家鴨の空

kappa

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親鳥編

出会い

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 海岸沿い。
「若、何か人が!」
 
 学生服を着た青年が、側を歩いているタバコを吹かす青年を呼び止める。
 
 呼び止められた青年は学生服を着ているにもかかわらず、片手にタバコを持っていた。
 
 青年は振り返り、呼びかけた青年に返答した。
 
「ああ?  何だ?」
 
 海から2人が漂着する。2人はゆっくりとだが確実に海岸に近づいてくる。
 
 その様子を見ていた海沿いの道を歩く通行人たちも騒ぎ出す。海側の道路で立ち止まっていた2人が、彼らを助けるために駆け寄る。
 
 2人目はオレンジ色の髪の少年で、もう1人は金髪で色白の少年だ。彼らは手錠で繋がれていた。
 
 2人の少年は砂浜に流れ着いて倒れている2人を担ぎ上げ、その場から離れていく。
 
 通行人たちはその様子を見て、警察や救急車に連絡した。
 
 担がれている2人は気絶しており、やがてパトカーと救急車が到着し、現場検証が始まった。
 
 警察や救急隊員たちは、身元確認のために2人の所持品を確認する。
 その後、2人は病院に運ばれた。
 
 意識を取り戻した少年たちは、お互いを見つめ合う。
 
 金髪の少年とオレンジの髪の少年は、お互いを見つめ合い、どこか見覚えがあるような気がした。
 
 しかし、2人とも記憶を失っており、自分たちの名前などは思い出せない状態だった。
 
 ただ、自分自身の名前だけは覚えていた。
 
 金髪の少年の名前は「空(そら)」、
 オレンジ色の髪の少年の名前は「蒼穹(そうきゅう)」だった。
 
 2人は、記憶を失っているという共通点を持っていた。
 
 しかし、2人がどうして海に浮かんでいたのか、そしてなぜ手錠を付けられていたのかは、まったく分からなかった。
 
 この日を境にして、2人の運命が大きく変わっていくことになるとは、誰も予想していなかった。
 
 彼らが海から流れ着いた理由や手錠を付けられていた理由は、警察の調査でも判明せず、何もわからないまま時間が経っていった。
 
 しかし、彼らはお互いに協力し合い。
 そして、彼らがたどり着く真実は、予想もしなかったものだった。
 
**********************
 病室の外。
 
 病院でもタバコを吸おうとする先程助けた少年。
 
「旬、病院でタバコは吸わないでくれる。」
 
 看護師に注意される。
 
「何や、由美子さんやん。」
 
 少年は、看護師の名前を知っていたようだ。
 注意された少年は、看護師の名前を呼び捨てにしたが、どうやら彼らは知り合いのようだ。
 看護師の由美子は、少年に対して呆れた表情をしているようだ。
 
