寝坊少年の悩みの種

KT

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第五章 共犯者

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 弘治との協定が成立して二日が経つ。うまく私と弘治が交際を始めたということが広まったのか、男子からのメッセージは沈下し始めていた。ただやはり完全とはいかない。それでもかまわずメッセージを送り続けてくるやつだっているのだ。しかしまあ後は私がうまく断りを入れるだけなので問題はないだろう。
 私の方に問題は今のところないかな。しかし弘治の方には問題があるみたい。
 今現在、昼休み。弘治の教室で昼食を共にしているのだが、弘治に先日告白したとされる早織が瑞穂と一緒に昼食をとっているのだ。それも明らかにこちらを意識しながら。
 周囲の者の好奇の視線は予想の範疇、もとい計画通りのものであったが、彼女の視線は何かこちらを値踏みするようなものである。
 弘治には諦めないと啖呵を切っていたようだし当然といえば当然な行動でもある気がする。それにこちらは以前自宅にて彼女が片思いであるということを聞いてしまっていた。
 だからというわけではないが向けられる視線が非常に気まずい。弘治も動揺しているようで、なるべく彼女に顔を見せないようにしながら購買で買ったパンを食べている。しかしわかりやすく動揺しているわね。ソースがちょっと頬についている。
 ここはカップルらしく拭き取ってあげた方が、早織に対しての牽制になるか。私はティッシュを取り出しながら声をかける。ハンカチを汚す義理はない。
「弘治、ほっぺたにソースついてるよ」
「ん? ああ」
 そう言って拭き取ると分かりやすく後藤君が反応してくれる。
「くうー遠藤! 見せつけてくれるじゃねえか!」
 ……この人、遠藤君に秘密裏に雇われた協力者とかじゃないでしょうね。分かりやすいからとても使える。
「いや、今のくらいでそんなに騒がなくても」
 うまい。この程度は日常茶飯事だと思わせるいいセリフだ。
「そうかよ。かーっうらやましいなおい」
 そんなセリフを吐きながらやたら楽しそうな後藤君のテンションにはついていけないが、これでまた一つアピールになっただろう。気づかれないように早織の様子を視界の端で窺うと、これまたわかりやすい動揺が見て取れた。しかしすぐに物思いにふける。
 連絡先を交換して名前で呼び合っている手前、あまり挑発すると後が怖いのでこのくらいにしておこう。今晩あたりにでもメッセージが飛んでくる可能性は高い。


 昼食の様子を見ていたが、二人がカップルだと思わせる行動は確かにあった。しかし私の中の何かがあれはそうじゃない、と言っているような気がする。
 これがただの嫉妬で、認めたくないからそう思い込んでいる可能性だってある。だけど私は素直に生きるって決めたんだ。徹底的に関係を暴いてみることを躊躇はしない。本当に二人が恋仲であったらその時は……今は考えもつかない。
 とにもかくにも、部活が終わって家に帰ってから私は葵に直接連絡を取ってみることにした。

『葵、本当に弘治と付き合ってるの』
 私は聞きたいことをそのままぶつけてみることにした。しばらくたってから返信が来る。
『本当に、ってどういうこと』
 う、いきなり言葉に詰まる。
『この前はそういう風に思ってないって言ってたじゃない。あれは嘘だったの』
『それに関してはごめん。私は早織の気持ちを知っていたのに。でも、気持ちが変化することなんてあるのは当たり前でしょ。今は私も弘治が好きで、告白して、付き合っている。それは本当の事よ』
 間髪入れずに返信があった。否定する要素はまるで見つからない。
『でも、今日様子を見てたけど、二人はなんだか好き合ってないように見えたわ』
『やっぱり様子を見に来てたんだね。だけどそういう風に言われるのはちょっと心外かな。あなたに、私たちの関係の何がわかるっていうの? すぐにラブラブで甘々な関係にならないとカップルじゃないっていうの? 意外に乙女チックなんだね』
 これにはプチっと来た。売り言葉に買い言葉である。
『ふざけないで。そんなこと言ってないじゃない。確かにあなたたちの詳しい関係はわからないけれど、弘治の様子を見てどう思ってるのかはある程度分かる自信がある』
『だからそんなふわっとしたもので人の関係を否定しないでって言ってるの。いくら見てたって結局今まで付き合ってもないんでしょ。たかが友達関係でそんなこと言うなんて、どうかしてるよ』
 彼女の返信が胸に突き刺さる。先日振られてしまったことを思い出してしまう。だけどそれ以上に、無性に腹が立った。
『あなたこそ、たかだか数ヶ月で弘治のことを自分のものみたいに言わないで』
『それこそ自分のものだなんて思ってないわよ。ただ事実として、私と弘治は今付き合っているの。それを変な言いがかりで邪魔しようとしてくるのはおかしいでしょ。そんなに嫉妬するくらいならさっさと告白すればよかったのに』
 理路整然とした彼女の言葉にこれが本性なのだと思った。言い返せる余地はなかった。悔しさで涙が出そうだった。私はすでに告白を失敗している。それもまた事実。勝てる要素は最初からなかったのだと思い知らされる。
 彼女は悪いことは何もしていない。フリーだった弘治に告白し、付き合い始めた。それだけだ。それに比べて私は……。そんなことは分かってる。嫌というほどわかってる。だけどこんな形で最後通告しなくてもいいじゃない。
 悔しい。悔しい。悔しい。
 許せない。許せない。許せない。
 だけどもう、どうしようもない。今の私は弘治の友達ですらいられない。こんな醜い私では、彼に顔向けできない。
 こんな思いをするくらいなら、きっぱり断られたときにあきらめていればよかった。我慢してずっと友達として過ごしていればよかった。
 気が付けば一昨日枯らしたはずの涙が、また、溢れ出ていた。


 返信が来なくなって数分。どうやら言いくるめられたようだ。しかし協力関係の代償だとは言っても、友人だと思っていた人をひとり攻め立てるのはさすがに後味が悪いわね。情がほとんど入らない分理屈っぽく返せるから難しいことではないけど、精神的苦痛が大きい。罪悪感が半端じゃない。
 しかしここまで来たら引き返せない。彼には適当に軽めに進捗を報告して、気負わずに役割を果たしてもらうことにしよう。
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