家鴨の空【改訂版】

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16話_七夕の花火

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ちょっと記憶を思い出したことがあるんだ……。
七夕のことなんだ……?
短冊を書いていたと思う。
記憶を失う前の僕は……すごい悩んでいたみたい……。
悩んで書いたはずなんだけど……何を書いたか……思い出せないんだ……。
でも今年は、ちゃんと短冊に書いたんだ。
僕の願いが……叶うといいけど……。
………………………………………………………………………
――旬の病室前――
亮二「空。がんばれよ。」
亮二は空の肩をポンと叩く。
義臣は軽く微笑む。
空「はい。行ってきます」
空は二人に礼を言う。
コン……コン……。
と病室の扉を叩いて中に入る。
色んなこと考えてたんだ、部屋に入るまで。
どんなこと言ってやろうとかさ?
怒ろうとかさ?
でもさ……先輩の姿みたら……頭真っ白になった……。

――旬の病室――
旬は、病衣姿でベッドに座っていた。
空「……」
空は黙ったまま旬を見つめていた。
旬は、窓から見える七夕祭りの景色を眺めていた。
空は旬の後ろ姿を見て……胸がいっぱいになった。
空「先輩……」
空は、ゆっくりと口を開く。
旬は、その声に反応し振り返る。

旬「お~、やっと来たか。」
旬はいつも通りの声で答える。
……安心した……。
また……話せるって……。
また……一緒に居れるって……。
僕の気持ちも知らないでさ……。
いや知らないだろうけどさぁ……。

旬「まぁ、座れ。」
旬は空の表情を見て、少し微笑みながらベッドのイスに座るよう促す。
空「ども……。」
空は緊張しながら席に着く。
薄っすらと七夕祭りの灯りが見える。
旬「あんな事件あった後やのに、みんな普通にしてるなぁー。」
旬は窓の外の七夕祭りの景色を見て言う。
空「……」
空は、終始暗い顔で、俯いて答えずにいた。

……なんで……僕と同じこと思っているんだろう……。
……僕の心は……見透かされているのか?

旬「なんや?えらい、暗い顔しとるなぁー。ケガは大丈夫なんか?」
旬は空のケガを心配する。
空「……。(コクリ)傷の具合どうですか?先輩こそ……」
空は心配そうに旬を見つめる。
旬「いやぁー。流石に撃たれたら、痛いなぁー。でも、生きてるわぁ。」
旬は、お腹にそっと触れながら微笑む。
空「……そうですか……すみませんでした……俺のせいで……関係ない…先輩まで…巻き込んで……。」
空は、頭を下げ俯きながら震えるような声で言った。
旬は、一瞬目を丸くする。
旬「謝っとるん?お前のせいなわけないやろ?頭上げ?」
空に微笑みながら顔を下から覗き込む。
空「っ……ゔぅ……ゔぅ……っ……」
空は、大粒の涙をボロボロと零しながら泣きじゃくる。
旬「おい。えぇ!何?!あぁー!何で泣くんよ!」
旬「おい。えぇ!何?!あぁー!何で泣くんよ!泣くなやぁー!俺、涙に弱いねんからなぁー」
旬は慌てた様子で言う。
慌てながらも、左手を動かす。
空の頬には、大きなガーゼが貼られておりその上からそっと旬は触れる。
旬「ごめんなぁ……?守りきれんくて。」
空は泣きじゃくりながら、首を横に振り、鼻水まで出てくる。
空「先輩、あれから……無事なのか……心配で!でも……わからなくて! 俺のせいで……死んじゃうんじゃないかと……お゛も゛っ゛て゛……」
泣きながら必死に旬に伝える。
旬「おーー!泣くな!泣くな!」
旬は、右手で空の涙を拭いながら言う。
空は、言葉を発しようと必死で口をパクパクさせるが言葉が出てこない。
空「た゛っ゛て゛……先輩……う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
空は、何かの糸が切れたように、泣きだす。
旬「えぇ!ちょっと!待てや!」
旬は、慌てて空の背中をさする。
空は、右手首を強く握り震えている。
旬「ちょ……落ち着け……落ち着け…そんな……強く握ったら…痛いやろ……?」
旬は、優しく空の右手を掴む。
空「む゛り゛……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
空は、首を横に振りながら叫ぶ。
旬「はは……そんなに泣いたら……干からびてしまうよ?」
空の頬に触れながら、微笑み言うが空の涙が止まることはない。



