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小さな庭で些細なパーティー
しおりを挟む「は……此処が、お姉様の宮ですって……!?」
高くそびえ立つ城壁、まるで要塞かのように厳重に施された防御魔法の他にも私には解読出来ない高レベルの何かしらの魔法。
それなのに美しく細部にも拘った装飾と彫刻が、この高く丈夫すぎる塀を厳かに見せない。
これ程の予算を宮の外にかけているのだから、明らかに愛されている事が分かる。
それだけでも腹が立つのに、案内役のパッとしない男も魔法の手腕は中々の者だと見れば分かる。
ヴァニティ伯爵家は魔法に優れた家系で、全盛期の強さこそ段々と失っているとはいえ、魔力の動きには敏感だ。
「皇妃殿下は庭園でお待ちです」
(ハッ、何かムカつくわね)
庭園は夫から夫人に贈り物として美しいものを作ってもらう事が多い為、貴婦人達はこぞって庭園の美しさを競うが、ドルチェの庭園は思っていたよりも地味で、彼女らしかった。
地味で従順、社交会にも出さずに、祖国の殆どの貴族達がドルチェの顔など知らない。それがお姉様だった。
「ふ、身の程を知っているのね」
「まぁ、そんな事言ってはいけないわ。ドルチェらしい素敵な庭じゃないの」
「お母様、それじゃ同じ事を言っているじゃない、ふふふ!」
「二人ともやめなさい」
父の身震いの理由はすぐに分かった。
肌で感じるあちこちから刺さる殺気と魔力。
騎士や魔法師がそう多くいるようには見えないのに、丸腰で敵だらけの戦地に放り込まれたかのような気分だ。
に、しても……かなり広く見えるこの敷地で庭園はあまり大きいとは言えない。豪華でもなく地味だし、外装に予算を使ってハリボテの城を造ったのか温室が別にあるとしても寵妃に贈るものとしては地味すぎる。
(やっぱり、ハッタリだったのね!)
「ようこそ、ヴァニティ伯爵家の皆様」
「「ドルチェ」」
「お姉様……可愛い庭園ね」
「そうでしょう、気に入ってるの」
「まぁ……見栄を張らなくてもいいのに」
「ふ、見栄?」
「だってほら、外装と比べればかなり清楚じゃない」
私の言葉に誘発されたのか、オロオロと他の貴族たちが周りを見渡してドルチェが本当に寵愛されていると思って良いのかどうかと疑い始める。
「あら、ドルチェ皇妃様じゃない」
「……アエリ妃」
(全く、余計な時に来たわね)
ドルチェの笑顔が冷えた所をみる限り、アエリとは上手くいって居ないのだろう。やはり彼女を使うべきだと確信する。
「まぁ!皇帝陛下の寵妃のアエリ様じゃないですかぁ」
「!……ふふ、皇妃様の妹君ね、確か、」
「シェリアですわ、アエリ陛……あっアエリ妃様」
わざとらし過ぎたか?そう思ったもののアエリは気分を良くしたようで「是非滞在の間は私の宮にもいらして頂戴」とまで言ってもらえた。
「お二人とも、気が合うようで私も嬉しいわ」
「お姉様は静かだから、馴染めてるか心配だったの」
「静か……?」
「ええ、アエリ様、姉は地味で静かなので……」
(何処か地味で静かなのよ、この妹は馬鹿なのかしら)
アエリが何度もその姉にしてやられているという事を知らないシェリアはこの場の誰もが信じないだろう「地味な姉」の話をしたがイマイチ手応えがない。
「シェリアは想像豊かで可愛い妹でしょ」
「……ええそうですわね」
「お姉様、それじゃ私が虚言癖でもあるみたいじゃ……」
ハッとして周りを見渡すと明らかな敵意。
ドルチェの事を好いている訳ではなさそうだが、他の参加者達からの視線が突き刺さる。
「お父様、お母様、シェリアは疲れたみたいだわ」
「ドルチェ……っ!」
「お父様、お母様も気分が良くないようね。休憩の為にテントを建ててあるから使って下さいね」
「……っ」
ついでのようにアエリに会釈して通り過ぎたお姉様を見送るしかないが、何か弱味は無いかと観察すると、見た事があるような無いような顔。
「あれは……確か、従者見習いだった……」
「リビィ、裏側の警備は?」
「皆様が迷い込む事の無いように、半分は閉鎖済みです」
「ありがとう、宮内も許可したエリア以外は徹底して」
「御意」
(ふぅん……何かありそうねぇ)
まさか、皇帝にも隠している事があるのでは?
確か、リビィと言ったあの者とは唯一伯爵家でも親しげだった。
もしかして予算を不貞の愛の巣に充てたんじゃ……
(あの従者とお姉様を調べないとね)
「まぁ、先ずはあの美男子に気に入られないとね」
お姉様に惨めなお妃生活を送って貰わなきゃ。
そして皇帝を虜にして影の権力者になるのよ。
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