23 / 56
武闘大会 5
しおりを挟む魔法で映し出された、カミルとディートリヒの名前。
「ディート、やっぱりこうなったな……」
「想定内だが、気が引けるな」
「どうせなら久々に手合わせを楽しもう、ディート」
「程々にしないとまた怒られる」
「ほら、イブの為にもバロウズの強さを見せつけておくなんてどう?」
物足りないカミルが、久々にディートリヒと手合わせをしたいだけの雄弁だったがディートリヒはイブリアの為にという言葉には弱く、小さく頷いた。
「どのくらいやればいい?」
「程々でいいさ、俺について来いよ?」
「……そっちこそ」
向かい合う二人はバロウズ家のマスターの資格を持つ後継者と、バロウズ家のマスター騎士だ。
ソードマスターの資格を持つ者は、国には5人しか居ない。
同じ家門から出場する二人がどのように闘うのか皆が注目していた。
「「じゃ、始め」」
彼らが剣の先で乾杯でもするように合わせてカンと鳴らせた瞬間だった。
二人の端正な顔から爽やかな笑顔が溢れるのに令嬢達が見惚れている間に、ピリピリと痛いほどに感じる魔力に防御壁があるにもかかわらず耐え切れず気絶する者も出始め、会場内はどよめき動揺する。
おおよそ殆どの者が目で追えない速さでぶつかり合う剣の音と、絶え間なくぶつかる攻撃魔法、時折見える彼らの姿と表情はとても楽しそうに見えた。
二人の魔力のぶつかる圧に、観客席を覆う防御壁がバリバリと音を立てる。
「ディート、さすがだな」
「カミルこそ」
「ここが持つと良いけど……」
「じゃあそうなる前に決着をつけよう」
地面は捲れて、魔力圧でそこら中に浮かび上がる瓦礫を足場にまるで重力を無視した動きでぶつかり合うカミルとディートリヒにいくら普段優れた者達だと持て囃されている出場者達も、ただ目と口を開いて言葉を失った。
おおよそ彼らが違う生き物にでも見えているのだろう。
ルシアンや見えていないはずの王妃の顔色も白く、セリエに至っては全く見えていない上に状況が理解できていないようだった。
「ルシアンっ、何が起きているの!?怖いわ……」
「大丈夫だセリエ。防御壁が破れた事は無い」
けれどもルシアンは、震えるセリエよりもイブリアの視線が気になった。
自分にはもう向けられない柔らかな視線が羨ましかった。
(イブリア……こっちを見てはくれないのか)
いつでも目が合うと微かに微笑んでくれた彼女はもう、今は目合わせてくれる事もない。
あれほどに輝いて見えたセリエが何故か近頃はくすんで見える。
あの淡い桃色の髪と、独特な桃色の情熱的な瞳を求めていた。
(どっちが勝ち上ってきても、勝ってやる)
「ねぇ、ルシアン……貴方が心配だわ」
「心配しなくていい、必ず勝つさ」
「まぁ!私の為に戦ってくれるのね!」
「……」
「ルシアン?」
ルシアンはセリエの言葉に答える事ができなかった。
チラリと見たイブリアは遠目にも楽しげで胸がチクリとした。
「お兄様ったら……それにディートまで。でも二人のあんなにも楽しそうな表情は久しぶりだわ」
イブリアは呆れながらも楽しそうな兄とディートリヒを微笑ましく観戦するが、向こう側の席から馴染みある赤々と光る魔力を感じ、「まずい」と二人に視線を戻した。
「カミル!!ディートリヒ!!」
愉快だと笑う国王の側を離れて身を乗り出すと、とうとう怒って二人の名を呼んだイルザの声に二人は叱られた子供のようにピタリと動きを止める。
「ディート早く、俺壊すのは得意だが戻すのは苦手なんだ」
「…ああ、急ごう」
公爵の声に焦ってディートリヒを促したカミルの声を合図にディートリヒは急いで会場を元に戻す。
「降参!!俺の負けだよ!!!」
宣言通りカミルが降参し、ディートリヒの勝利が確定するなり泣きじゃくるマルティナの姿を見つけて慌てて彼女の元へ戻ったカミルを見送ってから、おそるおそるイブリアの方を見ると……
「ふふふっ!お父様のあんな姿は久々に見たわ、二人ともお疲れ様!」
子供の頃のような二人と父のやりとりに楽しそうに笑った、言ったイブリアの声を全部は聞き取ることができなかったが唇の動きで何と言ったかは読み取れた。
何よりその大地を照らす陽の光のような、花が開くような、なんとも形容しがたい美しさを放つ笑顔に多くの者達が見惚れた。
ディートリヒはすぐに戻って抱きしめたいと思った。
けれども、次の試合はルシアンとの決勝戦。
勝ち越したディートリヒはここのまま中央に残り、ルシアンが降りてき次第すぐに試合開始となる。
まるで、ディートリヒの思考を読み取ったかのようにイブリアの唇がゆっくりと動いた。