この時……僕は先輩を失うのが怖くて……。
涙が止まらなかった……。
鼻水は出るわ、喉は枯れるわ……最悪だった……。
それでも、旬先輩は優しく背中を撫でてくれた。
止まらない涙を、怪我した包帯で何度も拭いた。
泣き止むくらいになると、旬がティッシュを持って待っててくれた。

旬「落ち着いたか?顔凄い事になってんで…鼻水…も…ほんま…なんなん…ほら…ちーんしなさい」
旬は、笑いながらテッシュを数枚取り空の顔に当てる。
空は鼻をかむ。
空「あ……すみません……」
空は、少し落ち着いた様子で言う。
旬「いや、ええけど?ほんま……。アホやなぁ……。でも……無事で良かったわ。」
旬は、空の頭をぽんぽんと軽く撫でる。
僕は、旬の目の前で怖くて泣いたのに、後ですごく恥ずかしくなった。

だって……先輩の前で鼻水たらしながら号泣だよ?
僕、カッコ悪くない?
先輩の前で泣いてさ?
もうなんか色々恥ずかしくて消えたかった。
空「ごめんなさい……。そっそうだ…。」
空は持ってきたビニール袋を差し出した。
旬「おう。ありがとう……」
空「泣いたりして……すみませんでした……。」
旬「えぇけど…。」
空「……」
空は俯いて、黙ってしまった。
旬「なぁ……?死なんかったんやからさぁー」
俯く空に話しかける。
空「……はい……。」
旬「約束…守ってや……。」
空「約束……?」
旬「言ってたやろ?(……今……そんな事考えてんじゃねーよ!後で好きなだけすればいい!したらいいだろ!)って?」
空は、旬の言葉で思い出す。
……そうだ……。
約束してたんだ……。
空「はい……」
旬「だから!生きて帰ってきたんやし?な?」
旬は、笑顔で言う。
空「……はい」
空は、忘れていた。
あの時の約束……。
空は、全身鳥肌が立ち、足の先から頭の天辺まで、ブルッと震え一気に赤くなる。
自分が大声で口走った言葉を思い出したのだ。
旬「なんや……。忘れてたんかぁ?まぁ……えぇけど」
旬は、少しニヤニヤして言う。
空「……いや……その……ゔぁぁ…。あの……あれは……その……。」
空は、旬の視線から目を背けるように答える。
旬「ふはは……。なに?照れてんの?」
旬は、笑いながら言う。
空は、さらに顔を赤くし下を向いてしまう。
空「……すみません…言った…言いました…。」
空は、恥ずかしさのあまり顔を手で覆った。
空「ゔゔ……」
旬「……で?お願い聞いてくれるん?」
旬は、空の顔を覗き込んで言う。
空は、顔を手で覆っているため、表情は見えない。
旬「いい加減、往生際悪いぞ。」
旬は、少し怒った口調で言う。
空「……何…したいんですか……?」
空は、顔を隠したまま言う。
旬「うーん……そやなぁー。まぁ、ちゅーはしたいなぁ?」
旬は、顎に手を当てて考える。
空「……!?」
空は、また顔を赤くした。
旬「これ以上の事はしないで下さいね?って言わんのか?いつものお前なら言うやろ?」
旬は、少し意地悪そうに言う。
空「いっ……いやっ……それは……もう…往生際悪いですし……いいません。」
空は、顔を隠していた手をどけて、旬を見る。
顔がさらに赤くなる。
旬「ほぉ……?」
旬は、ニヤッと笑う。
空「……はい……」
空はまた下を向いてしまう。
旬「なるほどなぁー」
空「……はい」
旬は、ニカッと笑った。

こんな僕のこと見透かされてるみたいだ。
恥ずかしい……。
でも……あの時は……必死だったし…!

