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仕組まれた結婚と罠
しおりを挟むドルチェを前に、頷く他ない四人。
突然にドルチェの魔力が部屋を覆い、腰を抜かした父親に辛うじて寄り添うミレイユ。
ただの防音と、他の者の侵入を防ぐために空間を切り離しただけなのだが初めて見たのか僅かに瞳を輝かせるジェシカ。
「今から話す事はあなた達にとって酷な話、私はボランティアに来た訳じゃないわ。耐えて、選択して欲しいの」
ドルチェが指を小さく円を描くように動かすと、空間が現れリビイルがとある一人の男を連れて来た。
「エジェン伯爵……!」
意気消沈した様子のエジェン伯爵の顔色はひどく悪く見える。
リビイルに付き添われると言うより、殆ど拘束されているような様子のエジェン伯爵はドルチェの前に膝を付いた。
「皇妃殿下、どうかお許し下さい!」
「……私に何を期待してるの?」
穢らわしいとでも言いたげなドルチェが蹴る素振りをすると触れる事なく顎から吹き飛んだエジェン伯爵にジェシカは思わず青ざめた。
「妃殿下、エジェン伯爵はお歳を召されております……!」
「そこの詐欺師の心配を?優しい子ね」
どう見てもジェシカよりも歳下のドルチェだが、この際それはどうだって良い。今ドルチェはエジェン伯爵のことを詐欺師だと言ったのだ……。
「ふふ、事業が失敗したのも商品が盗まれたのも元々はこの男の計画よ。簡単に言えば犯人とはグルで黒幕がこのお爺さんね」
「なっ……!エジェン伯爵、どう言うことですか!?」
「……」
「まず、エジェン伯爵の資産はさほど多くないわ。そして年老いた彼はジェシカの能力を喉から手が出る程に欲してるわ」
ジェシカはドルチェの言葉だけで、ひとつの仮説が思い浮かんだ。だが、ミレイユが取引を任されたのは偶然。
もし自分だったなら簡単に騙されただろうか?
「エジェン伯爵っ、本当ですか?」
エジェン伯爵はジェシカの背後に見えるドルチェのアイオライトの瞳が怖くて仕方が無く、思わず勢いよく頷いた。
「でも、妹が取引をしたのは偶然……」
「ジェシカ殿が相手ならもっと緻密に策を練りましたが……妹君だったおかけでここまで大胆に、簡単に騙せましたよ……!」
開き直ったように笑うエジェン伯爵と、まるで魂が抜けてしまったかのような男爵。
膝から崩れ落ちたミレイユは震え、顔色は青い。
努めて冷静に、静かな怒りを抑えるように深呼吸したジェシカの気丈な姿と、そんな主人から片時も目を離さず寄り添い、かつ勝ち目などないと言うのに背後のドルチェにも警戒を向ける優秀な侍従。
この二人の様子にドルチェは口角を上げた。
「盗まれた商品は無事よ。膨らんだ借金も私が返してあげる」
「「「「 ! 」」」」
「何をお望みですか?」
「飲み込みが早くて助かるわ、ジェシカ」
ドルチェはジェシカを守る為に出て来たリースの鼻を指で弾き、ジェシカの頬をふわりと撫でた。
「全てを呑み込んで現状維持し詐欺師と結婚して、未来に賭けるか……」
「商品を取り戻し、借金を返済する。その代わりジェシカを私に頂戴。勿論この従者も一緒よ」
「えっ……?」
「妃殿下!ですがジェシカは……っ!」
「男爵、商品は返ってくるんだからあなたとミレイユで商売は頑張って頂戴。私はジェシカが欲しいから男爵家を助けるのよ」
リビイルが誓約書を取り出し、それをドルチェが男爵の前へ投げると慌てて読み始める。
ミレイユは悪い顔色を更に悪くして、戸惑った声を上げた後、
「お姉様がいなきゃ、どうやって家を建て直すの?」と呟いた。
ドルチェはそんなミレイユを睨んで、嘲笑うように「だから、だめなの」と言い捨てると、ジェシカに尋ねる。
「あなたは、どうしたい?」
「お姉様!きっと奴隷のように扱われるわ!」
「ミレイユ……、本当ですね妃殿下、甘やかしてしまっていただけのようです。ミレイユは学び、成長する必要があります」
「そんな……っ、私……ううん、そうね。また嫌な妹になる所だった、お姉様のしたいようにして。お父様の事は私に任せて」
ミレイユが大粒の涙を流しながら、ドレスの裾をぎゅっと握ってそう言うが強がりだというのは目に見えて分かる。
けれどミレイユもまた成長と姉の幸せを望んでいるように見えた。
「リース、あなたは私と心中するかもしれないわよ?」
「お嬢様にずっと付いていきます。とうの昔にそう誓いました」
誓約書のお金の数ばかり数えている父親をちらりと見て、七十四歳の年老いたエジェン伯爵を見て、ジェシカはとうとう涙を零した。
「妃殿下、私は……詐欺師と結婚したくはありません……!もっと見たいものや知りたい事があります……!」
「どんな待遇かも知らずに返事をしてもいいの?」
「家門も助かり、私も妃殿下に救われます……それに……」
まさかドルチェでさえも、ジェシカの口からその言葉が出るとは思いもしなかった。
今の様子を見る限り、男爵はずっと優秀なジェシカを頼りにすると同時に家門の犠牲にしてきたのだろう。
優しいジェシカに男爵家は甘え、彼女に我慢を強いてきたのだろう。そういった気付かぬ内に溜まった何かが溢れたのかもしれない……
「ここよりは、マシかもしれない……っ」
「……、!」
いつかの自分と同じ台詞、有能だとはいえ何故ジェシカがこうも気になったのかドルチェはやっと分かった気がした。
自分を睨みつけるように見るリースがリビイルと重なってまた少し口角が上がった。
「お嬢様の事は命に替えても守ります」
「とって喰いやしないわよ」
後日、泣きながら姉を見送る改心したミレイユをみてこれだけは救いだなと思ったが、借金を返しても余る金額に顔を緩ませる男爵と、ミレイユの涙を拭うだけでジェシカには気の利いた一言もやれない気弱な男爵夫人にはただため息が出た。
「とりあえず一人目の人材確保ね、リビィ」
「ドルチェ様、俺も今も変わってませんから。ずっとお守りします」
「ふふ、私より強くなってから言いなさい」
それでも小さな声で「感謝してるわ」と聞こえてきたのをリビイルは聞き逃さなかった。
宮に帰るなり「従者と二人きりで馬車に乗るな」と拗ねた様子のヒンメルに寝室に引き摺り込まれたドルチェを早々に守り損ねたが、まぁこれはいいだろうと待機室へと戻った。
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