私の愛しい婚約者はハーレム体質

abang

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エレオドーラの悲劇

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「何ですって!?アシェル……、あなた解っているの?」




パーティー会場目前の入場口の前でアイリーンは取り繕う事も忘れて思わず大きな声で叫んだ。





「ああ、僕は君と入場しない




「何を今更ッ!どうなるか解ってるのね!?ティアラもただでは済まないわよ」




「もう……全部知ってるんだ。アイリーン」



「な、何を……?」


アシェルはもう気付いてしまっていた。

彼の行動に意味など無いのだと。


自分が偶然、貴族の近くで暮らす事となり気付いた理不尽で残酷な身分社会で自分のような者や、これからそのような目に合う者達がこれ以上出てこないようにと建てた孤児院が初めだった。

ティアラやウィンザー伯爵の手伝いもあり、今では安定して、この国に住む親のいない子供達を沢山引き取り、理不尽な被害に遭った者達を雇った。


そして、自分自身もこの泥沼から抜け出す為に足掻いていたつもりだった。


それでもアシェルの考えている事など、浅く、単純なもので皇帝や貴族達にとっては取るに足らない相手だったと言う事だ。


彼は自分の意思で、甘んじて今の状況に身を投げたつもりがにまるで傀儡のように扱われていただけだったのだと。




「君のお父上は僕との約束を守らない。君とも……」



「え……」



「僕は次の命令で、用が済むだよ」



「いいえ!私にくれると約束したわ!!!」



「ふ、あくまでモノのような言い方だな」



「許さないわ!私と一緒に入場しなさい!!!!」



「もうすぐ、ティアラが来るんだ……消えてよ」



「公爵位は!?ウィンザーや孤児院はどうするの!?」



「いいの?人が見てるよ?」


アイリーンはハッと周りを見回して、カァっと顔を赤くして更に冷静さを欠いたように声をあげた。



「貴方の所為でしょ!卑しい平民の分際で……!私のモノにしてやると言っているのに!聖女の夫にしてやるのに!!!!」



もうアイリーンは人目など気にしてもいない様子だった。
人々はアイリーンの初めて見る様子に戸惑い、驚愕している。


怒り心頭した様子で怒鳴り声を上げてアシェルに「跪きなさい!!」と叫ぶと「私と寝たくせに!責任を逃れられると思ってるの!?」と言った。




すると、アシェルは突然おかしそうに片手の平を額に当てて笑い出す。


「くっくっ……あはははははっ」



「気でも触れたの!?」


「お前達はいつもそうだ、自分より身分の低い者を人とも思わず、自分達より劣っていると決めつけている」


「それでも良かった、いつかティアラの隣で僕が変えていくんだって思ったから……でも僕は間違えた。せめて今日はティアラの隣に居させてくれ」





「アシェルッ!」




丁度ティアラがダニエルにエスコートされて会場口まで到着すると、入場口の周りは更に騒がしくなり、アシェルが扉を解き放つと会場がよく見通せて、王座に座る皇帝とも目が合った。



睨みつけるように、物凄い形相でこちらを見る皇帝、


馬車から正面の階段を登って歩いてきたティアラの白いシルクに金糸で豪華な刺繍の施された艶やかなドレスは美しく、彼が作った彼の瞳と同じ色の魔石の純度はどの宝石よりも価値のあるものだった。


会場内ではグラウディエンス夫妻がニヤリと口元を吊り上げたのが見え、


アシェルが禍々しい魔力と共に低く囁く


「ねぇやってみなよ、ずっと守るつもりなんて無かった癖に、約束」


と悲しそうに指の隙間からアイリーンを覗き込むと、


小さな声だが、はっきりと聞こえるように言った。



「聖女の力はもう、とっくに枯れてるよ……」




「そんなの嘘よ!信じる訳ッ!……お兄様!?」



会場から出てきたエバンズが一瞬ティアラに見惚れたもののすぐにアイリーンを冷ややかに見て、尋ねる。



「何事だ?アイリーン」



「エバンズ!!あんた、何の力もない癖に嫌味のつもり?!私は聖女よ!」



「だが、彼は嘘は言っていない。私が目が良いのは知ってるな?」



「宝石眼なら、私も持ってるわよ!!」


「なら、早いな。アイリーン……」




「お前はもう聖女では無い。選ばれなかったんだ」



「ふふ、アイリーン。僕の魔法が効かないと自慢げに触れ回っていたようだね。力を過信しすぎない方が良いよ。そもそも君が聖力を使えた時から、何故か僕の魔法は君に通用していたからね」



「そ、んな……」



「帝国の二つの星にお目にかかります。殿下方、アシェル……私の調査の結果では聖女の力の枯渇は元に戻りませんが……すぐに加護が失われる訳ではありません見合う者が生まれし時に聖女は現れると……」



「嘘よ!!そんな筈無いわ!!!!」


取り乱すアイリーンを支えるエバンズは眉をひそめる


「妹は様子が優れないらしいので、私が引き取ろう」


「お兄様!!エバンズ!!!何を勝手に……ッ!!」


アイリーンは聖力を使ってエバンズを弾いて拒否したつもりだったが、


彼女は聖力の所為か、潜在魔力が元々少なく鍛錬や勉強をしない為に生まれつき使いこなせた聖力以外は必要としてこなかったので、


一緒小さく光ってから何事も無かったように消えた力を見てへなへなと地面に座り込んで絶望した。




「行こう、アイリーン」


「じゃあ私はまだ純潔なままなの……アシェルを手に入れられないの……?」



「お前だけじゃない、アシェルに手を出した殆どの者達が彼の魔法によって自分の欲望の幻覚に踊らされたんだ」



「……小賢しい!!諦めないわよ!!」



「それと、これは父が調べたものと私がアシェルの手伝いをしながら気になるものを抜擢していたものを合わせた仮説ですが……」




「ダニー、ありがとう。君の魔法はとても便利だね」


「なにを、アシェル様にとっては簡単な事でしょうに」


「僕は繊細な使い方は苦手なんだよ」




ティアラがアシェルの隣に並び、アシェルが出した腕を取るとそのまま二人で皇帝の元まで歩みを進めて見事な礼をした後に、


「両親のご身分こそ確かではありませんが、彼の瞳と髪の色について記された文献や魔法書を元に彼はルナエリアの高貴な身分のご子息で間違いありません」




「だが今は、エレオドーラの世。その血筋に何の意味ない」



「そうですね、それはセレスティーヌ様も同じでしょうか?」



「何処でそれを…….よ、よい、アイリーンは体調が優れない、今日は下がらせよう」




急に顔面を白くした皇帝はそう告げるとパーティーの続行を伝えた。




「ティアラ、セレスティーヌ様って誰?」


「ふふ、秘密よ。けれどきっとこの国の闇を解くきっかけとなるわ」



あれ以上話を続ける訳にはいかないという皇帝の態度で確信したティアラはアシェルに優しく笑った。




「きっと、大丈夫よ」

















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