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王族の血を引く子
しおりを挟む執務室に急いで来て欲しいと言われて来たものの、相変わらずヒンメルの膝に乗せられた私の前には女性が一人。
その背後から女性を監視するようにレントンが睨みつけていた。
「で、なにかしら?」
「この女を見て思う事は?」
「妊婦さんね」
何処となく気分が悪いのは、そのお腹の中の子供に王族の魔力を感じるからだろうか?けれどヒンメルが妃を次々と娶ってきたことは既に知っていることだし、このような事が起きても不思議なことではない。
「だが、残念ながら心当たりはない」
「そうかしら?」
まるで信じてくれとでもいうようなヒンメルの仕草。
ドルチェの手を撫でて頭を凭れさせるその様子に女性は驚いた表情で此方を凝視した。
「へ、陛下……私の事をお忘れですか?」
「そういえば、居たなぁ」
冷ややかな表情、何を思い出しているのかクツクツと笑うその姿は何処か恐怖すら感じる。
「女好きで、種蒔きが好きで、弱くて間抜けな兄が」
「!!」
「お兄さん?……あぁ、そういう事」
ヒンメルが自分以外の王族の血を絶ったことは有名な話なので、このままではこの女性諸共、命はないだろう。
けれど、子に罪は無い。
産み落とすまで、牢で生活をさせるように進言するか?
いや、無事に生まれてもその子は幸せに暮らせるだろうか?
門で騒ぎ立てている女性の話はレントンが来る前にはもう知っていたし、私が既に知ったという事も分かっている様子だった。
ならば此処に私を呼んだのは判断を委ねる為ではない。
もっと単純な……まさか、
(言い訳、というか誤解を解こうとしたの?)
「俺の子じゃない」そう伝えたいのだろう。
王族の権力争い、しかももう遥か前にヒンメルが自らの手で終わらせた話のものだ。どの決定権も勝者である彼にしか無い。
「他に私に伝えたいことは?」
「俺を許してくれ」
「?」
ヒンメルはほんの一瞬だけ眉を寄せて、私の目元を撫でて「瞑ってろ」と言うと、私を椅子に座らせて彼は女性の元へを歩み寄ったようだ。
「皇帝、陛下……っ?あの、私、」
「そういえば、返事がまだだったな」
「へっ……」
「忘れたかと聞いたろ」
「いえ、その……私の勘違いでした。余りにも兄君と似てーー」
「そうか、だが返事は"知らない"だ」
「ーーっ!待って、お許しを……ゔっ!!!」
「ドルチェ様に汚い声を聞かせてはなりません」
レントンがすかさず彼女の口にハンカチを詰め込んだ。
くぐもった悲鳴だけがドルチェに届く。
「それと、似てるのは気の所為だろう」
「ーーーっゔぅ!!!」
どさりと重たい音が聞こえて、女性が崩れ落ちたのだと分かる。鼻にツンとした鉄臭い臭いが広がった。
「片付けさせておくように」
ヒンメルの香りに包まれたと思うと、彼専用の浴場に転移した。
「何故、私に許しを……?」
今だに理解できずに尋ねると、パサリと服を落としながら背中を向けたままに頼りなく呟くように返事をした。
「女と、子供に優しいだろうお前は」
「へ……」
「生かしておく訳にはいかないんだ。分かって欲かった」
「ふふ、それって私の目を気にしたってこと?」
「……分からない、そうなのかもしれんな」
思わず、考えるのを放棄したような投げやりな声のするヒンメルの背中に抱きついて、彼の筋肉質な背中をなぞるように口付ける。
大切だと伝わるように彼の背中に抱きついて、ゆっくり、はっきりと伝える。
「だとしたら、馬鹿ね……」
「……」
「私にとっては、見知らぬ人達よ」
「いくら守るべき弱者でも、ヒンメルより重要な事じゃ無い」
「!」
「あなたの方が大切よ、ヒンメル」
なにを考えているのだろう、私しか写していない金色の瞳を見つめ返して「私の一番はあなたよ」と伝える。
身代わりだとしても、偶然だとしても、私にとってこの結婚は救いだった。
可笑しいほどに彼の全てを肯定することができる私はきっと愚かだが、今の私を私は嫌いじゃない。
生きる為に必要な立ち位置である事は今も変わらない。
けれど、それだけじゃ無くなっただけだ。
視界がヒンメルでいっぱいになった。
「どうして、皇帝になったの?」
「踏みつけられずに、生き残る為だった」
「……似たもの同士ね」
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