寝坊少年の悩みの種

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第六章 それぞれの夏休み

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 夏休みも半ばまで来ました。なんだかんだで多かった課題もほとんどを終えてしまい大分余裕が出てきます。
 そして以前より予定していた、私が濱崎へ引っ越す前の町、友達との遊ぶ約束の日がやってきました。連絡はちょくちょく取っていますが面と向かって会うのはずいぶん久しぶりになりますので、非常に楽しみです。

 電車に揺られること数時間、数回の乗り換えを経てようやく目的地へと到着です。
「瑞穂! こっちこっち!」
 電車を降りて駅の改札を抜ければ、数か月前までは当たり前だった懐かしい景色が目の前にあり、たった数ヶ月で少しだけ高校生らしくなった友達が迎えてくれます。
「そんなに大きな声を出さなくても分かってますよ。絵里奈」
 彼女の名前は倉橋絵里奈。私の親友だ。
「ひっさしぶり! 元気だってのはわかってたけどこうして会うとなんだか感動するわね」
「大げさですよ。と言いたいところですけど、ちょっとわかります」
 彼女は私の素がこのようであることを知っている友人です。なんだかんだでこういった話し方をするのを嫌う人もいますし、普通は仲のいい人ほど抵抗感を示します。ですから砕けた口調を意識するといったちょっと間抜けなことを高校ではやっていますが、小さいころから住んでいたこの辺りでは私の素面が割れているので気が楽でいいです。
「それじゃあ早速うちに来る?」
「はい、行きましょうか」

 二泊三日、彼女の家に泊まることになっています。明日は他の友達とも一緒に遊ぶことになっていますのでこちらも楽しみでしょうがありません。
 今日は彼女の部屋で話に花を咲かせます。
 高校に入学してからのことを話すだけでもそれはそれは、互いにいろんなことを、話題が飛び飛びになりながらも話します。
「そっちはそんな感じなんだ。こっちなんてね―――」
「―――ですから、結構大変なんですよ」
 互いに違う学校の話をすることはなんだか妙な気分でしたが、環境によってだいぶ違うんだなと多くの刺激を受けます。勉強、部活、教師の事、学校の設備、先輩たちの事などなどいろいろな話をします。私は部活も縁のある先輩もいないんですけどね。
「そういえばあの子とあの子、付き合い始めたんだって!」
「とうとうですか。むしろ遅かったくらいですね」
 こちらは逆にどこに行っても似たような話になってしまう、いわゆる恋バナです。
 よくよく考えればこういった話をする友達は向こうではまだできていませんでした。友達作りにももっと積極的になるべきでしょうか。
「瑞穂はどうなの? いい相手とかみつけた?」
 話の矛先が私に向いてしまいました。それにしてもいい相手ですか。うーんと唸って考えると一人だけ頭に浮かんだ名前がありました。しかしその人は……。
「いい友達になれそうな方なら見つけたんですが、いろいろありまして」
「ほほう、いろいろ、と言いますと?」
 興味を持ったのか絵里奈の目の色が変わります。
 普段彼らが関わる人でもなし、込み入った話でも彼女に話してしまいたいと思いました。こんな話溜め込んでおくだけじゃあ、いつかパンクしてしまいそうでしたしいい機会だと思います。
「実は、多分に推測を含んでいるのですが―――」

