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あなたを好きだと思う気持ちは
しおりを挟む「だとしても、貴女と手を組む理由は無いわ」
そう言ったティアラの目はシンディを真っ直ぐ見つめていた。
父の言葉の辻褄が合い、妙にすっきりとした気分だった。
彼の裏切りには、どう考えても腑に落ちない部分こそあるもののもしかしたらアシェルは幼い頃からずっとその身分の所為で酷い扱いを受けていたのかもしれない。
何故、ウィンザー伯爵家とゆう魔法に優れたしかも大富豪の家門だというのに皇帝に簡単に潰されてしまうというのだ。
アシェルが妙に身分に敏感なのは知っていたが、きっと周りの環境の所為で身分の高い者こそ強者だと植え付けられて来たのだろう。
(一緒に国を出ようと言ってくれれば、そうしたのに)
なんて話はたらればだが、こんなにも無力な自分だから彼は私に幻滅したのかもしれない。守る事に疲れて当てつけで浮気を繰り返すようになったのかもしれないと悲しくなりながらも考える事をやめた。
「あなた、後悔するわよ」
「しないわ。あっちがダメならこっちに付くなんて人をどう信用して手を組めと言うの?ウィンザーを舐めないで頂戴」
「私は使えるわ!!!」
「誰かを道具のように使ったりはしないわ。私達には力がある、仲間が居るもの」
「もう欲しいと望まない……けどまだアシェルが好きなの。平民だと蔑んでいたけれど、やっぱり好きなの、せめて償わせて欲しいの!!」
シンディは縋るようにティアラにそう言ったが、ティアラの瞳はただ静かに彼女を見下ろすだけだった。
「私は貴女を軽蔑しているわ、償いなら勝手にして頂戴」
「な!それがアンタの本性ね!?」
「どう思われてるのか知らないけれど、私は自分を偽った事はないわ」
「……っ、お願いよ!ティアラ様!お願い!!!彼に会わせて」
「……」
「私を貶めた皇帝と、嵌めた皇女に復讐してアシェルを救い出すのよ!償うの!!!!」
「そう、じゃあひとりでやったら?私にできる事はありません」
(ねぇアシェル、あなたを……誰を、信じればいいの?)
「もういいでしょうかシンディ様」
「まって!!お願い!!!」
「有力な情報ではありました。礼はさせて頂きます」
ティアラはシンディを見下ろして、お金の入った袋を置いた。
シンディは顔をカァァっと赤くして「馬鹿にしてるの!?」と叫んだ後に、「施しなんていらないわよ!!私を下に見ないで!」と怒ったがティアラは怖いほどに美しく微笑んで言った。
「こうやって、アシェルを見下ろしていたのでしょうか?」
その瞳には、軽蔑、嫌悪が写されており加えてその優しい声からは静かな怒りを感じた。
彼女を覆う柔らかいけれど強力な魔力が恐ろしくてシンディは声が出なかった。
「シンディ様がお帰りよ、お願い」
(私はなんでこの女を侮っていたの……っ)
シンディが帰り、静かになった邸で考え込んでいるとふとエバンズが皇女について話したのを思い出した。
何故、彼は皇族でありながらアイリーンは私達が思っているような人物ではないと妹を裏切るような事を言ったのか。
(では、彼は皇帝側?それとも……味方なの?)
とにかくアシェルに会うべきだと思った。
「アシェルの所に行くわ」
「お伝えしておきますか?」
「いいえ、このまま魔法を使います」
「いってらっしゃいませ、ティアラお嬢様」
アシェルの邸はとても静かで、最低限の灯りだけが灯っていた。
(アシェルは部屋ね……)
彼の部屋に移動すると真っ暗で月明かりだけが彼の銀髪を照らしている。
「……ティアラ」
「アシェル、こんなに暗い所で何をしているの?」
「少し、疲れてて。仕事が多いんだ」
そう言って笑った顔は見覚えのある頼りのないもので、彼が何かをすり減らしているのだろうと気付いてしまい、頬に手を伸ばした。
「毎日思ってる、別れてやるって」
「ティアラ……」
「どうして傷つけるの?って辛かった」
「ごめん」
「理由があるのよね」
「……」
「それとも皇女様を愛してるの?」
「馬鹿な!僕が愛してるのはティアラだけだ!」
「なら、聞いてアシェル」
「……」
「アシェルを愛してるけど、その手で唇で他の人に触れたんだって思うと辛くて仕方がないわ。けれどそれより貴方を知らぬ間に失うのが辛い」
「ごめん、僕は君に劣等感を感じてた……。釣り合ってないと、毎日まだ愛されてるか不安で僕だけがそんな気持ちなのかと、勝手に」
「……」
「だから君を傷つけては、まだ愛されるって確かめるような馬鹿な事をして安心してた最低な奴なんだ。ちゃんと分かってた筈なのに、嫉妬して束縛して傷つけて、持て余した感情から君を守るつもりが、間違った方向へと、自分本位だった」
「伝わってないのね、全然」
「……え」
「私は、ティアラ・ウィンザーよ。貴方を愛していなければとうに我慢などしていないし、貴方が例えどんな人でも私にとってアシェルはただのアシェルよ」
「……君と僕じゃ違うだろ」
ティアラは思い切りアシェルの頬を引っ叩いた。
その表情は涙を瞳に溢れさせ、初めてみる表情だった。
「ティアラっ!ごめん……これからはもう君を傷つけない。ちゃんと守るから……っ」
「信じて欲しいなら、信じさせてよ!守ってなんかいらないから一緒に乗り越えてよ!ずっと何も話さないつもりなの、」
「……許して欲しいとはいわないけど。きっと証明するから、信じてほしい。僕がティアラだけをずっと愛してると」
(何も、話してくれるつもりはないのね……でも)
「…….貴方が思っている程私も、ウィンザー家も弱くないわ。守ってもらうばかりじゃなくて共に戦う力も財力もあるのよ」
「それでも敵わない相手もいる」
「一緒に逃げる事だって、戦うのと同じ事だわ」
「それじゃ大切なもの取りこぼしちゃうだろ」
「念入りな準備があれば、ぜんぶ失わずに済むの」
「そんなこと……」
「出来るわアシェル。私を信じて。少し考えて、話したい事があるなら聞くわ。別れるのは……とりあえず今日は延期ね」
アシェルは混乱しているようだった。
彼が話さない限り、これ以上踏み込んだ話はできないが充分に伝わっているだろう。
けれどもティアラには、彼がどこか遠くに行ってしまうような気がしていた。
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