暴君に相応しい三番目の妃

abang

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噂話はあてにならない

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「何ですって?」



アエリの地を這うような声に侍従は震え上がった。



「ですが、確かに本宮の侍従から聞きました……」


「じゃあ、あの女が陛下と初夜を過ごした上に、確かに陛下があの女の初めての男だと自ら確認したというの!?」


「陛下の口からは何も……ただ、メイドが血のついたシーツを換えたそうです」



ふらりとアエリが体を傾けて、慌てて侍従達が駆け寄った。

それを振り払って「事実を確かめて来なさい」と無茶を言うのだから侍従達はまた顔を青ざめさせた。






同刻、本宮では結局うまく引き止められたドルチェが不服そうな表情でヒンメルと朝食を摂っている所だった。



「まだ拗ねているのか?」

「拗ねてる?怒ってるの間違いでは?」



別にそっぽを向いている訳でも無い上に笑顔の筈なのに、うまく視線が合わないドルチェに何となくそれが気に入らないヒンメル。



けれど元はと言えば、彼が無断で刻んだ誓紋の所為でもあるのだ。



「別に問題ないだろ、他が必要か?」


「そう言う問題ではありません、勝手に私を縛りつけたのが問題なの、ヒンメル」


「こんなモノ程度がお前の手綱になるかは不明だがな」


「はぁ、まるで嫉妬深い恋人のような振る舞いですね」


「……ハ、馬鹿な。とにかく今日は大人しくしてろ」


気を失うほど求めた上に、同意なくドルチェに誓紋を刻んだにも関わらず、上機嫌そうに鼻で笑うヒンメルに「ふ」と笑ったドルチェに片眉を上げて首を傾げた彼はドルチェの指で弄ばれる魔力に驚く。


(俺の魔力か……いや、完璧に馴染んでいる)

「混じってるのか」

「お陰で様で、調子が良いの」


勝ち気に微笑んだドルチェは口角をゆっくり上げて、パンケーキの苺に口付けるようにして食べる。


フォークを持つ指先にも、苺の色が移ったかのような瑞々しい唇にも、吸い込まれそうな瞳にもドルチェのどこからも目が離せないでいるヒンメルを今度は彼女が鼻で笑う番だった。



「私達、相性が良いみたいですね」


「……煽ったのはお前だからな」


「……は、」

(一体何なの?皇帝の情婦の役目って訳……?)



困った様子のドルチェを抱えて廊下を歩くヒンメルに驚いたのは本宮の使用人達だけはなく、探りに来ていたアエリの侍従もだった。


そして一際大袈裟に驚いたのは、ヒンメルを呼びに来たのだろうか「丁度良かった……」なんて駆け寄ってきたレントンで、


「うわぁ!」と叫んだと思ったららまるで石化したかのように動かなくなった。


ヒンメルはそんなレントンに慣れているのか、

「部屋には近寄るな」とだけ言っただけだった。


余程混乱していたのだろうか、ピシリと体勢を整えてさも真面目な表情で「初めてのサボりですね」とヒンメルに返した勇敢なレントンは見事に彼に無視されていたが……。


(本当に変わった人ばかりね……)



気がつけば、熱を孕んだ目で見下ろすヒンメルと二人きりのこの部屋にまた戻って来てしまっていた。



「強引ですね」

「嫌か?」

「役目は果たしますわ」

「……気に入らないな」


ヒンメルは深く口付けた後、首元に、胸元、肩、指先とあらゆる所に触れるだけの口付けをした。


「無理はさせない、壊れたら困るからな」

「あなたは無理をしてるように見えるけど?」

「ーっ、黙ってろ」



そのままドルチェが別宮に帰れたのは数時間後だった。




(まるで抱き枕ね、お陰様でゆっくり寝られたけれど……)





「ドルチェ様……っ!!!」

「ご無事で良かった……!」



心配してくれていたのだろう、ララを筆頭に涙を溜めて出迎えてくれた使用人の皆の顔を見てほっとしたドルチェはふわりと笑った。


「ただいま」



 ーーー


「噂で持ちきりですよ、陛下」

「言わせておけ」

「……どうやら第二妃が来たようですね」

「通せ」

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