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別れと、未来
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聖女……と呼ぶには些か無理があるが、聖女セリエの処刑の執行日はいよいよやってきた。
セリエは、どうしてこうなったのか?どこで間違えたのかを考えるがずっとわからないままで、
処刑台から見えるイブリアの瞳は澄んでいて強い意志を感じる。
今からあの女のせいで死ぬというのに、イブリアだけが妙に美しく見えた。
寧ろまた、自分という人生経験を経て、強く美しくなっていくだろう。とふと頭をよぎって胃液が込み上げて眩暈がした。
彼女の人生にとって……自分などただ乗り越えるべき試練だった。
些細な、一瞬の踏み台にしか過ぎなかったのではないかと。
そんな彼女を思考の世界から引き戻したのは無機質な国王の声だった
「言い残すことは?これで本当に最期になるぞ」
「……んな、なんで私が!」
「それが分からないから、こうなったんだセリエ」
セオドアが、顔色の抜け落ちたルシアンの無表情を心配そうにチラリと確認しながらセリエと目を合わせて言った。
この場ではそんな友情地味た二人の様子にも苛立った。
仲良く自分に夢中になっていればあのままマシな人生を迎えられたのにとセオドアとルシアンを内心で罵って鼻で笑った。
それでも、止めようとしても止まらない震え、短く乱雑に切られた銀髪、セリエは今のどの状況も気に入らなかった。
「わ私は、どうやって死ぬの?」
「塵も残らないよ、彼が買って出たからね」
そう言ってセオドアと国王の視線がディートリヒに向いて、自然にセリエも其方に視線をやると、彼からはあまりにも何の感情も感じない。
穏やかな表情ではあるが、彼からは怒りも、戸惑いも感じないのだ。
けれど、その美しい瞳はまるで殺してやると語りかけてくる。
あんなに欲したイブリアの男が、今は死神に見えた。
「彼を……狙ったのが間違いだったのね」
セリエがそう呟いたのを拾った国王とセオドアはあまりの愚かさに眉を顰めたが、歩いて登ってきたディートリヒもまた聞こえていたようで落ち着いた声で「違う」と言った。
「え……」
「イブを狙った所から間違ってる」
そう言って彼がセリエの真前に立つとその威圧感に、冷気すら感じる視線にとうとうセリエは歯までもがガチガチと音を立てた。
この男、ディートリヒにとってはたったそれだけだった。
イブリアに害を成すものを、彼女を傷つけるものをただ排除するだけなのだ。
セリエが気に入らないとか、国の為だとか、イブリアにいい格好をしたいとか、そう言う次元ではなくただ淡々と目の前に立ちはだかろうとするイブリアの障害物を排除していくだけなのだ。
道を歩くのと同じ、日常なのだ。
彼にとってイブリアは全てで、それが当たり前だった。
(おかしいわ!狂ってる!)
皆は、ディートリヒが表情一つ変えずにただ虫でも払うかのようにセリエに魔法を放つ姿をごくりと生唾を飲んで見つめた。
「耳障りだな」
セリエの叫び声に瞳をほんの少しだけ揺らしたイブリアを視界の端に捉えると小さくそう呟いたディートリヒの魔法によってセリエの叫び声は遮断された。
「痛い」彼女の口の動きは確かにそう言ったがその悲痛な声は届かない。
ディートリヒが瞳をほんの一瞬見開いただけでセリエの身体は塵のように小さな粒になって砂嵐のようにクルクルと舞う。
もう胸から上だけしか原形のないセリエは涙で顔を崩して、大きく口を開いて何かを訴えかけているがディートリヒはもう視線さえもそちらに向ける事はなく、いつの間にかイブリアの元へと移動してのと寄り添うように肩を抱いている。
「大丈夫ですか、イブ」
「ええ……」
「断首だとイブの目に毒だと思って僕が名乗り出ました」
「……ごめんなさい、ディート」
「……イブ」
ディートリヒはイブリアを呼ぶとそのまま頬を包み込むようにして、少しだけしゅんとした様子で言う。
「ディート?」
「僕を、恐れないで。貴女を好きな僕を受け入れて欲しい」
どこか弱々しく言ったディートリヒの普段とは違う、どこか可愛いらしい仕草に多くの令嬢がきゅんと胸を鳴らしたが
イブリアはきゅっと切なく締め付けられるような気がした。
「当たり前よディート、貴方のことを愛しているもの」
「怒っていませんか?」
「私の為にしたのよ……貴方を責める理由がないわ」
「……」
セリエの姿はほんの小さな光の粒となって綺麗に舞うと、その粒は小さくなって順番に消えていった。
セリエの衣服も、手錠すら残らぬその場にはまるで元々誰も居なかったかのような気さえするほどだった。
聖女セリエの処刑を終え、ランベール国は平和を取り戻した。
すっかりと元通りに賑やかになった町は穏やかで、シュテルン侯爵城でも穏やかな雰囲気が……
「もう、ディートなんて知らないわ!」
「イブ、待って下さい!」
偶々やって来たカミルは目の前のまるで嵐でも来たかのような雑然とした部屋を見て驚愕した。
「おい……一体何が起きたんだ……」
セリエは、どうしてこうなったのか?どこで間違えたのかを考えるがずっとわからないままで、
処刑台から見えるイブリアの瞳は澄んでいて強い意志を感じる。
今からあの女のせいで死ぬというのに、イブリアだけが妙に美しく見えた。
寧ろまた、自分という人生経験を経て、強く美しくなっていくだろう。とふと頭をよぎって胃液が込み上げて眩暈がした。
彼女の人生にとって……自分などただ乗り越えるべき試練だった。
些細な、一瞬の踏み台にしか過ぎなかったのではないかと。
そんな彼女を思考の世界から引き戻したのは無機質な国王の声だった
「言い残すことは?これで本当に最期になるぞ」
「……んな、なんで私が!」
「それが分からないから、こうなったんだセリエ」
セオドアが、顔色の抜け落ちたルシアンの無表情を心配そうにチラリと確認しながらセリエと目を合わせて言った。
この場ではそんな友情地味た二人の様子にも苛立った。
仲良く自分に夢中になっていればあのままマシな人生を迎えられたのにとセオドアとルシアンを内心で罵って鼻で笑った。
それでも、止めようとしても止まらない震え、短く乱雑に切られた銀髪、セリエは今のどの状況も気に入らなかった。
「わ私は、どうやって死ぬの?」
「塵も残らないよ、彼が買って出たからね」
そう言ってセオドアと国王の視線がディートリヒに向いて、自然にセリエも其方に視線をやると、彼からはあまりにも何の感情も感じない。
穏やかな表情ではあるが、彼からは怒りも、戸惑いも感じないのだ。
けれど、その美しい瞳はまるで殺してやると語りかけてくる。
あんなに欲したイブリアの男が、今は死神に見えた。
「彼を……狙ったのが間違いだったのね」
セリエがそう呟いたのを拾った国王とセオドアはあまりの愚かさに眉を顰めたが、歩いて登ってきたディートリヒもまた聞こえていたようで落ち着いた声で「違う」と言った。
「え……」
「イブを狙った所から間違ってる」
そう言って彼がセリエの真前に立つとその威圧感に、冷気すら感じる視線にとうとうセリエは歯までもがガチガチと音を立てた。
この男、ディートリヒにとってはたったそれだけだった。
イブリアに害を成すものを、彼女を傷つけるものをただ排除するだけなのだ。
セリエが気に入らないとか、国の為だとか、イブリアにいい格好をしたいとか、そう言う次元ではなくただ淡々と目の前に立ちはだかろうとするイブリアの障害物を排除していくだけなのだ。
道を歩くのと同じ、日常なのだ。
彼にとってイブリアは全てで、それが当たり前だった。
(おかしいわ!狂ってる!)
皆は、ディートリヒが表情一つ変えずにただ虫でも払うかのようにセリエに魔法を放つ姿をごくりと生唾を飲んで見つめた。
「耳障りだな」
セリエの叫び声に瞳をほんの少しだけ揺らしたイブリアを視界の端に捉えると小さくそう呟いたディートリヒの魔法によってセリエの叫び声は遮断された。
「痛い」彼女の口の動きは確かにそう言ったがその悲痛な声は届かない。
ディートリヒが瞳をほんの一瞬見開いただけでセリエの身体は塵のように小さな粒になって砂嵐のようにクルクルと舞う。
もう胸から上だけしか原形のないセリエは涙で顔を崩して、大きく口を開いて何かを訴えかけているがディートリヒはもう視線さえもそちらに向ける事はなく、いつの間にかイブリアの元へと移動してのと寄り添うように肩を抱いている。
「大丈夫ですか、イブ」
「ええ……」
「断首だとイブの目に毒だと思って僕が名乗り出ました」
「……ごめんなさい、ディート」
「……イブ」
ディートリヒはイブリアを呼ぶとそのまま頬を包み込むようにして、少しだけしゅんとした様子で言う。
「ディート?」
「僕を、恐れないで。貴女を好きな僕を受け入れて欲しい」
どこか弱々しく言ったディートリヒの普段とは違う、どこか可愛いらしい仕草に多くの令嬢がきゅんと胸を鳴らしたが
イブリアはきゅっと切なく締め付けられるような気がした。
「当たり前よディート、貴方のことを愛しているもの」
「怒っていませんか?」
「私の為にしたのよ……貴方を責める理由がないわ」
「……」
セリエの姿はほんの小さな光の粒となって綺麗に舞うと、その粒は小さくなって順番に消えていった。
セリエの衣服も、手錠すら残らぬその場にはまるで元々誰も居なかったかのような気さえするほどだった。
聖女セリエの処刑を終え、ランベール国は平和を取り戻した。
すっかりと元通りに賑やかになった町は穏やかで、シュテルン侯爵城でも穏やかな雰囲気が……
「もう、ディートなんて知らないわ!」
「イブ、待って下さい!」
偶々やって来たカミルは目の前のまるで嵐でも来たかのような雑然とした部屋を見て驚愕した。
「おい……一体何が起きたんだ……」
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