8 / 9
親友だなんて簡単な言葉に聞こえる
エイリークの元より全てを受け入れて全てを悟っていると言わんばかりの切なげな背中を鼻で笑った。
リセにとってエイリークのような男は溢れるほど見てきた日常だ。メロウは他人の心の機微に疎い上に興味のない者の恋心を悟ることだってありえない。
大抵そういった事に敏感なのは彼女の夫の方なのだ。
彼、ラフィネはメロウに触れる者を許さない。
物理的には勿論、心に触れようなどと考えてはならない。絶対。
自分の性別がメロウと同じだったことに何度感謝しただろう。
私は出会った時からメロウが大好きだった。
他の者達とは違う、特異な雰囲気と非凡な力。
にも関わらず目立とうともせず何にも興味を示さなかった。
少しでも頭角を表すと躍起になって蹴落とそうとする令嬢達の中でひとり、ふわふわしている彼女から目が離せなかった。
そしてそのふわふわに優しく包まれた牙を知った時、私はメロウという人間に夢中になった。
***
「ねぇ、貴女ファルファッジの人ね?」
ふわりと笑ったまだ幼い彼女は私の手を引いて人差し指を口元に当ててパーティ会場を出た。
大抵が数年後にはアカデミーへと進学する中、彼女が優秀にも関わらず進学しないのを父が驚いていた為に印象的だった。
今考えれば幼いながらに彼女は情勢が落ち着かないことを理解していたのだろう。まるで私を大人達から守るように手を引いて令嬢達を避けるように一人離れた場所に居た私を連れ出した。
中立派である私達の家門を取り込もうと躍起になる大人の視線から私を隠すように歩くメロウの意図がわからない当時の私はただ手を引かれて彼女の淡い桃色の髪を眺めていた。
中庭の目立たない場所に来た時、彼女の美しい桃色の髪の周りには赤い何かが舞って、振り返ったマゼンタの瞳に引き込まれて居るうちに「目を閉じてて頂戴」と彼女なりの気遣いだったのか囁かれた。
ほんの数分、妙な物音が消えて「目を開けていい?」と尋ねた私に「見たいならどうぞ」と甘い声が聞こえて薄ら開くとまるで初めから動いていなかったモノのように大人の男を引き摺るメロウに腰を抜かした。
くすくすと笑って「しつこかったからつい」と照れくさそうにしたメロウに少し気が抜けた。
後々知ったのは、私達の身柄を人質にして当時の皇帝派に協力させようと雇われた男だったということだった。
泣かなかったという理由だけで私を友達に選んだメロウとはそれから一緒にいる時間が増えて、次第には俗に言う「親友」というほどになった。
ふと、思考から現実に引き戻される。
ファルファッジ公爵家主催のパーティでメロウの噂話をする令嬢達の声があまりにも耳についたからだ。
「メロウ様ったらお一人で可哀想ね」
「まさか、陛下はほんとうにリリエーヌ様を……!」
ゆっくりと近づいて会話の中に割って入る。
「あぁ嘆かわしいわ……」
「リ、リセ様?」
「紛い物とメロウ様の区別もつかないなんて」
「さすがに、いくらリセ様でもそれは……!」
「メロウ様の親友だからとリリエーヌ様をそのように……」
リセは扇子をわざと大きな音を立てて閉めた。
びくりと肩を揺らして黙った令嬢達は変わらぬリセの笑顔に何故か恐怖を感じる。
リセは二歩だけ、令嬢達にさらに近づいて小首を傾げた。
「親友だなんて、安っぽい言葉で表現しないて下さる?」
親友じゃ、足りないのだ。
メロウの唯一の理解者でありたい。
彼女と歳をとり、彼女と幸せを分け合い、ずっと友人でいられるまるで家族のような。いや、それよりももっと深いーーー
「メロウ様についての一切の噂は許さないわ」
「な、何の権利があってーーー」
「私が貴女達が想像できない程、深い仲だからよ」
同じ言葉を発しているのか分からない程騒ぎ立てる令嬢達を睨みつける。
「常に隣の人の噂話を探してばかりのあなた達には分からない。本当にこの人からの言葉だけを信じようと思えるほどの友人の存在は」
令嬢達は顔を見合わせてぐっと黙った。
もしかしたらそう思えるほどの友人が居る人だっているだろう。
けれど今この目の前に居る人たちにかける言葉はこれで充分だと思った。
「一緒にしないで頂戴」
彼女達をパーティの会場から追い出すように指示してから、待っているはずのメロウの元へと急いだ。
あなたにおすすめの小説
悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜
abang
恋愛
皇女シエラ・ヒペリュアンと皇太子ジェレミア・ヒペリュアンは血が繋がっていない。
シエラは前皇后の不貞によって出来た庶子であったが皇族の醜聞を隠すためにその事実は伏せられた。
元々身体が弱かった前皇后は、名目上の療養中に亡くなる。
現皇后と皇帝の間に生まれたのがジェレミアであった。
"容姿しか取り柄の無い頭の悪い皇女"だと言われ、皇后からは邪険にされる。
皇帝である父に頼んで婚約者となった初恋のリヒト・マッケンゼン公爵には相手にもされない日々。
そして日々違和感を感じるデジャブのような感覚…するとある時……
「私…知っているわ。これが前世というものかしら…、」
突然思い出した自らの未来の展開。
このままではジェレミアに利用され、彼が皇帝となった後、汚れた部分の全ての罪を着せられ処刑される。
「それまでに…家出資金を貯めるのよ!」
全てを思い出したシエラは死亡フラグを回避できるのか!?
「リヒト、婚約を解消しましょう。」
「姉様は僕から逃げられない。」
(お願いだから皆もう放っておいて!)
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。