 そんなやり取りを気にすることなく、タバコを吸い続ける少年がいた。
 
 その少年の名は大道寺旬。黒髪短髪で、細身な体つきをしており、身長は約180センチだ。
 
 年齢は17歳で、顔立ちは整っており、一見するとイケメンに見えるかもしれない。
 しかし、目付きが悪く口が悪いため、ヤンキーにしか見えない。
 
 目の前にいる女性は、大空由美子(おおぞらゆみこ)という方だ。彼女は40歳で、空と蒼穹の担当ナースを務めている。
 
 兄弟は、記憶を失った状態で大空由美子の勤務する病院に搬送されていた。
 
 旬はタバコに火をつけながら由美子に話しかけた。
 
 由美子は注意するが、無駄だと分かっていたため諦めていた。
 
「久しぶりやね、匠のこと以来ちゃう?」
 
 匠というのは、由美子と旦那の男性だ。
 
「助けたのが、あなた達はだとは。」
 
「たまたま通りかかっただけやけどなぁ~。まあええわ。あいつらは無事やったんか?  俺らのことは覚えとらんみたいやったけどな。」
 
「2人とも大丈夫だったよ。今はまだ検査入院中だけど、元気にしていると思うわ」
 
 旬は「そっか、わかった。なんかあったら言ってくれよ」と言い、由美子に頼みました。
 
 由美子「あなた達になんか、頼らないわよ!」
 と怒りを彼に向けました。
 
 すると、旬は「ああ、そんな怒り方したら、シワが増えるよ」と軽口を叩きました。
 
 旬の言葉を聞いてさらに怒る由美子。
 
 由美子「この外道が、顔も見るのもいやよ!」
 
 旬「そない、いいなや、体の相性は良かったやろ。」
 
 と下ネタを言いました。
 
 由美子は顔を真っ赤にして怒りを爆発させる。
 
「あれは! 匠の為に! 仕方なく!」
「にしては、喘いでたな。」
 
「うるさい!」
 
 旬は、ニヤッとした表情で由美子を見ている。
 
「相性良かったんやし、またしよや、40歳越した体もいいわ。」
 
「あんたみたいな変態とはしない!」
 
「なんでやねん、あんなに気持ちよかったやろ。」
 
「忘れなさいよ!!」
 
「無理やな、忘れられへんわ。」
 
「この外道男が! 匠の事がなかったら」
 
「お前も同類やんけ、お互い様やろ。」
 
「私は、違うもん!」
 
「何が違うんや、体は正直やで。」
 
「もう知らない!  二度と来ないで!」
 
 由美子は、
「ふんっ」と言って病室を出ていった。
 
「素直やないし、相変わらずやな。まあいいわ、暇つぶしにはなったからな。」
 
 旬は、病院から出ていき、向いに来た車に乗る。
 
「おい、帰るで。」
 
 旬が乗った車は、高級車のベンツだ。
 運転席に座るのは、黒いスーツを着た長身の男。
 その男の名前は、鈴木拓海(すずきたくみ)。
 
 年齢は20代後半ぐらいで、髪は長く、無造作ヘアをしている
 
「はい、若。」
 
 運転をしながら返事をする。
 
「はぁー、疲れたわ。でも、ええ、暇つぶし見つけたわ。」
 
「それは、良かったですね。」
 
「そういえば、あの2人の名前聞いてなかったわ。」
 
「名前ですか?  確か、兄弟とかって呼ばれてましたね。」
 
「そうか。ちょっと、調べてみてくれるか。」
 
「はい、分かりました、あと若、ほどほどにしてくださいよ。」
 
「分かっとるわ、俺はそこまでバカやあらへん。」
 
「なら、良いんですが。」
 
「まあ、何か分かったら教えてくれや。」
 
「はい、分かりました。」
 
 流されて来た少年達は、、数日入院後、由美子の家。
 
 大空家に引き取られる。
 
 少年達は、記憶が欠落しており、自分達の名前しか分からない状態だ。
 
 由美子は、少年達を自分の家に連れ帰り面倒を見ることにしたのだ。
 
 由美子は、少年達の身元を調べたが、分からずじまいだった。

**********************

 3ヶ月後…………。
 
 旬の家の前
 
「若、いってらっしゃい!」
 
「いってきまーす。」
 
 バンダナをした少年が旬に話しかける。少年は、白井菅。(しらいかん。)
 身長は170センチで細身。
 髪は短髪で、顔立ちは整っている方だ。
 
「この間助けた奴、登校してるそうです。」
 
「そうか、ほんなら、学校が終わったら会いに行ってみるか。」
 
「そうしてやって下さい。」
 
 白井は、旬の舎弟だ。
 この世界では、ヤクザの組員は家族扱いされる。
 そのため、組長の子供である旬の世話役でもあるのだ。
 旬は、車を下り歩いて学校に通っている。
 もちろん、護衛付きだが。
 学校につくと、教室に入り授業を受ける。
 放課後になり旬達は、神鈴兄弟の通う高校へ向かった。
 兄弟は、まだ記憶喪失のままだ。
 しかし、少しずつ記憶を取り戻している。
 2人は今年で空は15歳、蒼穹は14歳になる。
 
