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暴君と怠け者達
しおりを挟む次々と押しかけくだらない陳情を主張する怠け者達を見下ろし、一番主張の多い別派閥の街からの嫌がらせについて言及すると部屋が静まる。
どうやって自分たちを助けてくれるのだろうと期待に満ちた視線をよそに「使者を出すことにした」とだけ伝えてやった。
「使者?まさか皇妃様が……!?」
「違いない!お強いと噂の方だ!」
勝手に期待し、自分たちは動こうともしない大陸の民衆に苛立ちが募るばかりだがヒンメルはドルチェと練った策を思い出しながら静かに口を開いた。
「何故、皇妃が直々に行くんだ?」
「では誰が……?」
「お前たちの中から五人ほどの使者を選び向かわせる」
どよめきの後に反発する民衆を黙らせ、最もらしく必要性を説明してやると、なすりつけ合うような話し合いを始める民衆。
いつもならばクスクスと笑っているだろうドルチェは雰囲気作りの為かただ冷ややかに民衆を見下ろしている。
「三日ほどやる。さほど長い旅ではないだろう」
選ばれた五人の命の保証などしてやらない。
これはあくまで何か起きることが前提の火種作りなのだから。
一定数の働き蜂を作るための火種。
そして全てを手に入れる為の小さなきっかけ作り。
古典的だが、効率的に手に入れられる。
弱きものに慈悲深いドルチェが「犠牲はつきものよ」とあっさりとした態度を取ったのには驚いたが、まるで人喰い虫のように寄生する奴らを効率よく利用するにはこういった単純なやり方がいちばん早いのだと彼女は笑った。
時々、彼女のいう家族の為に突拍子もない行動をし、暴君だと揶揄される自分よりも遥かに暴君に振る舞うドルチェだが決して優しいだけ、守るだけの力ではないらしい。
時々、驚くほどに冷酷な判断を下すのだーー。
以外にも三日と待たずに決まった使者達を見下ろして一瞬、ふと表情を無くしたかと思ったらまるで天使のような笑顔で尋ねた。
「まぁ、早かったのね。誰が貴方達を選んだの?」
まるで褒め称えるような朗らかな様子に違和感を感じる。
そんなヒンメルの直感は当たっていたようで、不利益は人に押し付けるが褒美には群がる民衆が我先にと手を挙げ、使者達をおしのけて押し合いながら前に出た。
「私です!」
「僕たちです!!」
「優秀な者を選びました……!」
何とも異様な光景であったが、ドルチェは満足したような表情で最前列に出た者を五人、扇子で指した。
「リビィ、彼らを別室へ」
「はい。ドルチェ様」
期待に満ちた瞳でリビイルに別室へと案内された五人の者達は私欲に塗れて気付いていないようだ。
"何故、五人選ばれたのか"
元々使者として選ばれた筈の五人はきっとこの民衆の中では何か役割か力をもつ働き蜂なのだろう。
ドルチェはこちらの五人をララに案内させると、後は「貴方の仕事よ」といわんばかりにこちらを挑戦的に見た。
「今日の謁見は終わりだ、全員出ろ」
人を育てることに長けるドルチェには働き蜂を、人を跪かせることに長ける自分は怠け者を……
「ドルチェ、頼んだぞ」
「えぇ、貴方の為なら喜んで」
その後、後から選ばれた五人は使者として簡単な教育を施されて有無を言わさずに送り出された。
その者達の家族ですら、反発をしなかった。
「自分が選ばれなくて良かった」と安堵した表情をするだけだった。
ドルチェに預けた五人に関してはその話を聞いて、様々な反応を見せた。
覚悟を決めて承諾したはずが、同朋を犠牲にしてしまったかもしれないと涙した者。
自分達がしてきた事のバチが当たったのだと笑った者。
ただぼうっと頷いた者……
けれど怠け者達より遥かに人間らしい反応に、やはりドルチェの目は間違いではなかったのだと思わざるを得ない。
そうやって、大陸の者たちに強引に「役割」を与え競争心を持たせることに成功した。
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