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28.残された選択肢
「侯爵様がお呼びで御座います、トリスタン様」
「父上が?……すぐに行くと伝えろ」
後日、ルーシュフル家で父に呼び出されるトリスタンは一体何の用事なのかもしかしたらエリスはまだかと急かされやしないだろうかと落ち着かない気持ちだ。
彼の父、ルーシュフル侯爵もまた落ち着かない……と言うよりも生きた心地のしない時間だった。
「トリスタンはまだか?」
「突然押しかけたのは此方なので、待ちますよ侯爵」
「いや、そういう訳には……っ」
ルーシュフル邸には現在、ヴィルヘルム公爵家から使いが来ているのだ。
先日の件でトリスタンと侯爵に会いに来て居るのは彼の腹心フォーデンで、ジョルジオの側近として彼はとても有名なので疑わずともジョルジオ本人が本気で彼を送って来たのだと理解できる。
「父上、お呼びですか……っ!?」
「ジョルジオ公爵閣下からだ。私とお前に話しがあるようだ」
「は、話すことなんて……っ」
「それを決めるのはジョルジオ様です。揃いましたら言伝をさせて頂きますね」
フォーデンが読み上げたジョルジオからの伝言は至って単純であった。
要約すると、今だエリスに送り続けられている手紙とこの間の無礼なクロフォード家への訪問についてが書かれており、ジョルジオとエリスの婚約が正式に決まっている事が伝えられた。
直ちに求婚を止め二度と関わるなという事だ。
「結婚した訳じゃない!想うのは自由だ!」
「トリスタン、やめないか!」
「ならば心の内だけで想えば宜しいでしょう。ジョルジオ様の婚約者に二度と近づくなとストレートに言えば伝わりますか?」
慌ててトリスタンの父はエリスを諦めるように説得するが、納得のいかないトリスタン。
(このまま黙ってあの馬鹿女と結婚だなんて、嫌だ!!)
「選択するのはエリスじゃありませんか!!」
「おい!止めなさい!」
すると、一瞬小馬鹿にしたように笑った気がするフォーデンは冷やかに言い放った。
「ならば、貴方は選ばれなかったじゃないですか」
「それは……!!」
「幾ら公爵の使いだからと、無礼すぎませんか?」
フォーデンの表情は至って真面目だった。
まるで彼はその本心を隠すつもりがなさそうだ。
隙のない完璧な側近だともっぱら噂のジョルジオの腹心、フォーデン・セラフィア男爵がこのようなミスをするとは思えない。
だからこそ彼の態度はジョルジオからの指示でもあるのかもしれないと侯爵は頭をよぎったが、たかだか伯爵からの無礼に我慢できず言葉が出たのだった。
そんな侯爵に怯む事もなく、鋭く目を細めて睨みつけるように二人を見るフォーデンはケールの同期で彼は王宮での仕事ではなくジョルジオの侯爵邸に仕える事を選んだ。
剣はそれ程好きではなかったフォーデンはジョルジオの側近として仕える道を選び、ケールはジョルジオの部下として騎士団に入団する事を選んだ。
右にはフォーデン、左にケールと有能な部下の話は有名なのだ。
(なんて所に逃げ込んだんだ、小娘が!)
これではもう手の内様もなく、あの無能なミナーシュを受け入れる他ないだろうと落胆し焦るトリスタンとエリスの所為でジョルジオを敵に回したと内心で責任転嫁する侯爵。
まるでそれを知って軽蔑するようなフォーデンの冷ややかな視線。
「でしたら、婚約したばかりの令嬢に息子をけしかける侯爵は無礼ではないのですか?」
「うっ……とにかく、分りました。息子には言い聞かせます」
「父上!」
「黙れトリスタン!」
「ですがこのままではミナーシュが……っ」
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「では……エリス様からの伝言をお聞きになりますか?」
「エリスから……?」
(やはり、私の事を今でも……)
「はい、もし必要であれば伝えて欲しいと……」
「話せ!!!」
「では……」
「別れてくれてありがとう、私の人生にとって貴方から頂いた一番の幸運は貴方が別れてくれた事かもしれません。なのでもう忘れて下さい。お幸せに」
「は……う、嘘だ!」
トリスタンはもう「それではくれぐれも……」と言葉を続けるフォーデンの声など聞こえていなかった。
ただ、エリスからの伝言だけが頭の中でぐるぐると回っていた。
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