 この世界の法律では、未成年は保護者が必要なため、由美子が引き取ることになったのだ。
 
 由美子は、2人を我が子のように可愛がっていた。
 放課後、空は生徒会の委員会に入っていた。
 
 
「来た。」
 
 眼鏡をかけた、茶髪の少年が空に話かける。
 
「空、あれにはかかわるなよ。」
 
「何? 斑鳩は大袈裟だね。」
 
「大道寺組の御曹司、ヤクザの息子だ。」
 
 斑鳩は、空が島に流れて、初めてできた友人だ。
 
「ヤクザね。」
 
「そうだ。」
 
「大丈夫だよ。」
 
「いい話し聞かねえし、やってることはやばいし。」
 
「何が?」
 
「過激ってことだよ。」
 
「俺達と変わりないじゃん。」
 
「そうかもしんねえけど。」
 
「心配性なんだから。」
 
「お前が、呑気過ぎるんだよ。」
 
「そんな事ないよ。」
 
 空は、不良の学生の中でボスになっていた。
 
「とにかく、関わるなよ。」
 
「わかったよ。」
 
 空達が話をしている間に、旬が教室に入って来た。
 
「失礼するでぇ!」
 
 クラス中の生徒が驚く。
 それもそのはず、ヤクザの若頭が突然現れたからだ。
 
「なんや、男やんけ。」
 
「悪かったな。」
 
「ま、ええわ、今日は挨拶しにきてん。よろしゅうな、俺ここの3年やから。大道寺旬。」
 
「ヤクザの息子。」
 
「そうそう、ヤクザの息子。」
 
「お前、若に」
 
「白井! 黙れ!」
 
「えっ!?」
 
「はっはっはっ! おもろい奴やないか、気に入ったわ。」
 
「そいつはどうも。」
 
「ちょっと、面かせ。」
 
「はぁー、面倒臭いんだけど。」
 
「文句言うなや、男やろ。」
 
「分かったよ。」
 
「おい、白井行くぞ。」
 
「はい、若。」
 
 2人は、教室を出ていく。
 空は、旬と一緒に屋上へ上がる。
 
「なあ、兄ちゃん名前は?」
 
「空だ。」
 
「そうか、そらか。」
 
「ああ、こちらこそ。」
 
「早速やけど、うちのもんが、迷惑掛けたみたいやな。」
 
「別に、気にしてない。」
 
「そう言ってくれると助かるわ。」
 
「で、要件は何だ。」
 
「単刀直入に言おう。空、俺らの組に入る気はないかい。」
 
「ヤクザになれと?」
 
「せや、悪い話しちゃうと思うんやが。」
 
「興味がない。」
 
「即答かいな。」
 
「ああ、俺はあんたらとは違う。」
 
「どういうことや。」
 
「俺は、自由に生きる。」
 
「自由ね。」
 
「俺は、誰にも縛られない。」
 
「ふぅ~ん、ほな、しゃあないな。」
 
「帰るのか。」
 
「いや、諦めへんで。また来るで。」
 
 旬は、階段を降りていく。
 空は、旬を見送ったあと、教室に戻った。
 教室では、旬の話題で持ちきりだった。
 
「大丈夫だったか?」
 
 斑鳩が駆け寄る。
 
「大丈夫だったよ。」
 
「あの人、大道寺組の若頭だぜ。」
 
「知ってる。」
 
「何であんな奴と話すんだ。」
 
「島に流れてきた時、助けてくれた人だった。」
 
「そうなの!?」
 
「うん、だからお返しをしただけさ。」
 
「でも、ヤクザだぞ。」
 
「分かってるよ。」
 
「ヤクザと繋がりがあるなんて知られたら、この学校にも居られなくなるかもしれないだろ。」
 
「いいんだよ。もう決めたことだから。」
 
「マジで言ってるの?」
 
「ああ。」
 
「はぁ~、お前って本当にへんな奴だよな。」
 
 放課後になり、空は家に帰る。
 玄関を開けると、由美子と匠が待っていた。
 空は、2人と夕食を食べながら会話をする。
 そして、就寝時間になると空は、部屋に戻りベッドに横たわる。
 