「なにそれドラマみたい! やっぱり都会の学校は違うわね!」
 キャッキャとはしゃいでいる絵里奈。この話ってそんなに楽しいお話だったでしょうか。
「こっちじゃあそんなに複雑な関係なんて起こらないよ。昔から知ってる人も多いし」
 まあ田舎ですからね。
「それにしても気になる相手に挙げる男子がその渦中の人物っていう瑞穂もどうかしてるわ」
「そうでしょうか?」
「いや、だって絶対やばい奴じゃないの? そいつ」
 どうやらここまで話して、彼の人柄についてすっ飛ばしてしまっていたみたいですね。
「そんなことないですよ。彼は普段ちょっと捻くれていますが、根はとてもやさしい人だったりしますし。道端に落ちたごみを迷わず拾って帰るタイプの人ですよ」
「えーさっきの話からは想像できないんですけど。というかむしろ瑞穂とその遠藤ってやつの関係が気になってきたわ」
 そういえば話してなかったと思い、彼が真下の部屋に住んでいること、先生に頼まれて毎朝迎えに行っていたこと、それがきっかけで比較的仲の良い友達であることを話す。
「さっきも驚いたけどこれまた絵に描いたような展開ね。都会の学校にはそんな青春があふれているのかな? 非常に羨ましい」
 なんだか限界を超えたように真顔になった絵里奈がぶつぶつ言っている。
「でも瑞穂が好きになってしまった人がそんな異常な状態にある人なんてやっぱりびっくりだわ」
 ん?
「そもそもあの瑞穂が好きになるのがびっくり。もしかして魔性の男とかいうやつなのかねぇ」
「いやいやいやちょっと待ってください。誰も好きなんて言ってないでしょう」
「でもあんな顔で、根はとてもやさしい人だったりしますしーとか言ってたじゃん」
 あんな顔って、変な顔してたでしょうか。
「少なくとも好意のかけらくらいは持ってるって顔だったわよ」
 言われると途端に恥ずかしくなります。
「そ、そういうのじゃないんですよ。ただ近所に住む良きクラスメイトってだけでそんなつもりは」
「あちゃー私ったら無自覚を自覚させちゃったかな? こりゃ不躾なことしちゃったわ」
「だから違いますって。それにおそらく仮にですが彼女持ちで、私の友人がふられたかもしれない相手ですよ?」
 そういう感情を持つこと自体どうかしてると思うのですが。
「そういうの、あんまり気にしないでもいいと思うけどね。だって瑞穂の予想通りなら偽装カップルであり、その友達はフラれてるんだからもはや部外者でしょ。そんなに周りのこと気にしてたら後々後悔することってあるんだから」
 なんだか諭す様に言われています。だからそういうつもりはないと言っているのですが……。
「それに、周りのこと気にして真相を突き止めないままでいるみたいだけど、瑞穂って気になることはとことん突き詰めるタイプじゃなかった? そんなところまで遠慮しなくていいって」
「でもそれは……」
「もうちょっと素直になってみなよ。単純に知りたくないの? 私は知りたいんだけど」
「わ、私も知りたいですよ。でも引っ掻き回すのはなんだか違うといいますか、そう簡単な問題でもないと言いますか」
「それじゃあ私の好奇心のために聞きだしてみてよ。それならいいんじゃない」
「いやよくないですよ。なにあたかもいい友達風に話し進めてるんですか」
「あ、ばれたか」

 それからもいろんな話をしたが彼女は疲れたのか眠ってしまいました。
 先程の話を思い出します。
 私はどうしたいのだろう。以前もこの自問をしていたように思うが、いささか状況は違っています。
 確かに気になることをそのままにしておくのは私の性分ではありません。しかし、人間関係を破壊するようなことになるのは本意ではありません。
 すでに破壊されてしまっているような気もしますが、推理が当たっていたら早織の立つ瀬がなくなってしまう。そして推理が当たっていた場合、それを早織に教えないのもなんだか不義理な気がしてならないのです。
 私は真実も知りたいし義理も通したい。不和をもたらしたくはないのでどうしようもない。
 しかしこのままでは遠藤君とは疎遠になってしまうのでは? それは避けたいような気もします。
 彼は私が初めて気さくに話せると思った男子です。ちょっと捻くれてはいますが、あれだけ話していて心地よい感覚も珍しいものでした。この感覚は絵里奈が言っていたような好意とはやはり違うものな気がします。
 女友達とは違った、しかし他の男子ともまた違った何とも言い表せない感覚。言うなれば遠慮のない言葉の交わし方。それでいてどこか優しさをにじませているその言葉に私は安心感を覚えていたのかもしれません。
 気の置けない相手というたとえが一番しっくりくるでしょうか。

 思考は堂々巡りを続けます。私はどうしたいのか、どうありたいのか。そしてどういう関係を築きたいのか。ひたすらに考えながら、意識を段々と手放していきました。


「いやー早い三日間だったね」
「そうですね」
 帰りの電車の時間までもう少し。私は絵里奈と二人で駅の改札前の控え室で扇風機の風にあたりながら座っていた。
「こんなに遊んだのは久しぶりだったかな。高校入ってから思ったよりも遊ぶ時間って少なかったし」
「私もそう思います。何というか、中学の先生が言っていたほど自由な時間ってなかったですよね」
「ほんとそうなのよね。高校受験に危機感を煽りすぎだったっていうか、真面目な生徒にするためのアメとムチだったっていうか」
「まあなんにせよ、またお別れですね」
「そうだね。そろそろ時間か。それじゃあ例の件、続報をお待ちしています!」
「期待はせずに待っていてください。またちょくちょく連絡しますね。今度会うのは冬か来年か、とりあえずまた会いましょう」
「うん!」
 じゃあねーと手を振る彼女に、私も手を振り返し駅のホームへと向かった。旧友と遊びなんだか吹っ切れた私は、すがすがしい気持ちで電車に乗り込んだ。
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