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第七章 体育祭
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「いやーそれにしても、また瑞穂ちゃんが来てくれるようになって私は嬉しいわ」
「私も敦子さんに会えるのでうれしいですよ」
「あらあらありがとう」
朝から委員長が来ることで母さんのテンションはMAX、早起きもできていいことづくめである。
「寛大な弘治の彼女さんに感謝ね。正妻の余裕ってやつなのかしら」
母さんはたまに変なことを言うがどうか気にしないで欲しい。
「そういえば遠藤君。今日は放課後に実行委員があるって先生が言っていました」
「そうなのか。長引かなきゃいいけどな」
今日はバイトもあるから少し心配だ。
なんだかバイト先には行事やテストの度に時間を調節してもらってる気がするな。ありがたいがもう少し無理を言ってくれれば学校行事もサボれるのではと考えてしまう。
「まあ当日の仕事がほとんどでしょうから別にバイトで休んでもおとがめはないと思いますよ」
体育祭の準備は確かにあると思うが多くの生徒で一斉に準備するはずなので実行委員が特別忙しくなるということはないそうだ。むしろ力仕事が少なくなるかもしれないな。
「二人ともそろそろ時間じゃない?」
母さんが時計を見て確認してくる。それを聞いた俺たち二人はいつも通りに玄関に向かい外に出た。
「行ってきます」
「気をつけてねー」
「橋本はもう知ってるんだよな」
「その質問がカップルの偽装についてならそうです」
委員長は淡々とした声で答える。
「うっ……怒ってる?」
「私が怒るようなことではないと思いますよ。黙っているのも私がその方がいいと判断したからです」
「……助かる」
「それに……いえ、何でもないです」
そういうと少し先を歩いていた委員長はこちらを振り返る。
「これからも今まで通り仲良くしましょう」
「ああ、ありがとう」
文化祭実行委員の時とは違い、いかにも体育会系な代表者が集まっている。なんだか自分が場違いのような気がしてならないが今更そんなことを気にしてもしょうがない。
「弘治ー瑞穂ーこっちこっちー」
すでに教室の中に入っていた葵が手を振りながら声をかけてくる。
委員長と二人でそっちに向かうのはいいが、後ろの方に見知った顔を見つけてしまう。よくよく考えれば彼女がこういったものに参加しないわけがなかった。
極力目を合わさないように葵の前の席に座る。
俺たちはすぐさま小声で話し始めた。
「おい、早織がいるんだが」
「見りゃわかるわよ。さっきからなんだか視線が痛いのよね」
「視線が痛いって、本当にお前はどうやって諦めさせたんだよ」
あの早織が人に対して憎しみにも似た視線を向けるのは意外過ぎる。
「それはともかく、なんとしても同じ係になるのは避けるわよ。身がもたないから」
どうしてこうなった。
俺と葵は人気の係に立候補してしまいじゃんけんに負け、あまりの大道具係になってしまった。そこまではまあいい。
しかしその係にはすでに先約がいたのだ。
「……よろしく」
早織と同じ係になってしまった。
「よ、よろしく」
き、気まずい。今まで味わったことのない気まずさ。
向こうから見れば振られた相手とその彼女だ。感情を覗かせないようにしているのか、早織の顔は無表情のままこちらと目を合わせることはない。
今日はこれで解散だがこの先が思いやられる。
これは早急に作戦会議を開かなければならないだろう。
バイトを終え自室でくつろぎながら電話をかける。
『もしもし弘治?』
電話の相手はもちろん葵だ。今日は実行委員でバイトの前は時間がかつかつだったから、作戦会議は電話でという話になっていた。
『それでこれからどうするかなんだが』
『うん、でもどうするかって言っても特に変わったことをする必要はないのよね。これ以上早織に、変な挑発とも取れる行動をする必要はないでしょ』
もちろんその通りだ。だがしかしそれだけではあの気まずさを回避することはできない。
『気まずいのは我慢するしかないと思うんだけど』
『だけどな、俺は耐えられる自信がないぞ』
『この作戦を始めた時から覚悟の上でしょ? 私も我慢するから、あなたも我慢して』
『はい……』
大丈夫かな。
『どうしてもきついときはあなたは退避すればいいわ。バイトでもなんでも理由はつけられるでしょ』
『そうしてもらえると助かる』
『係は私たち三人だけってわけでもないんだから気負いすぎないこと。適当に他の男子と仲良くできるならそうしなさい』
『わかった』
そうは言っても後二人はなんだか話しづらい感じだったんだよな。イケイケな感じといえば伝わるだろうか。俺の苦手なタイプである。
