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リックス様とドレス選び
しおりを挟む「この頃、リックスの肌ツヤが良くなったわよね。これもエリーナちゃんのおかげね」
「いえ、私は少しお手伝いをさせていただいているだけですので、ほとんどリックス様が頑張られている成果ですわ」
「まぁ、エリーナちゃんったら謙虚なんだから」
「そんな事はありませんわ」
リックス様にマッサージをさせてもらう様になってからひと月が過ぎた頃の夕食でお義母様がそう言ってくださいますが、本当に私は大したことはしていませんわ。
肌ツヤが良くなったのはリックス様が日々運動をされ、食事も改善された事が大きいです。
運動によって身体の血流が良くなり、もったいないからと言って領民から頂いたものを全て食されていた所を、減量しているから協力してくれと断りを入れ、食事量も減らし、バランスの良い食事をされているのですから、肌ツヤが良くなるのは当然ですわ。
私がしているマッサージも肌にはいいですが、やはりそれだけでは荒れた肌をゆで卵のようにツルツルなお肌には出来ませんもの。
たったひと月ですが、リックス様は本当に変わられましたわ。
ふくよかで柔らかいフォルムなのは変わりませんが、階段を登りきっても息切れされませんし、赤く荒れていた肌はキメ細かく、ご婦人方が嫉妬する様な仕上がりになりましたもの。
「リックス様のお姿は、リックス様の努力の結果ですわ」
なぜ突然運動を始められたのかは分かりませんが、運動をすれば息も絶え絶えで毎日筋肉痛になられていた姿はもう見ることがありませんわ。
「うーん。私が見ている限り、全てエリーナちゃんのおかげだと思うわ。ね、リックス?」
「おほん、本日は目を通しておきたい書類がありますので、この辺で失礼致します」
「あら、恥ずかしがり屋さんね」
くすくすと笑うお義母様を無視して、リックス様は静かに席を立ち退出される。
どこか不機嫌なように見えましたが、何かあったのでしょうか?
「気にしなくていいわよエリーナちゃん。ただ恥ずかしがっているだけだから」
「そうなの、ですか?」
「ええ」
「ああ」
お義母様だけでなくお義父様まで楽しそうに頷かれました。
お2人が言われるのならそうなのでしょうが、一体何を恥ずかしがっていらっしゃるのでしょうか…。
「さて、リックスの事は放っておいて。エリーナちゃんのドレスについて話しましょうか」
「ドレス…ですか?」
パーティーに出席するドレスなら、お義母様が持って来て下さったカタログを見て決めたはずなのですが…。
「前に話していたドレスが出来上がって届いたのだけれど、なんだかイメージしていたものと違ったのよ。だから、明日にでも直接お店に行って色々試着してみるのはどうかしら」
「でもせっかく仕立てていただいたのですから、新しいのは必要ありませんわ」
わざわざお店に行ってまた新しいのを用意してもらうなんて申し訳ないですわ。
そう思って断ろうとしたのですが、お義母様はビシッと私の方へ人差し指を向けられる。
「そんなことは私が許しません!ウチの可愛いエリーナちゃんに似合わないドレスなんて着せれないわ!なので、明日はドレスを見に行きます!わかったわね!」
「は、はい…!」
「よろしい。ふふふ、明日が楽しみだわ~」
お義母様の勢いに圧されて頷いてしまいましたが、まさかお店にリックス様が付いてきて下さるとは思っていませんでしたわ!
「リックス様、こちらなど、ご婚約者様にお似合いではないでしょうか?」
「そうだな…。だが、彼女ならもう少し淡い色でも似合うと思うんだが、どう思う?」
「確かにそうですね。では、こちらの色はどうでしょう」
「いい色だな。だが、形がーーー」
リックス様が付いてきて下さったことにも驚きですが、私よりもドレス選びを真剣にされていることの方が驚きですわ。
私としてはそこまでこだわりは無いのですが、リックス様はドレス選びにも妥協をされない方のようです。
何事にも完璧を目指そうとされるリックス様ですが、まさかドレス選びもとは思いませんでしたわ。
店員さんとかれこれ2時間も話されていますね。
私は本当にどれでもいいのですが…。
あ、これはリックス様に似合いそうですね。
これを着たリックス様はきっとカッコイイのでしょうね。
「そちらが気になられますか?」
「あ、」
「それは男物だぞ」
私に気付いた店員さんに話しかけられて驚いていると、リックス様が呆れたようにこちらを見てくる。
そのリックス様に慌てて手を振って弁解する。
「い、いえ、私ではなく、リックス様が着用されればとても素敵なのでしょうと思いまして!」
「なっ、」
「決して私が着たいと思ったのではなくてですね!」
「ふふ、ええ、分かっておりますとも。とても素敵な婚約者様ですね」
「う、うるさい…」
誤解をされないように弁解しましたが、何かおかしい事でも言ってしまったのでしょうか?
何故か微笑ましそうにリックス様を見る店員さんと、少し耳を赤くしながら顔を背けるリックス様に首を傾げる。
「せっかく婚約者様がああ言われているのですから、ご試着されては如何ですか?」
「いや、俺は別に………」
私のドレスを選んで下さるために来たのですから、これ以上リックス様を困らせてはいけませんよね。
ですが、この服を着たリックス様を見て見たかったですね…。
「少しだけだぞ。ちょっと待っていろ」
「いいの、ですか?」
「ついでだ。俺も新しいのが必要だったからな」
「ありがとうございます!」
「だから、ただのついでだ!」
そう言って居心地悪そうに試着室へと向かわれてしまいました。
やはりリックス様はお優しい方なのですね。
ぶっきらぼうに言われても、私の為に試着しようとしてくださるのですから。
「っ、」
「少しサイズが小さい様ですね…」
「大きいサイズを作ることは出来るか…?」
「可能ですが…早くても3ヶ月ほど頂くかと…」
「そうか…」
試着室から聞こえてくる声に気まずくなる。
私のせいで、リックス様に恥をかかせてしまったわ!
どうしましょう…。
私が変な事を言い出さなければこんな事にはならなかったのに…。
今更もういいですとも言えませんし…。
どうしようかと悩んでいると、試着室からリックス様の声が聞こえてくる。
「なら、これをもらおう」
「よろしいのですか?」
「ああ、サイズの事はこちらでなんとかするから問題は無い。それと、ドレスはさっきので頼む」
「承知致しました」
私が悩んでいる間にリックス様は服とドレスを購入され、翌日からリックス様の運動量が倍になりました。
本当に大丈夫なのでしょうか…。
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