(斑鳩が、心配してくれるのは嬉しいが、俺には俺の考えがある。)
 
 空は、眠りにつく。
 空は夢を見る。
 真っ白な空間にいる。
 そこに1人の少女が現れる。
 水色の長い髪、青い瞳の少女。
 空は尋ねる。
 君は誰? と。
 すると、少女は答える。
 私はあなた、あなたの中にいる者。と。
 そこで途切れる。空は目を覚ます。
 時間は朝の7時半。
 リビングに向かうと、テーブルの上に朝食が用意されている。
 空はそれを食べると、制服を着て、鞄を持ち家をあとにする。
 通学路を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
 斑鳩だ。
 空は、斑鳩と並んで歩く。
 空達は、高校に到着する。
 トイレに寄る空。
 
「お前なんで個室入んの?」
 
 個室から出てきた空に旬が質問する。
 
「何で、あんたいんの?」
 
「えぇやん、トイレしたなってん。で? 何で?」
 
「お腹が弱いんだ、いいだろう。」
 
「ふーん」
 
 下校途中、不良達に絡まれる空。
 
「たく……」
 
 喧嘩をしていたそら。
 倒した相手の上に座る。
 そこへ旬が現れる。
 
「うわ、すっげー鼻血でてるやん。」
 
「うるさいなぁ……ほっとけよ!」
 
「気抜いたら殴られたれたんだ。」
 
「はぁ~、情けないわぁ~」
 
「何だと!」
 
「なぁ、お前、車乗ってけや。」
 
「はぁ!?」
 
「送ってったる。」
 
「いや、遠慮しとくよ。」
 
 諦める旬。
 
「あっそ、鼻血止まらなそうやな。」
 
 旬は空の鼻血を触る。
 鼻血の付いた手を舐める。
 
「なにするんだよ! 汚いだろ!!」
 
「うまそうやったんやもん。」
 
「きもっ! 変態じゃん。」
 
「好きな子の血、舐めたない?」
 
「は!?」
 
「まあ、冗談やけどな。」
 
「ほんとにやめてくれよ。」
 
「はよ治りやほなな。」
 
 旬は、空の頭を撫でて帰る。
 
「子供扱いかよ……。」
 
 次の日、空は教室に入ると、クラスで人気のめぐみに校舎裏に来て欲しいと言われる。空は、言われたとおりに行く。
 めぐみが待っていた。
 
「来てくれたんだね。ありがとう。」
 
「要件は何だ。」
 
「私ね、前から空君のことが好きだったの。」
 
「そうなのか。」
 
「うん。付き合って下さい。」
 
「ごめん、俺は誰かと付き合いたいと思わない。」
 
「どうして?」
 
「俺は、自由に生きるって決めたんだ。」
 
「自由な恋愛はダメなの?」
 
「ああ。」
 
「わかった。」
 
「それじゃあ。」
 
 空は帰ろうとする。
 
「待って。」
 
「何?」
 
「最後にキスしてくれない?」
 
「何でだ。」
 
「だって、振られたのに、告白の返事が『自由』だなんて納得できないもの。」
 
「そういう事か、分かったよ。」
 
 空は、
「これが最後だぞ。」
 
 と言い、口づけをする。
 
「これで満足か?」
 
「うん、ありがとう。」
 
「さようなら。」
 
「うん、バイバイ。」
 
 教室に戻る空。
 そこに、旬が現れる。
 
 空の教室にめぐみが慌てて現れる。
 
「どうしたの?」
 
 斑鳩が聞く。
 
「空君が!」
 
 校舎裏
 
「てめぇ、表でろや」
 
「やってやるよ」
 
 旬と空がつかみ合っている。
 
「離せよ!」
 
