21 / 42
初めての一人での参加
しおりを挟む小規模なものとはいえエルシーがパーティーに一人で参加するのは初めてだった。その所為で皆は表面上は取り繕ったがその笑顔の下では大騒ぎしていた。
「夫は取り急ぎの仕事ゆえご無礼をどうかご容赦下さい」
エルシーのその言葉に男達は「なんだ」と落胆し女達は「そんな筈はない」と顔を見合わせた。
エルシーや他の者達に聞こえぬよう自分達の中だけで話す小さな声だが、女達の話す内容は皆同じで実の所その意見も一致していた。
「リジュ様がエルシー様をお一人で来させる訳がないわ」
「あれでもリジュ様は狂気的に奥様を愛しているもの……」
「まさか、とうとうエルシー様がリジュ様を……?」
リジュがエルシーを手放す訳は無いし、もしかしたらエルシーが今日ここに一人で参加していることを知らないのではないか?と。
ローズドラジェ夫妻の絆が崩れがかっていることをチャンスだと内心ほくそ笑む者、これは当分の間リジュには近づかない方がいいと危険予知する者が居たが、リジュを取り巻くつもりがエルシーをすっかり応援していた者達は「これは一大事だ」と顔を青ざめさせる。
(男達に囲まれてしまっては危険ね)
「え、エルシー夫人。良ければ此方で私達とお話しませんか?」
「レイラ様、ええ……心細かったので嬉しいです」
「こちらこそお話できて嬉しいですわ」
(貴族だし美人なのに素直で可愛いのよねぇ)
此処に居る殆どの女性達がリジュに憧れていた事はエルシーも知っているが、その中の大抵の女性達が彼女にとってとても親切だ。
リジュを取り巻いているものの一線を越えない彼女達はエルシーへの配慮も、過激派な取り巻き達の排除も完璧だった。
彼女たちはもはやローズドラジェ夫妻の取り巻きと化しているのだがそれは本人達もエルシーも気付いていない。
リジュに至ってはそれに気付いた上でそういう令嬢達とは友人として節度ある距離感で接し更には好都合だからとエルシーや自分の周りを好きに囲ませているのだからタチが悪い。
けれどそれでも良いとレイラ達は思っていた。
所謂「見る専門」の取り巻きでもうエルシーごとリジュを愛しているのだから。
貴族の中でそれを知らないのはリジュの黒い一面をまだ知らないエルシーと、一部の男女達だけ。
リジュの圧力によって社交会中がエルシーにそれを気付かせないようにしているのだから彼女が知らないのは自然だが、一部の男達は目の前の女達やエルシーに鼻の下を伸ばすだけで周りが見えて居ないのだ。
一部の女達に至っても同じで、周りの男達やリジュのことに夢中で周りが見えて居ない、嫉妬と欲望に染まる目には他に何も映らないのだ。
伯爵家の令嬢レイラはそこまで考えてふと過去の自分を思い出す。
(まぁ一度は皆リジュ様に狂うほど恋するし、男もまたそう。私も一度は彼しか見えない時期があったものね)
「レイラ様の香りがとても好きなんです」
「へ……これは、私が調香しましたの。貴族なのに自分でなんてみっともないでしょ」
「ううん、秀でたモノがあるって素敵。私は友人が誇らしいです」
「え、友人……」
「あっ……ごめんなさい。勝手に友人だなんて」
「いいえ!良ければ今度友人のエルシー様に香りを贈っても?」
「はい!その時は是非遊びに来て下さいね」
いつか聞いて見たいと思った。
ずっとただの片思いだったし、伝えた事はないものの取り巻きのように近くで見つめて来た。
一度でも夫に恋した女に何故友人だと笑いかけてくれるのか。
きっと彼女は何でもないような台詞で私達を驚かせてまた、笑うのだろう。
気が強くて、気遣いができて、素直、そして底抜けに優しい彼女は自分を取り柄も優れた所もない平凡な人間だと思い込んでいるが今もこうして私の心だけでなく多くの人達の心を掴んでいる。
無理矢理勧められている令嬢のお酒を間違えたフリをして通りすがりに取ってしまったり、自分の靴にお酒を少し溢した新人の給仕のミスを庇う為に取ったお酒をわざと落としたり、
(そしてあのお酒には薬が入って居た筈だから運も強いのね)
ほら、ローズドラジェ夫妻を愛する女達が今立ち上がったわよ。
とにかく今日はエルシー様を馬鹿な者達から守って差し上げなくっちゃ。
101
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!
さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」
「はい、愛しています」
「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」
「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」
「え……?」
「さようなら、どうかお元気で」
愛しているから身を引きます。
*全22話【執筆済み】です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/09/12
※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください!
2021/09/20
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる