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どうかあなたもお気をつけて
二人を休憩室へと送る途中、エイリークはリセからの視線に気付かないふりをする。
不躾というわけでもないが、勿論熱い視線でもない。
少し離れて観察するような視線にエイリークは些細な仕草や目線でメロウへの想いがバレてしまうのではないかとハラハラした。
相変わらず、まるで何も起きていないようなメロウのふわふわした雰囲気は狂気的でもあるが「やっぱり可愛い」とつい胸が跳ねてしまう。
今回も彼女の狂気は友人という大切なものを守る為に振る舞われた。だからこそメロウが好きなのだ。
それに、暴君と言われるラフィネと似ているそういう部分はエイリーク達をとても安心させる。
「エイリーク、どうもありがとう」
「いいえ。あの新興貴族はこちらで処理しておきます」
「そう?助かるわ」
「ふふ、メロウったらもう顔を忘れたのね?」
クスクスと笑うリセの言葉にエイリークは驚愕する。
メロウは確かに少し抜けている、というか天然な所があるがまさかこうも簡単にあんなに派手に無礼を働いた者の顔を忘れてしまっているとは思わなかった。
もしかしたら皆と平等に距離をとっているというよりも、興味の対象がかなり偏っているのかもしれない。
「あの……無礼を承知でお尋ねしますが僕の顔は……」
「「ふっ」」
顔を見合わせて笑うメロウとリセは可笑しそうで、エイリークを見ては笑いが止まらないといった様子だ。
「まさか、エイリーク様は私とメロウが見知らぬ人に付いて行くとでも?」
「私達はそこまで世間知らずではないわ」
ふと思い出したよう手袋を捨てるメロウを見てリセが侍女に新しい物を持って来るように指示をする。
手袋越しだとしてもあの男がメロウに触れたと考えるだけで忌々しくなってエイリークは彼女の前に跪いてまるで使用人のようにハンカチを取り出す。
メロウが伸ばした白くて小さな手を取って、丁寧に拭うつもりだったが彼女が伸ばした手はハンカチを取ってエイリークの頬に触れるか触れないか程度にもう片方の手を添えて「ありがとう」と微笑んだ。
「あっ、いえ」
「……」
リセがじっとこちらを見ているのが分かる。
嫉妬心からメロウの手に触れようとしたのがバレているのではないかと落ち着かない。
「これは洗って返すわね」
「ここは私の邸よ。私に預けてちょうだいメロウ」
エイリークの刺繍の入ったハンカチをメロウから受け取って新しい手袋を手ずから着けてやるリセは甲斐甲斐しい。
確かにエイリークのイニシャルの入ったハンカチをメロウが持って帰ったのを知ると「何かあったのか?」とラフィネがわざわざエイリークを訪ねる可能性もある。
それにいくらメロウが懇意にしているとはいえ、フェルファッジ公爵家のパーティーで粗相がある訳にはいかない。
そう考えるとリセの行動は正しい。
(家門の為とはいえ僕も救われてしまったな)
それ以前にメロウがエイリークに委ねずにハンカチを取った判断に救われたのだろう。
とにかくこのままではいつかメロウに自分の気持ちがバレてしまうかもしれない。
いくら彼女がそういった類の感情に鈍感だとはいえ、リセがこんなにも早く気付いてしまうのだから時間の問題だろう。
「僕は後処理があるので、失礼します」
「そう、エイリーク。今度ラフィに会いに来てあげてね」
「もちろん!光栄です。それでは失礼致します」
扉を閉めて三歩ほど歩くと彼がいま閉めたばかりの扉が開く。
思ったとおり出てきたのはメロウではなく、リセだった。
人の良い笑みを浮かべた彼女はエイリークが振り向くよりも先に彼に忠告した。
「エイリーク様は危なっかしいですわね」
「あ、いや……」
「どうか貴方もお気をつけて」
リセの表情から口先だけの忠告や、意地悪心からそう言っているのではないとすぐに伝わった。
きちんと鍵をかけて置かなければ、奪われるのは心だけでは済まなくなるだろう。
「ああ、ご忠告感謝します」
メロウの表情や声色がこれほど頭から離れないというのに、エイリークはしっかりと頷いて彼女が居るはずの部屋の扉を一度見てから目を逸らした。
リリエーヌは護衛を依頼して来たが、リセが居れば余程のことはもう起こらないだろう。
(あー今日も美しかったな)
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