「うっせー、お前が悪いんや」
 
 空が旬の腹に膝蹴りを入れる。
 
「ぐはぁ!」
 
 旬は倒れる。
 人が集まってくる
 
「何で、若とあつが喧嘩?」
 
 斑鳩が言う。
 空は旬を殴る。
 すると、旬が殴り返してきた。
 それを何度も繰り返す。
 斑鳩と白井が止めに入る。
 
「若、やめましょう。素人さんに手ェだしたらあきません。」
 
「空、もういいだろう。」
 
 2人に止められる。
 空と旬の間に距離ができる。
 
「うるさいんじゃ、我!! 黙れや!」
 
「くっ……」
 
 旬は、2人をどかし、空に近づく。
 空の胸ぐらを掴む。
 
「こいつは、ワシが気に入らんこといいよった。」
 
「だからって、こんなことして良いわけないでしょう。」
 
 斑鳩が旬を止める。
「何で、俺の気持ち気づいてくれんのや!」
 
「気づくわけないだろう!」
 
「何でや! お前のことが好きなんや!」
 
「はぁ!?」
 
「嘘やない! お前のことずっと好きやったんや! なのにお前は、他の女と仲良くなりよってからに……」
 
「お前、ホモかよ……」
 
「ちゃうわボケ!! めちゃくちゃタイプやねん。」
 
「いや、無理だわ。」
 
「何でや!」
 
「だってお前、男だし……。」
 
 空の額から青ざめていく。
 
「金髪、白顔、タイプやねん。」
 
「はぁ!?」
 
 旬と少し距離を取る空。
 
「まじかよ……。」
 
「なぁ、ええやろう? 付き合おうや。」
 
「絶対に嫌だ!」
 
「そんな照れるなって」
 
「ちげーよ!」
 
「なぁ、ええやろ? 付き合うって言えや。」
 
「全校生徒がいる前で告った若。」
 
「しかも、断られたのに、しつこくつきまとう若。」
 
「流石に引くわ。」
 
 周りにいた生徒がざわつく。
 
「おい! お前ら! 余計なこというなや! それに、まだ振られてへんし。」
 
「は!?」
 
「だって、振られとらんし。」
 
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、絶対振るよ!」
 
「大丈夫や、問題あらへ~ん。」
 
「だから、俺怒ってん。めぐちゃんと付き合ってるとか言ってたから。」
 
 旬が空の手を掴む。
 
「何だよ、この手」
 
 手を離そうとするが凄い力で離さない旬。
 
「好きやねん‼︎」
 
 旬が空を引き寄せて思いっきり抱きしめる。
 
「待て! めぐみちゃん紹介するから!」
 
「なんでやねん!」
 
「若、やり過ぎですって。」
 
「あかん、抑えられん。」
 
 空は抵抗する。
 
「離れろよ。」
 
「あかん、離れられん。」
 
「ちょっと、マジでやめて。」
 
「空がええねん‼︎」
 
「ちょっと……」
 
 強引に空の唇を奪う。
 すると、空が暴れだす。
 空が旬から離れる。
 
「思ってた通り、唇やらかいわ……」
 
「お前、殺すぞ。」
 
 空の瞳孔が開く。
 
「おっ、その目もタイプやわ。」
 
「死ねや!!」
 
 空は旬を殴ろうとするが、斑鳩と白井に止められる。
 
「空、落ち着け!」
 
「空、殴っちゃダメだよ!」
 
 空が旬を睨む。
 
「俺は本気だ!」
 
「若、これ以上はまずいっすよ。」
 
「離せや!」
 
「離せや! じゃないっすよ。」
 
 空が旬に殴りかかるが、2人が
 
「空、やめろ!」
 
