乙女ゲームのイケメンに憑依してしまった「彼」の悩み事

遠出八千代

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乙女ゲームのモブに転生してしまった「彼女」の懸念事項

晩餐会の翌日

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 昨日の晩餐会から翌日の事だ。

 俺は、家の片付けやら手続きがあって昼休み頃に学校に着いた。一応家の主として、ハレー家とダク家の宿屋を準備したりで大変だったのだ。
 実は昨日は平日だったけど、学園には休暇と遅延届を出しており特に問題はない。

 なぜなら高位貴族の子息たちにとって、彼らの本業はコネ作りだ。学園で培った友好関係をこれからの貴族社会で役立てることがメインだからだ。学校もそれを認めており、貴族の家の事情による休みは簡単に取れる。まぁ、爵位と土地を持つ父親たちの事情に合わせる形というわけだ。

 もちろんそれが学業をおろそかにしていい理由にはならないけど、魔法や戦闘訓練だって軍人を目指していたり、そういう家系でなければ本気で打ち込んでいる人は少ないのが実際のところだ。特に家督を継げない次男や三男、それにコハナちゃんみたいな例外は本気で頑張ってるけど。そこの所本当に皆さん凄いなと尊敬しています。





「すいません、遅れました」


 俺はそう言って教室の扉を開けると、クラスがざわつきだした。こちらに視線を向けると、ひそひそと何事か話始める。
 ……おかしい。先日、学校を休むまではこんなの全然なかったのに。しかも今は昼休みだった。クラスメートはサンドイッチとかの昼食を食べてて、授業中とかでもない。

「遅かったじゃない」

 俺は周りの視線を無視してさっさと自分の席に向かったら、丁度俺の隣の席のエリザさんが声をかけてきた。

「ああ、ちょっとした内職があってね」
 挨拶に答えてから――エリザさんの顔をよく見ると、何が可笑しいのかはわからないけど、顔をゆがめて笑いを押し殺したような顔をしていた。

「で、これはなんなの?」

 そしてエリザさん、その顔は何なの?というニュアンスを含めて俺はエリザさんに質問した。どうもエリザさんの様子と、周りの熱視線に原因があるみたいだった。

「ああ、なんでもないのよ。貴方がここ数日休んだのは今度の騎士試験の特訓のために山に篭っていたからじゃないかって、フフ」
 エリザさんはセリフを言い終える事も出来ず、会話の最中だというのに笑い始めていた。
「そんなのしてないのは、エリザさんが一番知ってるでしょ。昨日は晩餐会だったのに……って、ごめんエリザさん、騎士試験ってなんだっけ?」

 騎士試験、そんな言葉をどこかで聴いたことがある気がした。だが、どこで聞いたのか全く心当たりが無い。自分の記憶を探っても答えは出ない。

「あっと、そうだったわね」

 エリザさんは俺の事情を汲んでくれたみたいだ。ちょっと考え込んで、
「一年に一度のお祭りみたいなもので、学園に設置されたコロシアムで、各学年の男子生徒がトーナメント形式で自分たちの力を競い合うのよ。先生達が試験の様子を見て、実力を測ったりするわけ」
 ――そう説明してきた。いや、どこが試験なものか、まるで決闘じゃないか。

 しかもエリザさんの話は試験という言葉から俺が連想していたものと、だいぶ想像が違っていた。てっきり高校の期末テストみたいなものを想像していたけど。あるいはそれで試験をするってことなのだろうか?どちらにしろこっちの人はかなり好戦的みたいだ。

「しかも実力が見込まれた人はそのまま、学園卒業後に騎士団員に推薦されたり、異国からのスカウトだってあるわ。」
「危なくないの?」
「ええ。毎年、一人、二人くらい事故で死人が出る程度よ」
 ……おいおいちょっと殺伐としすぎじゃありませんかね。
 いや、中世っぽい世界だからこれくらい命が軽いのはしょうがないかもだけど。仮にも戦うのは貴族同士なんですよ?

「なるほど。だいぶ物騒なのだけは分かったよ」
「ちなみに、貴方とフィンがトーナメントの優勝候補よ。毎年競い合ってるし、貴方凄く強いんだから」
 マジですか。俺に命をかけて騎士として戦えと?こないだまでただの高校生には無茶振りだよ、全く。
「どう、勝てそう?」

 エリザさんは茶目っ気たっぷりに、また不可能な事を聞いてきた。いや、どう考えても俺がフィンに勝てるわけがないでしょ。

「それはわからないけど。君の回答はまた一つ俺の問題が増えたことを認識させるのにとても役立ったかな」
 全く、試験ときたもんだ。又忙しくなりそうだ。
 こっちは体を戻すために、色々やらなくちゃいけないことがあって時間を裂けないというのに。

「そういえば、貴方が驚いてるところ始めて見たかも」

 続けてエリザさんはくつくつとまた小さく笑い始めた。いや、クラウディンは昔から婚約者なわけだから、驚いている表情くらい見たことあると思ったんだけど……

「ああ。誤解しないで、クラウディンじゃなくて『貴方』の事だから」
 こっちの心でも読んでるみたいに、エリザさんはそう付け加えた。そしてなるほどねと理解できた。確かにこんな顔見せるのエリザさんには初めてかもしれない……というかだね、こんなところでそんな不注意な事言うのは気をつけていただきたい。俺の正体がバレタラどうするのさ。

「まるで、心でも読まれてるみたいだよ、俺って結構単純なのかもね」
「それは確かに……ってそういえば、貴方、例の件はどうなったの?」

 エリザさんの言う例の件とは多分、図書館でどうやって肉体を取り戻す方法を調べるかという事だろう。だが昨日の今日で、そうそう上手くいく方法なんて思い付くわけがない。

 とはいえ、なんだかんだで上手くいく方法を思いついた俺は、今朝方その仕込を家の片付けと共に終わらせてきたのは事実だった。


「あぁ、実はね――」


「えっと、クラウディンさんはいらっしゃいますか」

 見覚えの無い女子生徒が、入口の横で俺の名前を呼んでいた。
「何かな?俺に用でも?」
 俺は彼女に向けて手を振って挨拶した。ちなみにエリザさんは俺の横で「はしたないわよ」と小言を言っている。

「クラウディンさんと話がしたいって人がいらっしゃって……放課後に校舎裏に来てほしいと」
「校舎裏?女の子?」

 心当たりは全然無い。一体誰だろうか。俺は首をかしげた。
 もしかして、女の子の告白かも知れない。

 いや、うぬぼれて女の子から告白してくると考えているわけではない。放課後に校舎裏に呼び出され、実際そういうことがこれまで何回もあったから。


 よくよく考えたらクラウディン、君って奴は本当に罪作りな男だね。少しは俺にもそのモテ力(ぢから)を分けて欲しいもんだよ。
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