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武闘大会 4
しおりを挟むカミルとレイノルドの試合の後、
騎士団長候補のゼナードルとルシアンの闘いは魔法と剣術を両方使えるルシアンに呆気なく軍配があがった。
そして今、セオドアとディートリヒが向き合う。
「よりにもよって……君とか」
「……」
セオドアはイブリアに向かって微笑むと驚きの声と、悲鳴にも似た黄色い声に会場は騒然とした。
(近頃のテディはどう言うつもりかしら……)
チラリと王妃を見ると、やはり僅かだが怒りと動揺を感じる。
先程から王妃の思うように事が進んでいないのだろう。
言葉少なに、剣を構え魔力を込めたディートリヒと同じようにセオドアもまた剣を構えて魔力を込めた。
彼の碧眼が光ったような気がした。
「それは、王家の眼ですね。とても目が良い筈だ」
「あいにくコレの所為で不自由でね」
「眼の事は、もう公表しても?」
「あぁ君はずっとイブの傍にいたから知ってるね」
「必要ならば魔法で誤魔化せますが」
「いいんだ。もっと大切な事が出来た、俺は彼女が欲しい」
セオドアは真剣な眼差しでそう言うと、ディートリヒに向かって行く。
彼の魔力の込められた剣を最も簡単に受けると、表情を変えずに剣を弾き返した。
「ーっ、今度はイブをちゃんと守るよ」
「都合のいい話だな」
ディートリヒは剣を振るいながらも、魔法での攻撃でセオドアを翻弄する。
「魔法の才があるのはそっちだけじゃないっ……と」
セオドアは、ディートリヒのそんな様子に自分も負けじと技を繰り出すが何故か彼の攻撃が何となく分かるような、妙な既視感があった。
ディートリヒの闘い方や魔法の技には見覚えがあったのだ。
観客席で試合を見るルシアンも思わず口に出す。
「あれは……イブリアの闘い方だ」
「えっ……イブリア様?」
アカデミーで実践が免除されていたセリエは訳が分からないといった風に首を傾げたが、同じ時期にアカデミー生だった者なら皆気付くだろう。
彼の緻密に練られた魔力や研磨された剣術は彼女のような派手さはないものの、剣の構え方に捌き方、身のこなしはもちろん魔法の技も全てがイブリアによく似ているのだ。
ルシアンも、セオドアも思わず嫉妬が湧き上がる。
治療から戻ってきたティアードも思わず目を見開いた。
「イブ……?」
「ティアード、戻ったか」
「はい殿下……あれは」
「ディートリヒだ……」
「あぁ……そうですね」
(ずっと彼女のそばに居たんだ。一人じゃなかったんだ)
ティアードは今更だと分かっていても、ほっとした。
離れていてもイブリアの中には彼らが居て一人じゃなかったのだと。
セオドアは湧き上がる嫉妬心を生まれて初めて燃やした。
ディートリヒにとってイブリアが全てだが、イブリアにとってもまたーー
(ディートリヒはイブを象る一部なんだ)
「少し違うが、間違いなく同じだ。まるでイブだ」
「いや、違うな……君がイブに教えたんだな」
「……」
ディートリヒは特に返事をしなかったがセオドアが出した渦巻く魔力の竜巻すら一振りで消滅させる。
何を繰り出しても簡単に振り払われるセオドアは、ディートリヒに対してまさになす術がない状態だった。
「言いたいことは全部ですか?」
息ひとつ切らしていないディートリヒの姿に、アカデミー時代のイブリアが重なる。
"言いたいことは全部ですか?"
普段悪口や悪態にも反応しなかった彼女は、実践の授業のときにだけ相手を成す術なく打ち負かしてからそう言ったのだ。
「……ルシアンじゃなかった、イブの全部を元々君が持ってた」
「イブリアお嬢様は、彼女だけのもので誰も得られません。ただ僕が彼女を愛して止まないだけです」
「まっすぐだな」
「……そうでしょうか、あなた方が傲慢なだけでは?」
ディートリヒの技は、イブリアの赤々とした魔力とはちがって星空のように煌めく夜空の色だった。
飲み込まれてしまえばもう負けだと理解してもセオドアにはもう、防ぐだけの力も術もなかった。
もう一度見たいと思った、ふと浮かんだのはまだ皆で国の未来を誓った頃のイブリアの笑顔だった。
"テディ、また私が勝ったわ!次はお茶にしましょう?"
"私の所為で喧嘩したのね?……テディ、ありがとう"
(あぁ俺も真っ直ぐだったな、いつから歪んでた?イブ、君にはそれが見えていたんだね)
ディートリヒはふと不安になってイブリアを見た。
セオドアは彼女にとって親友と呼べる者だったからだ。
それでも彼女は微笑んでディートリヒの勝利を喜んでくれた。
次は、ルシアンと魔法騎士団所属の者の試合を挟んでから、
カミルとディートリヒの対戦の番だった。
(おおよそ、ルシアンの方の相手は当て馬でしょうね)
けれど、カミルとディートリヒが余りにも桁外れな為に勝ち上るのを防げず王妃は怒りに震えていたのだ。
「あの平民は……いつまで経っても邪魔ね」
「母上?」
「王妃、余計な手出しは許さんぞ」
「へ、陛下!?」
「目を瞑るのはここまでだ。ルシアン……」
「はい、父上」
「王太子の名に恥じぬ、立派な試合をしてきなさい」
「……はい、父上」
セリエは初めて見た、ルシアンや先程のセオドアと同じ国王の光る碧眼の迫力に震えて少し怖くなった。
(この人は簡単じゃない。気をつけなきゃ)
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