暴君の妻はふわふわした模範妻

abang

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親友だなんて簡単な言葉に聞こえる



エイリークの元より全てを受け入れて全てを悟っていると言わんばかりの切なげな背中を鼻で笑った。


リセにとってエイリークのような男は溢れるほど見てきた日常だ。メロウは他人の心の機微に疎い上に興味のない者の恋心を悟ることだってありえない。


大抵そういった事に敏感なのは彼女の夫の方なのだ。

彼、ラフィネはメロウに触れる者を許さない。

物理的には勿論、心に触れようなどと考えてはならない。絶対。

自分の性別がメロウと同じだったことに何度感謝しただろう。



私は出会った時からメロウが大好きだった。

他の者達とは違う、特異な雰囲気と非凡な力。
にも関わらず目立とうともせず何にも興味を示さなかった。


少しでも頭角を表すと躍起になって蹴落とそうとする令嬢達の中でひとり、ふわふわしている彼女から目が離せなかった。


そしてそのふわふわに優しく包まれた牙を知った時、私はメロウという人間に夢中になった。



***


「ねぇ、貴女ファルファッジの人ね?」


ふわりと笑ったまだ幼い彼女は私の手を引いて人差し指を口元に当ててパーティ会場を出た。

大抵が数年後にはアカデミーへと進学する中、彼女が優秀にも関わらず進学しないのを父が驚いていた為に印象的だった。


今考えれば幼いながらに彼女は情勢が落ち着かないことを理解していたのだろう。まるで私を大人達から守るように手を引いて令嬢達を避けるように一人離れた場所に居た私を連れ出した。


中立派である私達の家門を取り込もうと躍起になる大人の視線から私を隠すように歩くメロウの意図がわからない当時の私はただ手を引かれて彼女の淡い桃色の髪を眺めていた。


中庭の目立たない場所に来た時、彼女の美しい桃色の髪の周りには赤い何かが舞って、振り返ったマゼンタの瞳に引き込まれて居るうちに「目を閉じてて頂戴」と彼女なりの気遣いだったのか囁かれた。


ほんの数分、妙な物音が消えて「目を開けていい?」と尋ねた私に「見たいならどうぞ」と甘い声が聞こえて薄ら開くとまるで初めから動いていなかったモノのように大人の男を引き摺るメロウに腰を抜かした。


くすくすと笑って「しつこかったからつい」と照れくさそうにしたメロウに少し気が抜けた。


後々知ったのは、私達の身柄を人質にして当時の皇帝派に協力させようと雇われた男だったということだった。


泣かなかったという理由だけで私を友達に選んだメロウとはそれから一緒にいる時間が増えて、次第には俗に言う「親友」というほどになった。


ふと、思考から現実に引き戻される。


ファルファッジ公爵家主催のパーティでメロウの噂話をする令嬢達の声があまりにも耳についたからだ。


「メロウ様ったらお一人で可哀想ね」

「まさか、陛下はほんとうにリリエーヌ様を……!」


ゆっくりと近づいて会話の中に割って入る。


「あぁ嘆かわしいわ……」

「リ、リセ様?」

紛い物リリエーヌとメロウ様の区別もつかないなんて」

「さすがに、いくらリセ様でもそれは……!」

「メロウ様の親友だからとリリエーヌ様をそのように……」


リセは扇子をわざと大きな音を立てて閉めた。

びくりと肩を揺らして黙った令嬢達は変わらぬリセの笑顔に何故か恐怖を感じる。


リセは二歩だけ、令嬢達にさらに近づいて小首を傾げた。



「親友だなんて、安っぽい言葉で表現しないて下さる?」


親友じゃ、足りないのだ。

メロウの唯一の理解者でありたい。

彼女と歳をとり、彼女と幸せを分け合い、ずっと友人でいられるまるで家族のような。いや、それよりももっと深いーーー



「メロウ様についての一切の噂は許さないわ」


「な、何の権利があってーーー」


「私が貴女達が想像できない程、深い仲だからよ」



同じ言葉を発しているのか分からない程騒ぎ立てる令嬢達を睨みつける。




「常に隣の人の噂話を探してばかりのあなた達には分からない。本当にこの人からの言葉だけを信じようと思えるほどの友人の存在は」



令嬢達は顔を見合わせてぐっと黙った。


もしかしたらそう思えるほどの友人が居る人だっているだろう。

けれど今この目の前に居る人たちにかける言葉はこれで充分だと思った。


「一緒にしないで頂戴」


彼女達をパーティの会場から追い出すように指示してから、待っているはずのメロウの元へと急いだ。





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