寝坊少年の悩みの種

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第五章 共犯者

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「ん? ああ、それはな」
「私たち付き合うことになりました!」
 最初に聞いた時は耳を疑いました。前日まではそんなそぶりも全くなく、むしろ落ち込んでいるような気がしたのですが……。それに彼女の家に勉強しに行ったとき、彼女は遠藤君に対してそんな気はないと言っていたはずです。
 それに、至って彼らは自然体でした。普通関係性が変わったなら少しは何かあるかと思うのです。恋愛経験のない私の主観だからそう思えるだけなのでしょうか。
 ま、まあ別に私には関係のないことですし? 二人がどんな関係になってもどうということはありませんが。ありませんが、しかし朝はどうするんでしょうか。そのまま続けるのも悪いような気がしますし、かといって遅刻されては困ります。

 彼らはどうやら昼食も一緒に取るようです。
「いやーまさか葵が遠藤君とね」
 一緒に昼食を食べている茜がわざわざそうつぶやきます
「なにかあるの?」
 首を縦に振りながら彼女はうんうん言って答えます。
「いや、中学の時苦労してた友達が成長したんだなって思うとなんだかね。でもいいの瑞穂ちゃん?」
「えっと、なにがかな?」
「だって遠藤君の事かなり気にかけてたじゃない、昨日だってほら。」
「あーいや、本当にそういうわけではないの。ただあの落ち込み方から今日になかなか繋がらないなとは思うんだけどね」
 いきなりすぎるというかなんというか。
「確かに。そう考えるともしかして……でも……」
 茜は小声でぶつぶつと何かを言っています。怖い。
「いやまさかね」
 一人で完結したのかまたお弁当を食べ始めました。怖い。

 その日の復習を終えた私は自室でだらだらしていました。特にやることもないですし本でも読もうかなと考え始めた時、スマートフォンにメッセージが入ります。
 相手は遠藤君でした。少し気になっていたこともあったので即座に開きます。
『明日からは一応頑張って自分で起きてみることにする。理由はまあ察してくれ』
 察してくれというのは十中八九葵とのことでしょう。それにしてもこのメッセージを送ってくるということはやはり本当のようですね。
 確かに私としても先生に頼まれただけであって、別に義務でもないですし、本人が頑張って起きるというのなら応援するのが筋な気がします。しかしなんだか、おもしろくありません。
 ただこの申し出を断る理由も思いつかず、返事としては了承するしかありませんでした。


 失恋から二日たった放課後。私はいまだに頭を悩ませていた。
 諦めないと啖呵を切ったのはいい。本心だし。だけどこれからどうしていいのかが全く分からない。一度断られたのにずかずかと教室に行くのも変だし、かといって何もしないのは私が私を許せない。
 ええいぐちぐちしていてもしょうがないか。こうなったら本人に連絡を、取るのはちょっと怖いので同じく近所に住んでいるという瑞穂に連絡を取ってみることにしよう。
『瑞穂、今時間いい?』
『いいよ、どうかした』
 おっと、返信がなかなか早い。まめなタイプね。
『いや、弘治の事なんだけど』
『遠藤君の事か。確かに私もびっくりしたかな』
 えっ、何びっくりしたって。私が告白したことが筒抜けなの。弘治はそういうことしないと思うんだけど。
『何の話かちょっとよくわからないけど』
『あれ、聞いてなかった? もう噂は結構広まってるんじゃないかと思ってたけど』
 返信の感じで分かったが、どうやら私絡みではないらしい。墓穴を掘らずに済んだ。
『噂ってどんな?』
『うーん、聞かない方がいいかとは思うけど、どうせ明日学校に行けばわかることだし』
 えらくもったいぶるわね。悪評か何かなのかしら。
『実は、遠藤君と葵が付き合い始めたらしいよ』
 ……えっ。
『それどういうこと』
『言葉通りの意味です』
 見間違いじゃない、のよね。
『いつから?』
『実際いつからってのは判断できないけれど、今日か昨日だと思うよ。私が朝おこしに行くのも、明日からは一人で起きてみるってさっき連絡あったし』
 本人から連絡があったってことは本当っぽいわね。しかし葵が……。確かそういうのじゃないって否定してたと思ったけど。嘘をついてたってことなのかしら。
 逆に弘治だってそんな感じには全く見えなかったんだけどな。
 あれは友達に向ける目だった。私に向けている目と同じだった。
 なんにせよ、前のこともある。自分の目で確認してみるまでは、私は納得しない。
『ねえ瑞穂、明日早く登校する気はない?』

 翌朝、私と瑞穂は一緒に登校していた。
「ごめんね。朝練の時間に合わせてもらっちゃって」
「全然大丈夫。いつも起きてるから」
 どうやら本当の様で、全く眠気を感じさせない凛とした顔だった。
「ありがと。それで、早速聞きたいことがあるんだけど」
 私は昨日の朝からの二人の様子をいろいろと彼女に聞いた。
「なるほどね、わざわざ皆に聞こえるように付き合うことになったって言ったの?」
「うん、成り行きではあったけどわざわざ言う必要もないことだとは思ったかな」
 これといって変なところがあるわけでもないが、弘治ならわざわざ喧伝するようなことをよしとするだろうか。
 私が告白したタイミングと言い、なんだか都合がよすぎる気がする。被害妄想かもしれないが、私にあきらめさせるためではないのかとさえ思えてくる。
「見てみるしかないわね。瑞穂、今日の昼教室にお邪魔するわ」
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