結局のところこれといった策も思いつかず、とにかくぼろを出さないようにするように葵に厳重注意された。
「私も敦子さんに会えるのでうれしいですよ」
「あらあらありがとう」
朝から委員長が来ることで母さんのテンションはMAX、早起きもできていいことづくめである。
「寛大な弘治の彼女さんに感謝ね。正妻の余裕ってやつなのかしら」
母さんはたまに変なことを言うがどうか気にしないで欲しい。
「そういえば遠藤君。今日は放課後に実行委員があるって先生が言っていました」
「そうなのか。長引かなきゃいいけどな」
今日はバイトもあるから少し心配だ。
なんだかバイト先には行事やテストの度に時間を調節してもらってる気がするな。ありがたいがもう少し無理を言ってくれれば学校行事もサボれるのではと考えてしまう。
「まあ当日の仕事がほとんどでしょうから別にバイトで休んでもおとがめはないと思いますよ」
体育祭の準備は確かにあると思うが多くの生徒で一斉に準備するはずなので実行委員が特別忙しくなるということはないそうだ。むしろ力仕事が少なくなるかもしれないな。
「二人ともそろそろ時間じゃない?」
母さんが時計を見て確認してくる。それを聞いた俺たち二人はいつも通りに玄関に向かい外に出た。
「行ってきます」
「気をつけてねー」
「橋本はもう知ってるんだよな」
「その質問がカップルの偽装についてならそうです」
委員長は淡々とした声で答える。
「うっ……怒ってる?」
「私が怒るようなことではないと思いますよ。黙っているのも私がその方がいいと判断したからです」
「……助かる」
「それに……いえ、何でもないです」
そういうと少し先を歩いていた委員長はこちらを振り返る。
「これからも今まで通り仲良くしましょう」
「ああ、ありがとう」
文化祭実行委員の時とは違い、いかにも体育会系な代表者が集まっている。なんだか自分が場違いのような気がしてならないが今更そんなことを気にしてもしょうがない。
「弘治ー瑞穂ーこっちこっちー」
すでに教室の中に入っていた葵が手を振りながら声をかけてくる。
委員長と二人でそっちに向かうのはいいが、後ろの方に見知った顔を見つけてしまう。よくよく考えれば彼女がこういったものに参加しないわけがなかった。
極力目を合わさないように葵の前の席に座る。
俺たちはすぐさま小声で話し始めた。
「おい、早織がいるんだが」
「見りゃわかるわよ。さっきからなんだか視線が痛いのよね」
「視線が痛いって、本当にお前はどうやって諦めさせたんだよ」
あの早織が人に対して憎しみにも似た視線を向けるのは意外過ぎる。
「それはともかく、なんとしても同じ係になるのは避けるわよ。身がもたないから」
どうしてこうなった。
俺と葵は人気の係に立候補してしまいじゃんけんに負け、あまりの大道具係になってしまった。そこまではまあいい。
しかしその係にはすでに先約がいたのだ。
「……よろしく」
早織と同じ係になってしまった。
「よ、よろしく」
き、気まずい。今まで味わったことのない気まずさ。
向こうから見れば振られた相手とその彼女だ。感情を覗かせないようにしているのか、早織の顔は無表情のままこちらと目を合わせることはない。
今日はこれで解散だがこの先が思いやられる。
これは早急に作戦会議を開かなければならないだろう。
バイトを終え自室でくつろぎながら電話をかける。
『もしもし弘治?』
電話の相手はもちろん葵だ。今日は実行委員でバイトの前は時間がかつかつだったから、作戦会議は電話でという話になっていた。
『それでこれからどうするかなんだが』
『うん、でもどうするかって言っても特に変わったことをする必要はないのよね。これ以上早織に、変な挑発とも取れる行動をする必要はないでしょ』
もちろんその通りだ。だがしかしそれだけではあの気まずさを回避することはできない。
『気まずいのは我慢するしかないと思うんだけど』
『だけどな、俺は耐えられる自信がないぞ』
『この作戦を始めた時から覚悟の上でしょ? 私も我慢するから、あなたも我慢して』
『はい……』
大丈夫かな。
『どうしてもきついときはあなたは退避すればいいわ。バイトでもなんでも理由はつけられるでしょ』
『そうしてもらえると助かる』
『係は私たち三人だけってわけでもないんだから気負いすぎないこと。適当に他の男子と仲良くできるならそうしなさい』
『わかった』
そうは言っても後二人はなんだか話しづらい感じだったんだよな。イケイケな感じといえば伝わるだろうか。俺の苦手なタイプである。
結局のところこれといった策も思いつかず、とにかくぼろを出さないようにするように葵に厳重注意された。
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