暴君に相応しい三番目の妃

abang

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予測不能な花嫁

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余程疲れたのか、気を失うように眠ってしまったドルチェの顔にかかる髪を避けてやる。

美しい顔立ちをなぞって、少し腫れた唇にもう一度口付けるとドルチェは眉間に皺を寄せた。


「俺の腕を枕にしておいて、生意気な」


そう言いながらも口元が綻ぶのは何故だろうか、アイオライトを思わせる瞳が俺を捕らえて、瑞々しくて美味そうな唇が「綺麗」と何度囁いただろう。


まるで初めて星をみた少女みたいに、俺を見るのだから毒気を抜かれてしまう。


その癖に、挑発的な格好、飾らずともありのままが美しいとさえ思える身体とやけに腹に響く声にとうに尽きかけていた理性が空になったことが自分でも分かった。


(つい、やりすぎたな……)



思い通りにいかない生意気な口を塞いで、夢中でドルチェを知ろうとした。この俺が、ドルチェのこと以外を考える余裕が無かった。


かと言って、ものすごく手練でもないしどちらかと言うと威勢の割には下手くそ、シーツに今もついた血の跡は言葉通り彼女の純潔を俺に捧げた事を物語っている。



やけに、もやもやする。

と、いうよりは何か消化しきれないものが込み上げる不愉快な感じがする。


もっと、貪って、壊してしまいたい……


けれど彼女の唯一の男になれたことに安堵したような妙な感覚……


「はぁ、ほんと掻き乱されるな」

「ん……」

「……起きたのか?」

「ヒンメル……」


(寝言……)


「くそ……何だこの女は」



柄にもなく可愛いと思ってしまった。

胸に頬を寄せて眠る姿は普段のドルチェよりもいくらか幼く見える。


ドルチェの手を取って、薬指を絡め取る。

何故かしっかり捕まえておかなければならないと焦燥感が湧き、申し訳ないと思いながらも指輪の代わりに誓紋を施す。


意識があれば跳ね返されるか、抵抗されるだろう。


これは別に大した誓約がある訳じゃなくただの貞淑の誓約、他の男を受け入れる事は出来ないという誓いだ。


「すまんな」


まぁ、でもドルチェの考えには気付いていた。

噂を潰す為に取り急いで初夜を要求してきたことも、

アエリに勝つ為のカードに自分がされた事も。


それでもあの月明かりに照らされて輝くドルチェを、他の誰にも見せたくなかった。


美しい妻に抗えなかった。


見目が良い女など死ぬほど充てがわれたし、どれも大抵が抱く気にもなれなかった。

弱くてすぐに壊れる軟弱な女など尚更……


「陛下……、寝ましょう?」

「……目が覚めたのか」

「このまま此処で眠っても?」

「……許す」

(これは、寝れそうにないな)



まるで普通の男になったように、長い夜を過ごした。

時間だと起こしに来た侍従が酷く驚いて部屋を出て行った音で起きたドルチェの反応は楽しみにしていた初々しいものでは無かった。



「おはようございます、陛下」

「ヒンメルでいい」

「ヒンメル、そろそろ宮に帰らなきゃ皆心配するわ」

「……」

「朝食は別でも良いですか?」

「そのまま帰るつもりか?」

「他に服を持ってないので」

「支度をさせる、それまで待て」



(変に優しいのね、初めてだったから気を使ってくれてるのかしら)


(やけにあっさりしているな、生意気な……)


起きた瞬間にはもう、いつも通りのドルチェで何故か少し期待していた自分にも驚いたがそれが余計に苛立って平然を装った。

それでも、彼女に今から説明してやる薬指の誓紋に少し優越感を感じて口角を上げた。


(何……?ヒンメルが笑うなんて……)





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