私の愛しい婚約者はハーレム体質

abang

文字の大きさ
17 / 44

あなたを好きだと思う気持ちは

しおりを挟む




「だとしても、貴女と手を組む理由は無いわ」


そう言ったティアラの目はシンディを真っ直ぐ見つめていた。



父の言葉の辻褄が合い、妙にすっきりとした気分だった。




彼の裏切りには、どう考えても腑に落ちない部分こそあるもののもしかしたらアシェルは幼い頃からずっとその身分の所為で酷い扱いを受けていたのかもしれない。



何故、ウィンザー伯爵家とゆう魔法に優れたしかも大富豪の家門だというのに皇帝に簡単に潰されてしまうというのだ。



アシェルが妙に身分に敏感なのは知っていたが、きっと周りの環境の所為で身分の高い者こそ強者だと植え付けられて来たのだろう。


(一緒に国を出ようと言ってくれれば、そうしたのに)


なんて話はたらればだが、こんなにも無力な自分だから彼は私に幻滅したのかもしれない。守る事に疲れて当てつけで浮気を繰り返すようになったのかもしれないと悲しくなりながらも考える事をやめた。



「あなた、後悔するわよ」




「しないわ。あっちがダメならこっちに付くなんて人をどう信用して手を組めと言うの?ウィンザーを舐めないで頂戴」



「私は使えるわ!!!」



「誰かを道具のように使ったりはしないわ。私達には力がある、仲間が居るもの」



「もう欲しいと望まない……けどまだアシェルが好きなの。平民だと蔑んでいたけれど、やっぱり好きなの、せめて償わせて欲しいの!!」


シンディは縋るようにティアラにそう言ったが、ティアラの瞳はただ静かに彼女を見下ろすだけだった。



「私は貴女を軽蔑しているわ、償いなら勝手にして頂戴」


「な!それがアンタの本性ね!?」


「どう思われてるのか知らないけれど、私は自分を偽った事はないわ」



「……っ、お願いよ!ティアラ様!お願い!!!彼に会わせて」



「……」


「私を貶めた皇帝と、嵌めた皇女に復讐してアシェルを救い出すのよ!償うの!!!!」



「そう、じゃあ?私にできる事はありません」



(ねぇアシェル、あなたを……誰を、信じればいいの?)




「もういいでしょうかシンディ様」


「まって!!お願い!!!」


「有力な情報ではありました。礼はさせて頂きます」


ティアラはシンディを見下ろして、お金の入った袋を置いた。



シンディは顔をカァァっと赤くして「馬鹿にしてるの!?」と叫んだ後に、「施しなんていらないわよ!!私を下に見ないで!」と怒ったがティアラは怖いほどに美しく微笑んで言った。




「こうやって、アシェルを見下ろしていたのでしょうか?」




その瞳には、軽蔑、嫌悪が写されており加えてその優しい声からは静かな怒りを感じた。




彼女を覆う柔らかいけれど強力な魔力が恐ろしくてシンディは声が出なかった。



「シンディ様がお帰りよ、お願い」



(私はなんでこの女ティアラを侮っていたの……っ)



シンディが帰り、静かになった邸で考え込んでいるとふとエバンズが皇女について話したのを思い出した。




何故、彼は皇族でありながらアイリーンは私達が思っているような人物ではないと妹を裏切るような事を言ったのか。



(では、彼は皇帝側?それとも……味方なの?)



とにかくアシェルに会うべきだと思った。



「アシェルの所に行くわ」


「お伝えしておきますか?」


「いいえ、このまま魔法を使います」


「いってらっしゃいませ、ティアラお嬢様」




アシェルの邸はとても静かで、最低限の灯りだけが灯っていた。

(アシェルは部屋ね……)

彼の部屋に移動すると真っ暗で月明かりだけが彼の銀髪を照らしている。



「……ティアラ」


「アシェル、こんなに暗い所で何をしているの?」


「少し、疲れてて。仕事が多いんだ」


そう言って笑った顔は見覚えのある頼りのないもので、彼が何かをすり減らしているのだろうと気付いてしまい、頬に手を伸ばした。




「毎日思ってる、別れてやるって」


「ティアラ……」


「どうして傷つけるの?って辛かった」


「ごめん」


「理由があるのよね」


「……」


「それとも皇女様を愛してるの?」


「馬鹿な!僕が愛してるのはティアラだけだ!」


「なら、聞いてアシェル」


「……」



「アシェルを愛してるけど、その手で唇で他の人に触れたんだって思うと辛くて仕方がないわ。けれどそれより貴方を知らぬ間に失うのが辛い」



「ごめん、僕は君に劣等感を感じてた……。釣り合ってないと、毎日まだ愛されてるか不安で僕だけがそんな気持ちなのかと、勝手に」



「……」



「だから君を傷つけては、まだ愛されるって確かめるような馬鹿な事をして安心してた最低な奴なんだ。ちゃんと分かってた筈なのに、嫉妬して束縛して傷つけて、持て余した感情から君を守るつもりが、間違った方向へと、自分本位だった」



「伝わってないのね、全然」


「……え」



「私は、ティアラ・ウィンザーよ。貴方を愛していなければとうに我慢などしていないし、貴方が例え私にとってアシェルはただのアシェルよ」


「……君と僕じゃ違うだろ」


ティアラは思い切りアシェルの頬を引っ叩いた。


その表情は涙を瞳に溢れさせ、初めてみる表情だった。


「ティアラっ!ごめん……これからはもう君を傷つけない。ちゃんと守るから……っ」



「信じて欲しいなら、信じさせてよ!守ってなんかいらないから一緒に乗り越えてよ!ずっと何も話さないつもりなの、」


「……許して欲しいとはいわないけど。きっと証明するから、信じてほしい。僕がティアラだけをずっと愛してると」


(何も、話してくれるつもりはないのね……でも)


「…….貴方が思っている程私も、ウィンザー家も弱くないわ。守ってもらうばかりじゃなくて共に戦う力も財力もあるのよ」


「それでも敵わない相手もいる」



「一緒に逃げる事だって、戦うのと同じ事だわ」


「それじゃ大切なもの取りこぼしちゃうだろ」


「念入りな準備があれば、ぜんぶ失わずに済むの」


「そんなこと……」


「出来るわアシェル。私を信じて。少し考えて、話したい事があるなら聞くわ。別れるのは……とりあえず今日は延期ね」



アシェルは混乱しているようだった。


彼が話さない限り、これ以上踏み込んだ話はできないが充分に伝わっているだろう。


けれどもティアラには、彼がどこか遠くに行ってしまうような気がしていた。















しおりを挟む
感想 227

あなたにおすすめの小説

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

全部私が悪いのです

久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。 姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。 世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。 *全18話完結となっています。 *大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。 *後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。 *この作品は他誌にも掲載中です。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

処理中です...