暴君に相応しい三番目の妃

abang

文字の大きさ
80 / 99

打ち砕かれる優しき少女

しおりを挟む

もうどのくらいの攻防を繰り返しているだろうか?
否、実際には数分といったところだろう。
けれどもティアラの体感ではかなりの長時間こうしているような感じがする。

体力は底をつきかけ、回復の魔法が間に合わない。

なのに汗ひとつかいている様子のないドルチェの動きは確かに無駄がなく、満身創痍なティアラとは違い子供の遊び相手でもしているかのように力が抜けて軽やかだ。



一瞬、ドルチェから感じるヒンメルの魔力。


(よく考えればこんなに強い令嬢いるはずが……あっ)


ティアラの目が向いたのはドルチェを飾る宝石達。
きっとヒンメルの魔力が込められたものなのだろう、ドルチェは決闘に夫の力を借りて出たのだ。

ティアラはそう結論付けると、観客によく聞こえるように設置されている音声を拾う魔道具によく通る大きな声で指摘した。


「ずるいですわ!!皇妃様……っ、陛下のお力を借りるなんて!」

「今度こそ、演劇かしら?」

「私には分かります!幼馴染ですもの!!皇妃様の魔力に混じる陛下の魔力に気付かない訳がありませんっ」

「あぁ、気付いたのね」

「どの装飾具ですか?正々堂々と勝負して下さいっ!!」


途端に響めく観客達、「悪女」「嘘つき」「狡い」と皇妃を罵る言葉が飛び交う。

それを鎮めたのはドルチェの解き放たれた魔力だった。


防御壁が無ければ皆それに当てられていただろう、防御壁越しにも身が震えるほどの威圧感に思わず静まり返る。

ティアラに関してはもう立っていられずに両膝を地面に着き意識を保つことだけが精一杯の抵抗だ。

徐にドルチェが屈んでドレスの胸元を少し引いて見せる。
ドルチェの銀髪がカーテンになってティアラにしか見えないその赤い華はティアラの気分をさらに逆撫でした。


「なっ……、はしたないわ!」

「彼と身を重ねることは命懸けよ」

「……っ」

「けど、私の場合は


苛立ち、悔しさ、羨望、ドルチェの全部が気に入らない。

おそらく世界でいちばん強く美しい男に愛され、魔力と才能にも恵まれ、あれほどまでにあのヒンメルの瞳を釘付けにする。

それでもこのアイオライトの瞳はどうにも背中が冷えるほどに怖くて動けない。



「その、防御が付与された服も」

「素早さが上がるブーツも」

「回復の付与がされたブレスレットも」

「だから、私はかまわないわよ」


クスクスと笑うドルチェに隙はない。


「なんだ、ティアラ様だって同じじゃないか」「別にルールなんてなかったしな」なんて声が聞こえて来て、今度はドルチェの攻撃を防ぐものなら素晴らしい一級品なのだろうと騒ぎ立てる。

すると誇らしげに自分が贈ったのだと自慢し始める貴族男性達が出始めて、皮肉にもその声はまるでアピールするかのように声高々だ。


「や、やめて……、そんなの誤解されちゃ……」

「いいじゃない。人気があるのね貴女」

「……馬鹿にしてるんですか?」

「そう受け取るならどうぞ。あなた次第じゃない?」


もう、自分では歯止めが効かない。

これは理性的な戦いじゃなくて魔力の暴走だと理解しているが、ティアラはもう止まらない。

ドルチェに向けたつもりの風魔法の大半が観客席へと向かう。

品行方正の心優しいティアラの姿などとうに無く、ドルチェを殺そうと向かう獣のようになりふり構わず最大値での魔法を撃ち続けた。

(ふざけた女!こんなのが皇妃だなんて!!)

騒然とする観客などもう気にする余裕も無く、ただ勝たなければ全て失ってしまうと言うことだけが原動力になっていた。


「少し、飽きたわね」


何となくそう聞こえた気がした瞬間ーーー

ティアラの周り、否、闘技場のステージそのものが吹き飛んだ。

(私だけ避けた……?防御壁はこの為?)

瓦礫すらのこさず、まるで白い砂のように砕けた周囲。

わずかな自分の足元だけがここが闘技場だったことを思い出させる。

思わず静まった観客席とティアラを見て微笑んだドルチェは、やれやれと言ったように言葉を放り投げてから背中を向けた。


「理由なく殺す趣味はないの、喉が渇いたわ」

魔力が殆ど残らないティアラとリビイルから飲み物を受け取って、心配そうなララを宥めるドルチェの勝敗などもう誰の目にも明らかだった。









しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

処理中です...