暴君に相応しい三番目の妃

abang

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家族を守ることが私の存在意義

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「お金と実績?」

「はい、初めは何も難しい話ではありませんでした」


大陸の東端から海を渡る島国そこで育つ大きな蚕からできる上質な絹で生地を作りそれを使ったドレスを貴族達に売る。
間違いなくその生地が上質なものだという事は周知の事実だし、手法さえよほどの間違いがなければ成功する。


ジェシカに任せれば間違いなく、予想以上の成功を納めるだろう。

けれど形だけの後継者と影で揶揄されているミレイユ、様々な悪い噂が絶えないジェシカ。

二人の娘への不安を拭い切れない父親にとってこれはチャンスだった。



「ミレイユが実力を披露し、実績を積むチャンスだと父は思ったのです」

「娘のとおりです。ですが、私が甘かったのです」


「結果的にミレイユは多大な赤字を出し、取引で騙され残りの商品まで失いました。蚕からできる天然物の大量の再受注は不可能なんです」


それからの男爵家は赤字と信用を取り戻すために奔走した。
けれどミレイユの仕事の失敗は続くばかり、借金ばかりが膨らんだのだと言う。



「ですが、ミレイユも適齢期です。元より婚約の話が持ち上がっていた伯爵との婚約式を控えていました」


ジェシカの話を聞いてドルチェはふと思う。
ミレイユと言えば姉の元恋人とばかり付き合っては別れているはず。まさか今度の恋人との婚約となれば……



「ジェシカ、その人は貴女の元婚約者じゃないの?」

「……はい。もう終わった話ですので」


次々に立つジェシカの悪い噂の所為で破談になったとはいえ、婚約中から妹と浮気をしていた事実は変わらない。

それに気まずそうに俯く男爵とは正反対に覚悟した面持ちのジェシカは、家門を立て直す為に妻に先立たれた資産家との政略結婚を決意したというのに、あまりにも釣り合いが取れない。


「ミレイユの婚約者は由緒正しい家門、男爵家の内部が知れれば婚約は白紙になるかもしれません」


「それで、資産を全額ジェシカに贈与する代わりに結婚したいというあの方に返事をしかねていた私にジェシカ本人が名乗り出てくれたのです」


「家門の為の犠牲だとは思っていません、これは貴族としてよくあるただの政略結婚です」



それでも、どう考えても辻褄の合わない話だと思った。



「ミレイユの名義で赤字の事業を引き継いで、家門の為に政略結婚する……その噂とやらの所為でそこまでするのかしら?」


「「!」」


「ジェシカ、私に嘘を付くという事の意味がわかるわね?」

「はい……」

「じゃあ……正直に答えて頂戴。あの噂は全て嘘ね?」



男爵は「どう言うことだ?」と戸惑い、ジェシカは今にも泣きそうな表情を隠す為に俯いた。


「はい……。私は遊び歩いたりした事はありません」

「ジェシカ……!何故今までそう言わなかったんだ!?」

「お嬢様は……っ」


「妹ね。ミレイユを庇ったの?」


力なく頷き「ですが妹が遊び人というわけではありません」としっかり否定したジェシカは妹のことを「少し惚れっぽい」のだと話した。

何度も無防備に男性と二人になるミレイユをパーティーのたびに探し、危ない所を助けた事もあったらしい。
何度も、噂にならぬように庇ったのだという。


単純に妹を守ることが姉の役目だという使命感。


それと、仕事ばかりの自分よりも妹を好きになってしまう婚約者達だったが、婚約者のことをちゃんと愛していたジェシカは妹と大好きな人の事を毎度心から応援していたからでもあった。


大好きな人達が幸せになる為にあらぬ噂に耐え、妹の盾になり続けたジェシカはそれでも誰も恨んでいなかった。


「妹には、私はちゃんと幸せになるのだと伝えました」

「それをミレイユは信じたの?」

「ええ、きっと……」


ドルチェが扉の方へと視線を向けると、皆が不思議そうにそれに倣った。

何も読み取れていない筈のリースがジェシカを庇う姿勢をとったことには感心したが、すぐにミレイユが部屋に飛び込んできて、床に膝をついた。


「お姉様、お父様っ……ごめんなさい!!」

「あなたは呼んでない筈よ」


ドルチェに見下ろされ咄嗟に顔色を失ったミレイユを庇うようにジェシカが前に出て頭を下げた。


「このように、妹には至らぬ点が多いのです。ですが私にとってたった一人のかけがえのない存在なんです」

「お姉様……。私、お姉様が幸せな筈が無いと知っててずっと分からないふりをしていたのよ……?」

「ミレイユ……」

「何でも出来るお姉様が羨ましかった、惚れっぽくて、騙されやすい私を庇ってくれているのも知ってたのに、分からないふりをしてずっとお姉様を傷つけてきたの!」


「で、それを今更言って、姉にどうして欲しいの?」


ドルチェの冷ややかな微笑みがミレイユの頭を冷ました。

心配そうに見つめるジェシカはドルチェの言葉を遮るほどに無作法ではなく、男爵もまた娘達と皇妃のやりとりにオロオロするだけだった。


「自己満足はやめなさい。結局罪悪感をジェシカに拭わせるだけよ。ジェシカ、貴女もよ……」


「はい」


「無駄な慈善行為ボランティアはやめなさい。貴女は有能な商人で貴族令嬢でしょう。そこの無能な父親と違ってね」


悪びれる様子もない堂々たる姿、崩す事のない笑顔、冷ややかな瞳……噂の皇妃が何故一介の男爵家なんぞを気にかけるのか?

ジェシカはふと考えた。

思わずそう考えているうちに見つめてしまっていたドルチェと目が合って慌てて逸らそうとするが、ドルチェはさらに笑みを深くして悩ましいほど魅惑的な目元を細めた。


「いい事を教えてあげる。その代わり名案があるんだけど聞くかしら?」














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