私の愛しい婚約者はハーレム体質

abang

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思わぬ訪問者と宣戦布告

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「こ、皇太子殿下っ!?」

店員の声をきっかけに皆が礼を尽くす姿勢をとるのに自分も習いながら盗み見る。


ダニエルの主の持つ赤みがかった銀髪とはちがう、王家の者の持つ銀髪にエメラルド色の宝石眼。


他の王族とは違う、真面目そうなどこか堅い表情と話し方。

ただ、見目麗しいという事も事実。

王族でいて、誠実、美丈夫だと三拍子揃った彼を拒む令嬢がどこに居るのだろうか?


皇太子妃を選ぶ為のパーティー、名目上は月に何度かは今も行われており間違いなくティアラに婚約者が居なかったなら候補となっていただろうとダニエルは冷や汗をかいた。



(皇太子殿下が、なぜティアラ様を……)



「これはっ!皇太子殿下、今日はどうされましたか?」


急いで店主が皇太子に声をかけると皇太子エバンズは、視界にティアラを捉えたまま店主にゆっくりと言う。


「突然申し訳ないな……ウィンザー令嬢が来ていると聞いた。取り急ぎ伝える事があって来たのだが取り次いで貰えるだろうか?」


「そ、そうでしたか……えっと」


初めての出来事でどうしたら良いのか、店主がオロオロとした態度を見せるとティアラは店主を気遣ったのか歩みを進め自ら声を上げた。


「ティアラ・ウィンザーが参りました。帝国の星にご挨拶申し上げます」



人目が多いので、形式的な挨拶が良いだろうと判断しカーテシーをするティアラのいつもと違う装いに思わず目を奪われてしまうエバンズ。


そんな、エバンズを我に返したのはティアラの隣に居るプリシラからの視線であった。



(ティアラを厄介ごとに巻き込むつもりなら皇太子でも許さないわよ)



どう見ても笑顔の筈の彼女からは何故かひしひしと警戒心が伝わる。
そんなプリシラの様子に気付いたのか、ティアラはそっと彼女に微笑んで「大丈夫」と言った。



「これは失礼したな、グラウディエンス侯爵夫人との時間を邪魔したようだな」



「帝国の星にご挨拶申し上げます。……いいえ、滅相もございませんわ」



「そうか、なら少し場所を変えて話してもいいだろうか?」


「「??」」


「ウィンザー嬢とグラウディエンス夫人の友好関係は存じている。一緒にで構わない」


「ならば、ご一緒致します殿下」

「私も身に余る光栄ですわ」


納得したように微笑んだティアラと、未だ警戒心の見え隠れするプリシラはすぐ近くのVIPのあるレストランで少し遅い昼食がてら話をする事になった。



内容までははっきりと聞こえぬものの、店中の皆が三人に注目していた。
勿論ダニエルも例外ではなく、アシェルの素行に愛想を尽かしてしまったのではないかと想像しては、心の中で否定した。


(そんな事になったら世界を滅ぼしかねないよ、アイツは)



正直、アシェルほどの魔導師であれば不老不死の研究の成功なんて序の口、この国ひとつくらい難なく消してしまえるだろう。


不老不死なんて望まないだろうが……とティアラが居ないならすぐにでも死んでしまいそうな親友を思い出して少し可笑しくて心が落ち着いた。



「ー……ということだ。二人とも、楽に話してくれ」


途切れ途切れだがさほど遠い距離では無い為に聞こえてくる会話。


「分かりましたわ、エバンズ殿下」



ティアラの透き通った声がそう発すると、同意したように静かに頷いたプリシラの所作もまた美しい。


「別に王室の使いで来たわけじゃない。今はプライベートだティアラ」



「「「「!!!!」」」」


皇太子のその言葉にブティック中の皆が気にしていないフリをしながら耳を大きくして傾けた。


ヒソヒソと「ティアラ様とエバンズ様はどういう御関係かしら?」なんて命知らずな声まで聞こえる始末にダニエルの心音はもうこれ以上ない程に不規則に早まっていた。




「はい、では私もと」


ふわりと微笑んでそう言ったティアラと、軽く目を見開いたプリシラ。

けれど長い間、毎日見てきたから分かるティアラの表情の変化。
どこか愛おしそうな皇太子とは違い、ティアラが彼に向ける表情は、


(信頼のおける兄か、友人のような雰囲気……)


だが、他の者達にとってはこれはゴシップだ。


アシェルとの破局の噂が明日には流れて、皇太子妃候補にティアラが名を連ねるのではないかと国中が騒ぎ立てるだろう。


同じ事を考えていたのだろう、プリシラとふと目があったダニエルは左右に首を振り、今できる事は無いと傍観の意思を見せた。


(どういう事?あの真面目な皇太子がまさか今日の事がすぐに噂になる筈だと気付かない訳がないし……まさか)




「エバンズ殿下……宣戦布告、ですか?」


恐る恐る、彼にしか聞こえない程度の小さな声で言ったプリシラの言葉にエバンズはゆっくりと振り返って、ダニエルの方を真っ直ぐに見た。



「ああ、そう受け取って貰っても構わない」



思わず目が合ったダニエルは何となく不吉な予感に身を震わせた。


そしてエバンズが彼に聞こえるように、


「ティアラを少し借りるよ」と伝えると「普通のレストランじゃ駄目だな、ゆっくり話せる所を準備しよう」と魔法で何処かに伝達した。



衝撃を受けたプリシラは扇を開いて隠れた口元を緩ませた。


皇帝の息子で、皇女の兄だ。

信頼できるかはまだ分からないが、間違いなくアシェルのお灸になるだろう、万が一アシェルが変わらなくても、どう見てもエバンズの瞳の奥に隠れる熱は本物だった。


(上手く隠しても、プリシラ・グラウディエンスには通用しないわ)


彼女は恋心に敏感で、ティアラに関しては尚更敏感だった。



鈍感で、しっかりしているのに何処かぬけている彼女はウィンザー伯爵の溺愛の賜物なのか異性に耐性も興味も無い。



だからこそ尚更向けられる恋心や下心に鈍く、アシェルに恋心を抱いたのだってプリシラからすれば奇跡だった。



ウィンザー伯爵も、自分が遠ざけすぎたのではと後悔していたがで帝国一の大魔導師という唯一の職に留まり、最低でも伯爵位以上の爵位を授かるのも秒読みであるアシェルに少女のように頬を染める愛娘の姿に少しだけ安心した様子でもあった。



目ざといプリシラはそんな親友を下心や危険な恋から守ってあげたいと常に目を光らせているのだ。



(守ってあげなくちゃ……他の事は頼ってばかりだったけれど、これは私の専売特許よ)



いま流行している恋愛小説や、女性としての魅力を引き上げる為に人気なサロンは全て彼女が考案し流行したものだった。



魔道士として優秀で、淑女としても完璧である親友の唯一の弱点だった。



「私たち、二人で補い合えばいいじゃない」

いつか、ひどく落ち込み塞ぎ込んだプリシラにティアラが言った言葉だった。思い出してふと表情を緩めると馬車の向かいに座るエバンズと、



隣に座るティアラが不思議そうに首を傾げた。


「「??」」


「なんでもありませんわ」




「そうか、さぁ着いたぞ」



馬車を降りると広がる光景に思わず感嘆のため息が出た。


「まぁ綺麗……」


「素敵ね……」



「気に入って貰えて良かった。ここは私の隠れ家のような場所だ」







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