「空、落ち着いて!」
 
 と必死に止める。
 
「離せや!」
 
「もう、やめましょうって。」
 
「もう、若は諦めてください。」
 
「嫌じゃ、ワシは空がほしいんや。」
 
「いい加減にしなさい!」
 
 斑鳩と白井が旬の腕を掴み、引きずっていく。
 
「離さんか!」
 
「若、もういいでしょう。」
 
「若、帰りますよ。」
 
 2人に引っ張られる旬。
 空は旬を殴ろうとしたが、
 
「空君、もうやめようよ……」
 
 と、めぐみが止めに入る。
 空は旬を殴ろうとしていた拳を引っ込めた。
 空は旬が見えなくなるまで見ていた。

**********************
 
 空達は教室に戻った。
 そして、授業が始まった。
(あいつのせいで、最悪だ……)
 旬は学校には来ていたが、休みがちだった。
 今日は久しぶりに学校にきていた。
 昼休憩になった。
 みんなが席を立ち、昼食を食べに行く。
 空は、屋上に向かった。
 そこには、いつものメンバーが集まっていた。
 海斗が言う。
 海斗は、1年生で空手部。
 黒髪短髪。
 筋肉質。
 優等生で真面目な性格。
 空と斑鳩と仲が良い。
 斑鳩とは幼馴染みで親友。
 空とも話すようになる。空のことを信頼している。
 さきほどのことが話題になっていた。
 
「話題になってるぞ、空。」
 
「僕も驚いたよ……、だから気をつけろって言っただろ?」
 
 と、空は答えた。
 
「あんな奴だとは思わなかったよ……」
 
 と、ため息を着く空。
 
「まぁ、気にするな……」
 
 と、励ます海斗。
 
 すると、後ろから声を掛けられた。
 振り返ると、そこに居たのは、旬だ。空達を見てニヤッとする。
 すると、空達のほうに近づいてきた。
 空の前にくる。
 空は無視して、弁当を食べる。
 だが、空の隣に座り、話しかけてきた。
 空は、無言でいる。
 すると、 空の肩に手を置いて、顔を近づけてくる。
 すると、空は立ち上がり、旬の顔に蹴りを入れる。
 旬は、蹴られた勢いで後ろに倒れる。
 周りの生徒達がざわつく。
 
 旬が起き上がり、空に向かって怒鳴る。
 
「お前! 何しとんねん! 殺すぞ!」
 
 空は、旬を無視して食べている。
 
「お前、ふざけんなよ!」
 
 と、旬が空に殴りかかろうとする。
 それを止めたのは、斑鳩と白井だ。
 
「ちょっと、落ち着けって。」
 
「若、落ち着きなって。」
 
「邪魔すんじゃねぇーよ!」
 
「いやいやいやいや、暴力はダメですよ。」
 
「うるさい! 離せや!」
 
 と、暴れる旬を必死に止める2人。 
 
「空、行こうぜ。」
 
 と、斑鳩が空を誘う。
 
「うん。」
 
 空は、斑鳩と一緒にその場を離れた。
 空達は、誰もいない空き教室に来た。
 
「大丈夫か? 空。」 
 
「ああ……」
 
「大丈夫!? 空君!?」
 
「問題ない……」
 
「本当に大丈夫なのか?」
 
「問題ない……」
 
「あのさ、もう関わらない方がいいと思うよ……」
 
「そうだね……、関わるのはやめた方がいいよ……」
 
「わかっている……」
 
 と、空が答える。
 しかし、次の日もまた次の日も。旬は、毎日のように空にちょっかいを出してくる。
 ある朝、登校中に絡まれた。
 またいつものか……と、思っていたが……
 違う不良達数十人に囲まれる。
 
