暴君に相応しい三番目の妃

abang

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庭園と不相応な夫

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それ程規模の大きくもない、ガーデンパーティーは意外にも人が多くてこれならば皇妃宮の庭園では小規模過ぎたかとも思ったが、別に狭い訳ではないので問題なく進行している。


けれど、他国の王侯貴族にしてみれば私を品定めしに来たに過ぎず、まさかこんな前座の催しに皇帝が参加することもないだろうと気楽な態度だ。


(まぁ別に権威を見せつける為じゃなくて形式的なものだし)


ドルチェもまた、この皇妃宮の主人として不足のない程度の対応で適当にあしらっていると、突然辺りが騒めいて早足で駆け込んだリビイルが耳打ちし、何かを見つけたララが慌てて頭を下げた。



「……ヒンメル」

「はい、皇帝陛下がいらしております」

「準備しているテントへ案内してすぐに行くわ……」



そう指示したしりからヒンメルの気配と香りが近くでして、ドルチェの肩に大きな手が乗った。




「女というのは、これ見よがしに駆け寄って歓迎するものだと思っていたがはつれないな」


「ヒンメル、来てくれて嬉しいわ」


「なら、俺を立ててくれないか?」


両手を広げて頬を差し出したヒンメルに意を決して抱擁し、差し出された頬に口付けようとした瞬間、彼が顔を向けたので思わず唇に当たった。


(謀ったわね)


(ふっ)


憎たらしい表情でドルチェに「男共の視線には鈍感なのか?」と囁いたヒンメルに驚いて「嫉妬してるの?」と尋ねると、拗ねたように離れてテントへと足を運んだヒンメルにくすりと笑った。





「陛下、ご挨拶致します。妹のシェリアです」

「……あぁ」

「姉の付き合って頂いてありがとう御座います」

「シェリア、よく来てくれたわね」

「……お姉様、駄目よ?陛下にあまり我儘言っちゃ」



貴族達からの視線を感じる。

立場の優劣を見極めて居るのだろう、ヒンメルは相変わらず試すように傍観を決め込んでいる。



「陛下は、我儘を言われるのはお嫌い?」


ヒンメルに少しだけ身を寄せて見上げると、意図が分かった上にどうやら乗ってくれるらしい。

ニヤリと笑ってドルチェの髪を撫でると「お前なら良い」と微笑んだ。


「!!」

シェリアの疑いと憎悪の混じった視線が突き刺さる。

遠くから殺気立っているのはアエリだろうか、黄色い声を上げる貴婦人と驚く紳士達。


面白がったのだろうかヒンメルはドルチェのドレスから出た鎖骨と肩を隠すように自らの上着を脱いで肩に掛けさせた。


「でも、俺以外に肌を見せるのは頂けないな」


貴婦人達のハートが飛び交う歓声が飛び交って、シェリアの表情は見た事も無いほどに仄暗い。



「陛下……私はどうですか?陛下が今日も頑張ったんです」



またもや周りは静まり、今だと言わんばかりにシェリアはヒンメルに一方近寄って上目遣いで切なげな甘い声で言った。



「本当は、私に来た縁談だったのに……お姉様がどうしてもと、私は陛下に出会う機会を失いましたが……」



「何を言っている?」



(ベタな手法ね、やれるだけやりなさいなシェリア)



「今日、陛下にお会い出来て嬉しいです……っ」



愛嬌のある雰囲気、ヴァニティの恵まれた容姿、甘く愛らしい雰囲気だが不躾ではないシェリアの気品のある所作。


周囲の同情が集まるのを感じた。

本人も手応えを感じているだろう。


ヒンメルも意図に気付いたのか、私の次の出方を伺っているようにも見える。半分、面白がっているのだろう。


私の腰に硬く回した手を離そうとしないのがその証拠で、別に妹に興味を持った訳ではないようだ。

けれどまぁ、普通の男ならか弱く健気なシェリアに心を掴まれて居る所だろう。現に今、それで無くとも「悪女」の名を欲しいままにする私への視線は冷ややかだ。


部下や、使用人達の怒りで魔力と殺気が飛び交うが諌めるように視線を送ると相当我慢しているのか所々から乱れる魔力の動きを感じた。



「あら、代わりを頼まれた筈だけど」

「お姉様ったら、いつも私を悪く言うのね……」

「国に居る五人の恋人とはもう終わったの?」

「……えっ、お姉様ったら酷いわ、そんな人居ないわ」

「そう……勘違いだったのかしら……?」


そう言ってヒンメルの指に自らの指を絡めるとピクリと反応を示したヒンメルを見上げる。

熱い視線で見下ろすヒンメルに「シェリアが良かったの?」と飾り気なく尋ねると彼はまるですぐにでも私を食い尽くしそうな金色の瞳を燃やしてはっきりと言った。



「ヴァニティの優れた方の娘を寄越せと言っただけだ」


「お前が来て良かった、ドルチェ」




これでは、暴君に嫁がせるのが嫌で優れていない方を送ったとは両親も妹も言えまい。


間接的にシェリアは「優れていない方」だと皇帝に位置付けられたことになる。


顔を赤くして頷いたシェリアを慌てて回収しに来た両親の憎しみの籠った瞳は祝宴には相応しくないが、不思議と気分は良い。



「私も、ヒンメルに会えて良かった」


信じてはいけない筈なのに、何故か今日はヒンメルが心強く感じて私の為に怒ってくれる部下達が愛おしかった。



(譲ってくれてありがとう、シェリア)


(優れていない方のお姉様には不相応よ今に見てなさい)



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