旬「じゃあ、もうちょっとだけ距離をつめてもらえますか?」
旬は、自分の横をポンポンと叩いた。
近くに来いって事?
空「え?……はい」
空は、恐る恐るベッドに近づき、少し離れてベッドの横に座った。
空「……(ゴクリ)」
空は緊張した様子でうつむく。
旬「俺、動けないんで、もうちょっとだけ、近寄ってくれませんか?」
旬はニコッと笑った。
空「はい……。」
僕は、うなずきながら少し近づく。
身体が触れ合うか触れ合わないかの距離。
僕の心臓は、バクバクと大きな音を立てる。
……何この雰囲気……。
どうすればいいの?
どうすれば正解なの??
空「……」
旬「……」
2人の沈黙が病室に流れる。

パン、パンと外から音がする。


窓の外を見ると真っ暗闇の中で鮮やかな光がパァンと散っていた。

花火だ。

空「あ……花火……」
旬「お!ほんまや!あ~そうか。今日、七夕祭か…。」
旬は、窓の外を見て言う。
2人は同時に窓を見る。
夜空一面に色鮮やかな花火が咲いていた。
空「綺麗ですね……」
空は嬉しそうに微笑んだ。
島に来て初めて見た七夕祭りの花火だった。
旬「織姫と彦星は会えたんかな?」
旬は、目を細めて言う。
空「織姫様と彦星様は、1年に1度会えるんですよね?会えたでしょ……こんなに……たくさんの人からお祝いされてるんですから…。」
空は微笑みながら言う。
旬「そうやな……。」
旬は、空を抱き寄せる。

空「あっ……あの……」
空は、顔を赤くしながら身じろぐ。
旬「花火。綺麗やなぁー。(ほんま……会えて良かったわぁ。)」
旬は、空を抱きしめて言う。
空「っ……はい……」
旬が空を抱きしめた方向は、花火側の窓じゃなくてドア側が見える方だった。
旬は、何も言わず黙っている。
空「あの……先輩、そっち向きじゃ……見れてませんよ?」
空も黙り、少し冷静になり言う。
旬「ん?あぁー。ええねん。」
旬は、笑いながら言う。
空は、旬に抱きしめられながら、花火を眺めた。
綺麗だ……。
夜空一面に広がる色とりどりの花火。
心臓がうるさい……。
花火の音よりもバクバク言ってて……。
これ……僕の心臓の音じゃない……。
先輩の……心臓の音が……凄い聞こえる……。
どうしよう……。
体が熱い……。
でも、今は離れたくない。
ずっとこのままでいたい……。
そんな気がするんだ……。
先輩と離れたくないよ……。
もう少しだけ……もう少しだけ……このままでいさせて?
僕より大きい身体で、僕より太い腕で、僕より力強く抱きしめてて。
その力強さに安心していた。
このままでいたいんだ。
ただ……それだけなんだよ?
旬「俺は……ほんまはこれだけで、えぇんよ?」
旬は、ぼそっと言う。
その日の…花火は…綺麗で…。
先輩の腕と温もりを感じた。
花火は、それは、本当に綺麗で儚くて一瞬で消えてしまうものだった。
けれども儚いからこそ美しいと思うのだ。
その日の花火は……忘れそうにない…。
いつの間にか空の瞳には、揺らぐ花火と旬が映っている。
空は少し肩をビクつかせた。
それは……一瞬の出来事だった……。
ただ……あのときの花火の音と……先輩の鼓動だけが……鮮明に焼き付いていた。
触れて……離れた距離だった。
終わった時には、空は目を瞑るつもりだったのだが……目を逸らせなくて……閉じられなかった。
先輩の鼓動が伝わって……僕の心臓は鳴り止むことを知らなくて……。
ずっとドクンドクンと速かった。
ただ……あのときの花火の音と……先輩の唇の感触と……匂いと……温もりを今でも思い出す。
胸が苦しくて……呼吸もままならないぐらいで……どうしようもなく……怖くなる。
この感情に名前を付けるなら……何?
旬は、空を黙って抱きしめた。
空も無言で旬をギュッと抱きしめ返した。ッと抱きしめ返した。
これ以上ないぐらい近くに先輩を感じれるのが嬉しかった。
それがどういうものなのかわからない……けど……確かにそこに存在しているような気がするんだ。
泣きたくなる…悲しくなる……苦しくなる。
この人の側に居たい。
離れないで欲しい。
この気持ちに名前は、付けれないよ。
僕には……。

――大空家――

蒼穹が短冊を見ている。
蒼穹「今年は、兄さんちゃんと書いてるね。」
花火の音がする。
由美子「会えらいいね?」
匠「だな。」
短冊には、こう書かれていた。
『大切な人に会えますように。空』
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