、衛兵、護衛騎士達の口を封じるように命じた。
そして遅れて来た侍従に更に命じた。
「とりあえず、全てが終わるまでエレノアの耳に届かせるな」
「「はい」」
「父上の元へは私が行く」
「殿下……、ですが!」
「私は大丈夫だ。ただ祝いの日をエレノアのトラウマにしたくない」
アッシュ、何故こうした?
何故、そう最後まで愛してると言いながら、エレノアの心に傷をつけようとするんだ?
怒りがふつふつと湧いて、少しだけ悲しくなった。
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