寝坊少年の悩みの種

KT

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第六章 それぞれの夏休み

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 夏休み。それは朝早くに起きなくてもいいという至福の期間である。期間限定であることが非常に惜しい。
 人間、勉強も仕事も昼からの方が効率がいいと聞いたことがある。この国もその考えを取り入れて昼から若干夜までを活動時間に設定すべきだろう。といいつつも、夏休みの間俺はその素晴らしいシステムを先行体験するわけだが。
 バイトのシフトはほとんど昼から、休みの日には遊ぶ友達も特にいない。これはもう午前中は心行くまで惰眠をむさぼるしかないだろう。
 最近気づいたのだが、俺は一人でいることがそこまで嫌いでもないらしい。今年の夏休みはいい夏休みになりそうだ。

 どうしてこうなった。
「いやー付き合ってもらっちゃて悪いわね弘治」
 俺は休みの日に葵に呼び出され、なんだなんだと家を出てみれば、なぜかショッピング施設がたくさんある駅まで来ていた。
 おかしいな。協定のことで直接話しておきたいことがあるとかいって呼び出された気がするんだが。
「普通に買い物するって呼びだしてくれてもいいだろ」
「そう言ったら絶対来ないでしょ」
「まあ確かに。じゃあ他の友達は?」
「みんな部活」
「ですよね」
 知ってました。俺だって後藤と遊ぼうかと思ったら、あいつ部活が忙しいって言ってたもんな。
「その点弘治なら休みの日まで完璧にスケジュールを把握できるからねー」
 サラっと恐ろしいことを言うな。シフト表は自分のところだけで十分だろ。
「一人で来ればよかったのに」
「まあまあいいじゃない。私だって高校生だし、友達と遊びたかったんだから」
「友達、ねえ。悪友の間違いじゃないか?」
「どっちかというとカップルっていうことにしときましょ。街中なんて、誰が見てるとも限らないじゃない」
 葵はそう言い苦笑しながら先に歩き出す。そうですねー、と適当に返事をして俺も後に続いた。

「で、何を買いに来たんだ」
「別に特に決めてないけど? 色々見たかっただけだから」
「尚更なんで俺を誘ったのか分からなくなってきたんだけど」
 どうして俺の貴重な夏休みを、葵の長くなりそうなショッピングに使わなければならないのか。
「特に意味はないのよ。ただ暇な奴を選定しただけだし」
 余計質が悪い。そう思いながらもその言葉は飲み込んでおいた。
「一人で回ってると店員さんとかうるさくてめんどくさいのよね。男でも隣にいればさすがに声かけてこないかなと思ったんだけど」
 店員避けか。確かにめんどくさいよな。話すのが上手じゃないのに話かけてくる店員とか特に気まずくなるよね。

 一通り店の中を回り日が傾いてきているのがわかるようになり始めた。それにしても女ものの服とか、あんなにじっくり見たのは初めてかもしれない。
「思ったよりも長く回っちゃたな」
 そういう葵だが、俺たち二人は手ぶらである。
「結局何も買わなかったけどな。本当に何しに来たんだ俺たちは」
「まあまあそういうもんだって。いざ買おうかなと思っても、バイトでためたお金を使うのがなんだか勿体ない気がしてね」
 それはなんとなくわかる気がする。俺もバイト代の何割かは小遣い代わりにしてるけど、そんなに使わないもんな。
「自分で稼いだお金だからかな? 私なんかもともとお小遣いのためにバイトし始めたのに前より使わなくなっちゃったもん」
「俺の場合は家にも入れてるけど、確かに前より使わなくなった気がするよ」
 そう言って二人で苦笑する。
「まあなんだかんだで楽しかったしよかったよね」
「楽しかったのか?」
「そっちは楽しくなかったの?」
 質問に質問が帰ってきた。
「うーん、言われてみればまあそれなりに楽しかったかな」
「ふふふ、素直じゃないねぇ」
 葵はニヤニヤとこちらを見る。ちょっとムカつく顔だ。
「弘治相手にはあんまり気を使わなくていいから私は楽しかったよ。弘治も多分そうなんじゃないかって、違った?」
「ああー、確かにそうかもしれないな。相手が女の子だって気を使う必要もないしな」
「そこは少しは気を遣ってよ」
 今日何度目となったか。俺達はまた、二人で笑いあった。

 駅に着くと俺たちはそれぞれ別の乗り場に向かう。別れ際、葵が声をかけてきた。
「また今度さそうね」
「それは嫌」
「即答!?」
 そうして俺は手を軽く振り、悪友もまた乗り場へと向かっていった。
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