暴君に相応しい三番目の妃

abang

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目に見えるものと見えぬもの

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近頃社交界ではとある姉妹が噂に持ち上がっていた。

片方は品行方正、片方はそれはもう遊び人らしく、けれどとても仲の良い姉妹だと言う。

けれど遊び人だと噂の姉には婚約者がおらず、品行方正な妹はいつもを恋人として連れていた。


「へぇ」

「ドルチェ様、どうなさいましたか?」

ヒンメルと共に様々なパーティーに出席するうちに知ったいくつかの噂の中で近頃もっとも貴族達の関心を集めているこの噂が少し気になった。

特に派手では無いし、大きな家門でもないが貧困しているわけでは無く領地経営はどちらかと言えば上手くいっている方だ。
調べた所、遊び人の姉は商才にも長けているらしく、交渉や商談が好きだという。


「なのに、家門を継ぐのは妹なのね」

「はい。品行方正な生活態度が男爵を安心させるようです」

エスキュリー男爵家の当主は大人しく保守的な人だったはず。
その妻もまた大人しく人の良い人間だった記憶がある。
では本当に姉は妹に後継者の座も、婚約者も全て譲ってしまったのか?

それほどまでに仲の良い姉妹なのだろうか?

次のパーティーでは声をかけてみよう。
そう思っていた矢先だったーーー


「婚約?相手は妻に先立たれた74歳の伯爵でしょ?」

「はい……なんとも商団を大きくする為の政略だとか」

「そう」

今日婚約の発表があるのだと言うエスキュリーのパーティーに参加する手筈を整えて、付き添いのララとライアージェをとびきり美しくした。


案の定、この婚約は幸せなものではないようで、パーティーでは顔色の悪い姉とそれを心配そうに支える妹、哀しげな母と一応は平常を保っている様子の男爵が伺えた。

なるべく静かに入場するも、私の出席に騒めく会場、そして私を見るなり前に飛び出て床に頭をつけた一人の侍従。

初っ端からこのパーティはどこか変だった。

「なにかしら」

冷えた声色に静まる会場。

私をかばうように前に出たララとライアージェの「無礼者」「下がりなさい」と言う言葉以外には他に声を発する者は居ない。


ひどく驚愕したような男爵家の面々、別に今足元で頭を下げ続けているこの侍従が近づいて来る事に気づかなかった訳じゃない。

殺意や害意を感じれば別だが、面白そうだと思った。

魔力の纏い方で分かる、それなりの実力者なのだと。

よほど出生の身分が低いのか?見た感じの実力ならば高位貴族に雇われる事だってできる筈だ。強い人材は用心棒役としてだけでも好まれる。それでもこの男爵家に留まっている理由は何か……


「お嬢様を助けて下さい……っ!!ぶ、無礼は承知です……!」


「リース……っ」

遊び人の姉、ジェシカは私の足元の男をそう呼んだ。

今更、慌てて駆け寄って来る者達を静止して「何から、誰を助けるの?」と意地悪くも尋ねると頭を上げぬままリースは悲痛な声で半ば叫ぶように訴えかけた。


「ジェシカお嬢様を、お救い下さい!」

「お姉様は幸せになるのよ、リース」

まるで小動物のような女性、品行方正な妹ミレイユはおそるおそるといった様子でリースに近づいて来てそう言った。


その言葉に何故か崩れ落ちて泣く夫人と、慌てて私の元に駆け寄って無礼を謝罪する男爵とジェシカ……まだ入場しただけだというにも関わらずドルチェの存在は大きくこの場を動かしてしまったようだった。


とりあえず、パーティーの進行をミレイユと夫人に任せて、当事者であるリースとジェシカ、そして当主である男爵との三人を連れて場所を移した。


別室でまずドルチェが声をかけたのはリースだった。


「リースだったわね?先程のはどう言う事かしら?」

「殿下、大変なご無礼をお許し下さい。けれどもお嬢様を救えるのは妃殿下しかいないとあの瞬間に思ったのです」


「一体どう言うことだ、リース、ジェシカ……!」

思わず話に割り入るほど混乱している様子の男爵の肩に手をそっと添えて宥めたジェシカは「説明は私が……」と固く閉ざされた口を開いた。


「我が家には早急にお金と、実績が必要なのです」

ジェシカの説明した内容はあまりにも悲しい話だった。
姉妹愛と言って仕舞えば綺麗だが、彼女は犠牲になったのだ。


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