元カレの今カノは聖女様

abang

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武闘大会 5

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魔法で映し出された、カミルとディートリヒの名前。



「ディート、やっぱりこうなったな……」


「想定内だが、気が引けるな」


「どうせなら久々に手合わせを楽しもう、ディート」


「程々にしないとまた怒られる」


「ほら、イブの為にもバロウズの強さをなんてどう?」


物足りないカミルが、久々にディートリヒと手合わせをしたいだけの雄弁だったがディートリヒはイブリアの為にという言葉には弱く、小さく頷いた。



「どのくらいやればいい?」


「程々でいいさ、俺について来いよ?」


「……そっちこそ」



向かい合う二人はバロウズ家のマスターの資格を持つ後継者と、バロウズ家のマスター騎士だ。


ソードマスターの資格を持つ者は、国には5人しか居ない。


同じ家門から出場する二人がどのように闘うのか皆が注目していた。



「「じゃ、始め」」



彼らが剣の先で乾杯でもするように合わせてカンと鳴らせた瞬間だった。


二人の端正な顔から爽やかな笑顔が溢れるのに令嬢達が見惚れている間に、ピリピリと痛いほどに感じる魔力に防御壁があるにもかかわらず耐え切れず気絶する者も出始め、会場内はどよめき動揺する。


おおよそ殆どの者が目で追えない速さでぶつかり合う剣の音と、絶え間なくぶつかる攻撃魔法、時折見える彼らの姿と表情はとても楽しそうに見えた。


二人の魔力のぶつかる圧に、観客席を覆う防御壁がバリバリと音を立てる。


「ディート、さすがだな」

「カミルこそ」

が持つと良いけど……」


「じゃあそうなる前に決着をつけよう」


地面は捲れて、魔力圧でそこら中に浮かび上がる瓦礫を足場にまるで重力を無視した動きでぶつかり合うカミルとディートリヒにいくら普段優れた者達だと持て囃されている出場者達も、ただ目と口を開いて言葉を失った。

おおよそ彼らが違う生き物にでも見えているのだろう。

ルシアンや見えていないはずの王妃の顔色も白く、セリエに至っては全く見えていない上に状況が理解できていないようだった。


「ルシアンっ、何が起きているの!?怖いわ……」

「大丈夫だセリエ。防御壁が破れた事は無い」


けれどもルシアンは、震えるセリエよりもイブリアの視線が気になった。
自分にはもう向けられない柔らかな視線が羨ましかった。


(イブリア……こっちを見てはくれないのか)


いつでも目が合うと微かに微笑んでくれた彼女はもう、今は目合わせてくれる事もない。

あれほどに輝いて見えたセリエが何故か近頃はくすんで見える。

あの淡い桃色の髪と、独特な桃色の情熱的な瞳を求めていた。


(どっちが勝ち上ってきても、勝ってやる)


「ねぇ、ルシアン……貴方が心配だわ」

「心配しなくていい、必ず勝つさ」

「まぁ!私の為に戦ってくれるのね!」


「……」

「ルシアン?」

ルシアンはセリエの言葉に答える事ができなかった。

チラリと見たイブリアは遠目にも楽しげで胸がチクリとした。




「お兄様ったら……それにディートまで。でも二人のあんなにも楽しそうな表情は久しぶりだわ」


イブリアは呆れながらも楽しそうな兄とディートリヒを微笑ましく観戦するが、向こう側の席から馴染みある赤々と光る魔力を感じ、「まずい」と二人に視線を戻した。





「カミル!!ディートリヒ!!」





愉快だと笑う国王の側を離れて身を乗り出すと、とうとう怒って二人の名を呼んだイルザの声に二人は叱られた子供のようにピタリと動きを止める。


「ディート早く、俺壊すのは得意だが戻すのは苦手なんだ」


「…ああ、急ごう」


公爵の声に焦ってディートリヒを促したカミルの声を合図にディートリヒは急いで会場を元に戻す。



「降参!!俺の負けだよ!!!」


宣言通りカミルが降参し、ディートリヒの勝利が確定するなり泣きじゃくるマルティナの姿を見つけて慌てて彼女の元へ戻ったカミルを見送ってから、おそるおそるイブリアの方を見ると……



「ふふふっ!お父様のあんな姿は久々に見たわ、二人ともお疲れ様!」


子供の頃のような二人と父のやりとりに楽しそうに笑った、言ったイブリアの声を全部は聞き取ることができなかったが唇の動きで何と言ったかは読み取れた。


何よりその大地を照らす陽の光のような、花が開くような、なんとも形容しがたい美しさを放つ笑顔に多くの者達が見惚れた。


ディートリヒはすぐに戻って抱きしめたいと思った。


けれども、次の試合はルシアンとの決勝戦。


勝ち越したディートリヒはここのまま中央に残り、ルシアンが降りてき次第すぐに試合開始となる。



まるで、ディートリヒの思考を読み取ったかのようにイブリアの唇がゆっくりと動いた。



「待ってる、無理しないでね」



思わずイブリアに微笑んだディートリヒの極上とも言える笑みに思わず胸が高鳴ったのはイブリアだけでなかった。


黄色い声援で会場が賑わう中、セリエはディートリヒから目が離せなかった。


(欲しいわ……)
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