「お前が空だな!」
 
「そうだけど。」すると、不良の一人が殴りかかってくる。
 
 不良が空を殴ろうとするが、不良を殴り飛ばす。
 
 殴られた、その衝撃で倒れ込む。そして、起き上がろうとして顔を上げると、目の前に拳があった。
 顔面に拳が入る。
 
 そのまま倒れ込み気絶した。
 他の不良達が襲ってきたが、全員を一撃で倒していく。
 しかし、人が多い。空が苦戦している。
 空の身体には傷ができていく。
 その時だった、空の腹部を殴る。
 空が吹っ飛び、壁に激突する。
 空の口から血が流れる。
 不良達が笑い出す。
 空はフラつきながら立ち上がったが、意識が遠くなっていく。
 すると……
 不良達に捕まり、空を拘束して連れ去った。
 [newpage]
 空は気を失っていた。 
 目が覚めると……
 どこかわからない廃工場にいた。
 空が目を覚ましたことに気づいた。
 不良達数人が集まってきた。
 空は、不良達に囲まれている。
 そして、1人の男が空の前に立った。
 空は男を見る。
 身長180cmくらいの長身。
 黒髪ロング。
 オールバック。
 左耳にピアスをしている。
 目付きが悪く鋭い眼光を放つ瞳、眉間にシワを寄せ、睨みつけているような表情でこちらを見下ろしている。
 年齢は20代後半ぐらいだろうか……。
 すると、男が言う。
 俺らは、東条会って言うヤクザの組に所属している者だと。
 俺は、組長の側近をやっていて頭を任されてる者だと。
 お前らみたいな、クソガキは大嫌いで、生意気でムカつくんだよと。
 だから、潰しに来たんだよと。
 大人しくすれば殺しはしない。
 だが……、抵抗するなら殺すと。
 だから大人しくしろと。
 空は、男の話を聞いて思った……
(ああ……、そういうことか……)
 空が言う。
「つまり、こういう事だろ?  俺達を殺して口封じしたいと。」
 空の言葉に周りにいる不良達から怒声が響く。
 空は気にせず、話を続ける。
「この世界では、強いものが勝つんだろ? 弱肉強食の世界なんだろ?
 弱いものは淘汰されるのが運命なんだよなぁ。
 だから、俺を殺しに来た。
 そういうことだろ? なぁ!  」
 空が叫んだ瞬間、男の顔面に蹴りを入れる。
 吹き飛ぶ。
 壁に激突する。
 だが、空の攻撃は終わらない。
 今度は、後ろの男に回し蹴りをする。
 後ろの男は倒れる。
 すると……
 次々と不良達が襲いかかってくる。
 次々に倒して行く空。
 空は戦い続けた。
 しかし、徐々に押されていく。
 空の全身からは血が流れていて満身創痍の状態だ。
 だが、それでも立ち向かっていく。
 そして、ついに力尽きた。
 空は、その場に倒れた……
 すると、男が立ち上がる。
 空に近づく。
 そして、腹を思いっきり蹴り上げた。
 その威力は凄まじく、壁まで吹っ飛んだ。
 空は動かない。
 完全に意識がないようだ。
 それを見下すように見ていると、突然横に現れた人影を見て驚く。
 そこには、旬がいた。
 旬は空の元に駆け寄る。
 そして、空を抱きかかえる。
「おい! 大丈夫か!」
 返事はない。
 旬は、鬼の形相になる。
 怒りの感情でいっぱいになった。
 すると……
 
 男達は言う。 
 
「待ってましたよ、坊ちゃん。」
 
「お前、覚悟せえょ。」
 
 すると、不良達が一斉に旬に向かってくる。
 
「死ぬ気でかかってこいや。」
 
 と、言いながら拳を振るう。
 不良達を次々と倒していく旬。
 数分後、立っている者は旬だけとなった。
 そして……
 旬が空を抱えて帰ろうとした時……
 
 空は目を覚ました。旬が空を抱えている状態だ。
 
「お……お前……どうして……」
 
「助けにきたぞ、ハニー。」
 
 旬は、そう言って笑った……。
 
 **********************
 ーーーそして病院
 空の腹部と頭部に包帯が巻かれている。
 空は意識の混濁する中記憶がフラッシュバックする。
 それは、島に来るまでの記憶。
 だれかに、身体を弄ばれる。
 そして……
 何かが弾ける音が聞こえる。
 ……そして空は目覚めた。
 目の前には見知らぬ天井が見える。
 上半身を起こすと、腹部に痛みが走る。
 腹部を見ると白い布でぐるぐる巻きになっていた。
 すると、ドアを開けて入ってきた。
 そこには旬の姿があった。
 旬が、心配そうに見つめる。
 旬が近づいてくる。
 旬はベッドの横にある椅子に座ると……
 旬は申し訳なさそうな顔で言う。
 