「待ってる、無理しないでね」
思わずイブリアに微笑んだディートリヒの極上とも言える笑みに思わず胸が高鳴ったのはイブリアだけでなかった。
黄色い声援で会場が賑わう中、セリエはディートリヒから目が離せなかった。
(欲しいわ……)
149
あなたにおすすめの小説
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ
春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。
エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!?
この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて…
しかも婚約を破棄されて毒殺?
わたくし、そんな未来はご免ですわ!
取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。
__________
※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。
読んでくださった皆様のお陰です!
本当にありがとうございました。
※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。
とても励みになっています!
※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
⚪︎
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
最強の薬師、婚約破棄される〜王子様の命は私の懐の中〜
岡暁舟
恋愛
代々薬師として王家に仕えてきたボアジエ公爵家。15代当主の長女リンプルもまた、優秀な薬師として主に王子ファンコニーの体調を整えていた。
献身的に仕えてくれるリンプルのことを、ファンコニーは少しずつ好きになっていった。次第に仲を深めていき、ついに、2人は婚約することになった。だがしかし、ある日突然問題が起きた。ファンコニーが突然倒れたのだ。その原因は、リンプルの処方の誤りであると決めつけられ、ファンコニー事故死計画という、突拍子もない疑いをかけられてしまう。
調査の指揮をとったのは、ボアジエ家の政敵であるホフマン公爵家の長女、アンナだった。
「ファンコニー様!今すぐあの女と婚約破棄してください!」
意識の回復したファンコニーに、アンナは詰め寄った。だが、ファンコニーは、本当にリンプルが自分を事故死させようと思ったのか、と疑問を抱き始め、自らの手で検証を始めることにした……。
いいえ、ただ私は婚約破棄されたいだけなんです!
鏡おもち
恋愛
伯爵令嬢ロニエ・エヴァンズには、ささやかな野望があった。それは、ハイスペックすぎて重すぎる愛を持つ婚約者、第一王子アレンから「婚約破棄」を突きつけられ、実家の離れで一生ダラダラと昼寝をして過ごすこと。
ロニエは学園入学を機に、あの手この手で「嫌われる努力」を開始する。
嘘つきな婚約者を愛する方法
キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は嘘つきです。
本当はわたしの事を愛していないのに愛していると囁きます。
でもわたしは平気。だってそんな彼を愛する方法を知っているから。
それはね、わたしが彼の分まで愛して愛して愛しまくる事!!
だって昔から大好きなんだもん!
諦めていた初恋をなんとか叶えようとするヒロインが奮闘する物語です。
いつもながらの完全ご都合主義。
ノーリアリティノークオリティなお話です。
誤字脱字も大変多く、ご自身の脳内で「多分こうだろう」と変換して頂きながら読む事になると神のお告げが出ている作品です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
作者はモトサヤハピエン至上主義者です。
何がなんでもモトサヤハピエンに持って行く作風となります。
あ、合わないなと思われた方は回れ右をお勧めいたします。
※性別に関わるセンシティブな内容があります。地雷の方は全力で回れ右をお願い申し上げます。
小説家になろうさんでも投稿します。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる