元カレの今カノは聖女様

abang

文字の大きさ
51 / 56

騎士と婚約者

しおりを挟む

「なんだ、この部屋は!?」


カミルの問いかける声に答えるはずの二人はとっくに部屋を出ており、仕方なく来慣れた部屋を元通りにするために魔法を放った。




「あの……カミルさま?」


ひょっこりと顔を覗かせたのは、この城の使用人件護衛であるヒッピというまだ幼い少年で「お、お嬢様が……誤解を……っ」と焦った様子で伝えた。




「イブが、誤解?」


「旦那様は、お嬢様を女性として愛しているのではないのだと仰って、けれど旦那様は……」



"ディート、あなたは私を女性として愛しているのではないわ"


"いいえ。私にとってイブが全てです"


婚約者というよりはまるで今まで通り、中でも外でも護衛騎士のように振る舞うディートリヒとの関係をかえようと思って、あの手この手で恋人らしく振る舞う努力をしたイブリアは一か月で先その言葉が出たのだという。


歩く時もイブリアの後、触れ合って愛おしげに寄り添うこともあるが触れるだけのキスが精々でイブリアの身の回りの世話を相変わらず自分でやきたがるディートリヒは恋人というよりも護衛騎士の振る舞いそのものだった。


"私にとってイブが全てです" と言う言葉は嬉しいものの、昔から変わらぬその言葉はまるでイブリアお嬢様に向けた言葉に感じて、


耐えきれずにイブリアは「もう、ディートなんて知らないわ!」と出て行く始末になったのだという。


先程の困ったようなディートリヒの、初めてみるパターンの表情にカミルは「ぷっ」と吹き出した。



「か、カミル様……!笑い事では……っ」

「あぁ……大丈夫だよ。イブももう大人だ」

(それに、いくら疎くても成長しないとなディート)


天然タラシではあるものの女心を全く知らない、むしろ女心などと言う言葉自体知っているのかと疑問に思う程疎いディートリヒも、とうとうそれを学ぶときが来たのだと考えるものの、少しだけ心配になってバロウズ邸に手紙を飛ばした。



「カミル様は今日はシュテルン城にお泊まりになるらしいです」

「何かあったのか?」

「いいえ……ただイブリアお嬢様の為だとだけ」

「はぁ……いざとなったらゲートを開けばいい。放っておけ」

「御意」




「一人にして、ディート」


そう言って瞳を潤ませるイブリアの様子が最近少し前とは変わったのには気づいていた。

自分なりに尽くそうとした結果が彼女を悩ませている事には今さっき何となく気付いたものの、どうしたらいいのかが分からなかった。


今までだって、今だって、ずっとずっとイブリアを愛している。

その気持ちは減速することなく予測できない速さで膨れ上がってディートリヒの全部を占めているというのに、何故イブリアは怒ったのか?


欲張りになっていく自分に、触れたくなる劣情に、耐えて彼女を傷つけてしまぬように大切にしてきた。なのに……


「何で泣くのですか、イブ」

「私の問題よ」

「いいえ、僕たちの問題です」


きっとそのような感じがした。

これは二人の問題だと思った。



「貴方は、私をイブリアお嬢様として大切にするわ。けれど……私はあなたの婚約者として愛されたいの」


「愛している」この言葉の重さがどう伝わるだろうか、

むしろ知られてしまえば引かれてしまわないだろうか、


どうやったら、婚約者として愛している事になるのか?


けれどもイブリアの濡れた瞳に胸が引き裂かれて、苦しくなった。

取り繕い、飾った言葉ではきっと伝わらないと思った。



ふと、カミルがよく「お前の言葉で、お前の本音がききたい」と言ってヘソを曲げていたのを思い出した。




「愛しています。狂おしい程に、イブが好きで、僕の全部を占めている。貴女に触れたいし僕以外には触れられたくないと思うほどに」


ディートリヒの熱を帯びた瞳に、イブリアは一瞬びくりと肩を揺らしたが直ぐにかあっと顔を赤めて「噓よ」と呟いた。


「嘘じゃありません。僕はイブを知っても知っても知りたいと思うし、誰にも傷つけさせない為に、奪われない為にとそればかり考えている」



「私は、他の誰の元へも何処へもいかないわ!」


「分かっていても、怖いのです。愛しているから」


「……私は、貴方に隣を歩いて欲しい。私の部屋を守るのではなくて一緒に眠るまで話をしたい、愛されるばっかりじゃなくて、私の愛してるを受け取って欲しいの!」


「受け取って、欲しい?」


「貴方は、与えるのは得意だけれど受け取るのは苦手なのね……これじゃあずっと護衛騎士と令嬢のままよ……褒美や給与ではなくお互いがお互いの愛をちゃんと受け取っていたいのよ、ディート」


「イブ……僕は、貴女のことが愛おしくてずっと守ろうと思っていました。けれど今、貴女からの愛を受け取れると想像すればとても……とても胸が温かくて幸せです」


「……癇癪を起こして御免なさい」


「いいえ、僕が未熟でした。イブ……では僕の夢をひとつ叶えてくれませんか?」


「夢……」


「近頃ずっと、貴女と並んで手を繋いで歩きたいと考えていました」


「へ……そんな事?」


「イブも同じように考えてくれると知って嬉しくなりました」


「……ディートっ!」


目尻に涙を浮かべてディートリヒに飛び付いたイブリアを受け止めて彼女の頭に触れるか触れないかのキスをすると「待って」とイブリアに囁いてから、いつも通りの抑揚の少ない声で声をかけた。


「カミル、いつまで覗いているつもりだ」


「え"っ、ごめん」


そう言ってバツが悪そうに出て来たカミルの足元でヒッピが転んだのを見て、三人は笑った。




「とても幸せよ、ディート」


「僕も幸せです、イブ」



「くそぉ、マルティナに会いたい……」





しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結済】監視される悪役令嬢、自滅するヒロイン

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 タイトル通り

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

処理中です...