「本当に悪かった……俺のせいでこんな事にさせてしまって……俺の組のゴタゴタに巻き込んで。」
 
「気にするな……それに……俺が決めたことだ。お前が謝る必要なんてねーんだよ。俺は俺の意思で動いたんだから。」
 
 旬は少し微笑むと、
「そうか。ありがとな、空……。」と言う。
 
 そして、真剣な眼差しになると、
 
「今回の件は東会の若頭の側近として、責任を持ってケジメをつけさせる。安心してくれ。」
 
 と言って病室から出ていった。
 その後、由美子さんが心配で駆けつけて来た。
 
「無事でよかった……、病院運ばれたって言われて……もう心臓止まりそうになったわ……ほんとに……無事で……良かった……グスッ……」と言い泣き始めた。
 すると、空は言う。
 
「心配掛けてごめんなさい……。後、泣かないで下さい……。俺も……悲しくなります……から。」
 
 空の言葉を聞いた瞬間、さらに涙を流し抱きついてきた。空はそれを優しく受け止めていた。

**********************
 それから、1週間入院し退院した。
 そして数日後 空のスマホに、メールが届いた。
 差出人は、旬からだった。
 その内容は、東条会に空達が襲われたことについての、手打ちが済んで東条会は手を引いたという事だ。そして、東条会と東雲学園は対立関係にあるということ。だから、今後一切、空達と関わりを持たないと約束したという事。
 そして、最後に 空へ、また、会いに行く。その時は、デートしてくれないかい? ハニー と書かれていた。
 空はそれを見て苦笑いしながら言う。
 なんつー奴だよ……、普通、逆だろ! ってツッコミを入れつつ、でも、あいつらしいよなぁ……と思いながら 返信する了解、楽しみにしてるぜ。
 と書いて送信ボタンを押した。
 ーーーとある喫茶店にて 旬は空の書いた返信を読み嬉しそうにしている。
 その表情はまるで恋する乙女のように頬を赤らめている。
 すると……
 空からの返信が来た。
 旬が見ると、そこには……
 馬鹿野郎! とだけ書かれていて、その横に、怒りの表情をしている猫の絵が描いてあった。
 旬はその絵を見た瞬間、声を出して笑う。
 ツボに入ったのか、ずっと笑っている。その姿を見ている他の客達は不思議そうな顔をしていた。だが、次の言葉を聞いて、全員が納得した。
 この店にいる人達が皆、心のなかで思う。
 きっと、あの子には何かあるのだろう……と……。

**********************

 また別の日の下校。
 2人のあとを歩く白井と斑鳩。そして、その横を歩いている海斗。
 すると……
 白井が言う。
 
「最近若、空に距離近くないですか?
 聞いてるやろ? 手打ちの事それから……呼び方まで変えてるやん。何より空を見る目が変わった気がすんねんけど……何か知ってるか、斑鳩と海斗坊?」と聞かれる。
 
 斑鳩と海斗は「知らんなぁ……」
 
「知らないです。」と答える。
 
 それを聞き、少し不安げになる白井。
 
 斑鳩が話す。
 
「あれから色々あって、その我慢させへんように、下校とかは喋ってもいいと。」 
 
「なるほど…………私が休んでいる間に。」
 
 白井は、納得する。
 
「まあ、そういうことです。」
 
「そういえば若は空のこと好きなんですかねぇ?」
 
 と白井が聞くと、斑鳩が即答で
 
「好きですよ。って聞いた。」
 
 と返答した。それを聞いた2人は
「えっ!」と驚くと……
 斑鳩は続けて話し始めた。
 
「助けてもらったし、優しいし、自分には。」
 
「斑鳩さん……それは言いすぎですよ……照れくさいです。」
 
「事実でしょ? 白井さん見たらわかるでしょ。」
 
「そうですが……気をつけてと言っといてください、空に、若あの人倫理観薄いから。」
 
「わかってますよ。でも、空が選んだ相手なら文句は言わないつもりだよ、当然……いいんだけど……。」
 と少し照れ臭そうにする斑鳩。
 
 それを見ていた白井と海斗が微笑ましく見ている。
 それから3人は学校についた。
 日常が始まる。
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