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お久しぶりです。
しおりを挟む「ねぇ、見てください。あの方って…」
「ええ、そうですわね。ルーファス様に婚約解消された…」
「婚約解消をされたのにここまで来るなんて、なんて精神がお強い方なのでしょうね…」
「私なら、ショックでこんな所へ来れませんわ…」
会場に入ってからあちらこちらから聞こえてくる声に呆れてしまいますわね。
あの方達の中では、私がルーファス様を愛していたにも関わらず、ルーファス様に想い人が出来て婚約解消をされてしまった可哀想で無様な令嬢、とでも思われているのでしょうね。
「確か、あのご令息と婚約されたと聞きましたが…」
「そうですわよね。私も聞きましたわ」
「ですが、そんな方はどこにも…」
まだ周りが騒がしいですが、せっかくリックス様と参加したパーティーですので楽しまなくては損ですわよね。
そろそろ主役が登場されるでしょうから、その後にリックス様とダンスを楽しみましょう。
「…大丈夫か?」
早くダンスが始まればいいのに、と思っていればリックス様が心配したように話しかけてくださる。
「なにがでしょうか?」
「その…周りが少し、煩いだろ?」
「ああ、その事でしたら気にしていませんので心配ご無用ですわ」
このように周りでコソコソと話されるのは、ルーファス様の婚約者になってからは日常茶飯事でしたもの。
ただこちらに聞こえるように話しているだけで実害はありませんので気にするだけ無駄ですわ。
ですが、リックス様に心配していただけたことは、素直に嬉しいですわ。
ルーファス様なんて、1度も心配するような素振りを見せたことがありませんもの。
「マルクス嬢が気にしないなら別にいいが…。耐えられなくなたらすぐに教えろよ。すぐに家に帰るから」
「ふふ、ありがとうございます」
リックス様の優しさに頬が緩んでしまいますわ。
「ですがリックス様とダンスを踊りたいのでまだ帰れませんわ」
「なっ、何を言っているんだ…」
ふふふ、照れたリックス様の顔も素敵ですわ。
前髪を切られた事で素敵さが増していますわね。
「今の見ました?なんてお可愛らしい表情をされるのでしょうか」
「よく見れば、とてもお顔が整ってらっしゃいますわね…」
そうですわよね。そうですわよね!
リックス様の表情の変化に周りの令嬢方が色めき立っているのが聞こえてきますわ。
ですが、リックス様は私の婚約者ですので、お近付きになりたいなどとは思わないで頂きたいですわね。
「リックス様、こちらは人が多いので壁際に参りませんか?」
「ああ、確かに多いしそうするか」
今にもこちらへ来ようとする令嬢方を避けるために壁際へと誘導させて頂く。
痩せて綺麗になられたからと言って、今までリックス様の事を酷く言っていた方たちには近寄って頂きたくありませんわ。
早く壁際まで行ってダンスが始まるまでリックス様とゆっくり飲み物を飲みながらお話でもしましょう。
そう思っていた、のですが。
「エリーナ、久しぶりだな」
聞き覚えのある声に振り返れば、そこには数ヶ月前に手紙1つで婚約解消を申し出てきた能無し美形のルーファス様が女性と共に立っていました。
隣の方が新しい婚約者の方なのですね。
そうですか、ルーファス様は胸が大きい方が好きでしたのね。それなら私が好みではないのは仕方の無いことですわね。
「ご無沙汰しております殿下。ですが、もう婚約者でもありませんので名前でお呼びになるのは控えて頂けますか」
「っ、お前はこんな目出度い日でも口答えをするのか…!婚約解消のことを根に持っているのか」
「いえ、その様な事は全くございませんのでご安心くださいませ」
それどころか殿下に感謝を申し上げたい程ですもの。
「ところで、なぜこちらにいらっしゃるのですか?」
パーティーの主役なのですから、もっと違った形で登場されるはずだと思うのですが。
「俺の子猫ちゃんがお前のことを一目見たいと言い出したからな、こうやって来てやったんだ」
「そうですか」
子猫ちゃん…。
少し笑ってしまいそうになりますが、今は置いておきましょう。
「それで、私になんの御用でしょうか?」
そうお聞きすれば、子猫ちゃんさんがうるうるした目をしながらこちらへと近付いてこられます。
なんだか面倒な事が起こりそうな予感がしますわ。
「あの…。私のせいで、ルーファス様と婚約解消をする事になって、ごめんなさい!」
ごめんなさい?
この方は、言葉の使い方をご存知ないのでしょうか?
貴族社会では爵位が全て。公爵家の私に対して、ごめんなさいとは、流石ルーファス様が見初めた方でですわね。
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