暴君に相応しい三番目の妃

abang

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知恵の値段は?

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スタディアス国は、国というには曖昧だった。



大きいのは土地だけで、帝国が大陸を支配した以上、帝国の中の街と捉えても良いほどだった。


彼らは意図して王族の居ない国を建国したのではなく、知恵や知恵をもつ者を守る為に兵を作り、技術や情報、学者を守る為に最小限の外部との親交を絶っただけに過ぎなかった。



学ぶ為にスタディアスを訪問する者も居れば研究費の援助をダシに家門に連れて帰ろうとする者も居る。

交渉があればまだマシ、強制的に働かせるために誘拐される者も沢山居るのだ。


知恵とは金になる

けれど、人より知恵があるだけ、学ぶ事が好きなだけなのに奴隷のように連れて行かれるのを望んでなどいない。


武力を持たぬスタディアスの門をこじ開け、誘拐することも少なくは無い。今や常日頃から身を隠すように過ごして居る者も多いのだ。


貴族達は時にスタディアスという名をブランドにし、攫った人々を人身売買オークションに出すらしい。


このままではこの国は崩壊してしまう。

人々がそう憂いていた。そんな時に耳に届いた噂話。

風変わりな皇妃の話だった。



金を積んでも、権力を振り翳しても、ましてや武力を以てしても……ドルチェ皇妃には敵わない。彼女は屈しない。


今までは愛人のような立ち位置の名ばかりの妃しか作らなかった皇帝がたった短い期間で自ら皇妃に召し上げた異例の人、


一か八かの賭けだった。


彼女ならばこのスタディアスを助けてくれるのではないかと。

このまま人が減り続けてもこの国は滅びるし、守る為に更に鎖国してしまうと正当な取引や資金源をも失いかねない。

人々は相談し合い、皇妃宮に手紙を出す事にしたのだった。


期待通り、皇妃ドルチェはスタディアスに来た。

帝国の皇妃の派手な馬車はもっぱらの噂だったが実物を見て思わず驚愕する。

否、それよりも驚いたのはーーー



白い髪に、金色の瞳

恐ろしいほど冷たいようで、魅了されるような雰囲気をもつ彼が特別だと一目で分かる。


「こ、皇帝陛下っ、皇帝陛下にご挨拶致します……」

「お前が長か?」

「いえ、私達に長はおらず皆が対等な学者仲間です」

「……まぁいい、ドルチェ」


馬車の中に手を差し伸べるその瞳が一瞬和らいで、滑らかな手が伸びて来て皇帝陛下の手に重なる。


皇帝陛下を見た時とはまた違う息が出来ないような感覚。


まるで女神でも舞い降りて来たのかと思う程美しい女性

(こんな人が本当にあの皇妃殿下なのか……?)


「ーっ!」


皇帝陛下から目を離した皇妃殿下の瞳を見てゾッとした。


一見柔らかく見える表情と輝く宝石のような瞳、


その中は深く、深くて吸い込まれるというよりも堕ちてしまいそうだと思った。



馬鹿でなければ分かる、侮ってはいけないと。

此方に向いた笑顔は驚くほど空っぽに見えるがあくまで内側と外側をはっきり分けている所為だと分かる。


じゃないと説明がつかないのだ、あまりにも皇帝陛下を見る皇妃殿下の瞳が甘くて優しいのだから。


男ならばその瞳を一度は自分に向けて欲しいと願うだろう。


……皇帝陛下と対面するまでは。



余計な世辞や称賛は返って命取りだろう……


(ならばいっそ、ストレートに)



「こんにちは、貴方が呼んだの?」

「皇妃殿下にご挨拶致します。厳密に言えば私達が……ですが」

「名は?」

「申し遅れました、ヴィリーベン・サッチと申します」



顔を見合わせたお二人、緊張で冷や汗が止まらない。
抑揚のないが優しさの籠った皇帝陛下の声が「ちょうど良かったな」と皇妃殿下に向けられる。



「丁度、貴方と話したかったのよ。論文を読んだわ」

「恐れ多いです」

「謙遜しないで、これで取引が出来るわね」


あくまで取引として助けるのだと笑う皇妃殿下に「どっちだ?」と頭を捻る。

(試されているのか?)


あの程度の研究結果や論文はあくまで外向きのレベルの抑えたもので、特別褒められるようなものではない。



皇帝陛下と皇妃殿下が態々足を運んで下さっている今、このスタディアスを救う取引材料としてはあの論文は弱すぎる。

お二人にとっては慈善事業のようなものだろう。



(冷酷だとお噂なのに、何故……)

「安心しなさいな、取引はちゃんと成り立つから」

「ハ、俺はどっちでも構わんが」

「ふふ、きっとヒンメルも驚くわ」


たとえ、悪魔と取引するのだとしても良い。

きっとこれ以上の機会はないだろう。




両膝をついて、頭を下げた。


「どうか、このスタディアスを助けて下さい……っ」
















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