乙女ゲームのイケメンに憑依してしまった「彼」の悩み事

遠出八千代

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乙女ゲームのモブに転生してしまった「彼女」の懸念事項

校舎裏でのやりとり 後編

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「お、おいフィン」
「フィン君、さっきいっしょに話し合って決めたじゃない。二人に謝ろうって」

 フィンの両隣にたつコハナちゃんとリーレイ、それと端にいる後輩君もいっせいにフィンの方に振り向いた。あからさまに困惑している様子だった。

 どうやら、今のフィンの発言は彼らの打ち合わせにはないもののようだ。

「俺は納得したわけじゃない。到底納得できるわけが無い」
「なんだって?」
 俺が聞き返すと、フィンは不満そうにしながら、所在なさげだったのか両腕を組んだ。そして両の目で俺を真剣に見つめてきた。

「あの女は、コハナの事を邪険にしていた。それにお前はいつもまとわり付く彼女の事を邪魔だったんじゃないのか?以前俺たちにも言っていたじゃないか、彼女に迷惑していると。それが何の気の変わりようだ?」

 フィンは次第に声を荒げ、顔付きも硬く強張らせた。
 会話の途中、俺は不整脈でも起こしたかのように、一瞬険しい表情をしてしまったかもしれない。実のところフィンの言う事は痛いところをついていた。

 実際エリザさんの談によればクラウディンは彼女を邪魔に思っていたわけだし、数ヶ月前までは彼女の事を露とも思っていなかったはずだ。それは言動だけじゃない。きっと表情や雰囲気、仕草になって周りの人間に認識させていたのだろう。きっと今の俺とクラウディンでは、その差が明確にあるに違いなかった。

 親しくない相手なら別だろうが、彼ら4人はこれまでずっとクラウディンと一緒にいたのだ。きっとお礼状に彼らはクラウディンの事を知っているに違いない。フィンが納得いかないことに、正直言うと確かにそうだと思ってしまっている俺がいた。

「それは――」
「「それは?」」
 俺の言葉にオウム返しをしてくるのは、フィンだけではなかった。

 コハナちゃんをはじめ、皆いっせいに聞き返してきた。やはりフィンだけじゃなくコハナちゃん達も俺の急な様変わりに関心があるのだろう。

 どう答えればいいのか?
 どうすれば俺はこの場を切り抜けられるのか?

 喉の奥がやけにひりついてきた。
 体中の筋肉が萎縮して、まるで体が石みたいに重くなった感覚になった。その場しのぎの答えを出すべく、数十秒間、俺は自分の脳をフルスロットルに回転させる。
 そして、ある答えを俺は導き出した。

「そ、そう……俺は真実の愛に目覚めたのさ。俺は、エリザさんを愛していることに気付いたんだ!!」

 気付けば、自分でも突拍子もないなと思うようなことを叫んでいた。
 ちょっと苦しい言い訳かもしれない。俺もそう思う。数ヶ月前の、俺が取り付く前のフィンでは考えられないような発言だった。

「え?」
「はぁ?!」
「あ、愛?」
「へぇ」

 異口同音にコハナちゃんたちが素っ頓狂な声をあげた。

 奇声にも近く、彼らが普段上げないような声だった。きっとフィンやリーレイ、後輩君のファンがこの場を見たら、あまりにもありえなさ過ぎる光景に卒倒してしまうかもしれない。

 やはり、俺の発言は信憑性のないものだったのだろうか?

「まさか、クラウディン先輩の口からそんな言葉が出るとは思いもしませんでした。何か、まじないの類でもかけられたんですか?」
「そんなものは断じてない。怪しいと思うなら、調べてくれ」

 ……前言撤回。
 俺の発言は信憑性のないものでした。俺の発言を確認してきた後輩君の言葉で、それが確信できた。

 しかも後輩君は俺の答えを待たずに、後輩君は即座に手元の小さい杖で何か夕焼け色に似た橙色の光を発し始めた。だいぶ本格的な様であった。おいおい。

「魅了(チャーム)の魔法の類ではありませんね……誰かに操られたというわけではなく、先輩本心からの発言です」
「嘘だろクラウ」
「冗談ですよね、クラウさん……」
「いや、本心さ」

 数秒後、後輩君は魔法の解析を終えたのか手に持った杖を腰のポケットにようやくしまった。
 内心後輩君の突然の行動にはヒヤっとした。だが後輩君の魔法の才能は皆に認められるほどの技量のようで、さっきまで頑なだったコハナちゃんたちは顔を引きつらせながらも納得してくれた。

「そういうわけだからさ。フィンが納得しているかどうかは関係ない。俺は俺で、勝手にエリザさんとよろしくやるからさ。皆は皆で楽しく過ごせばいい。こないだの事は俺も、エリザさん(多分)も気にしてないからさ」

 一瞬の静寂、どうやらこれで彼らの用件は終えた様だ。それは彼らの意図通りではなかったかもしれないが、上手くいったのには違いない。一応仲直りらしきものは出来たはずだ。
 さて、後はこの場をお暇するだけだな。
 俺がそんなことを考え出した矢先、何かと思えばフィンが口を開いた。

「……ならば、今言った言葉が真実かどうか俺に勝利して証明してみろ」
「どういう意味だ?」

 フィンの突然の発言は俺を混乱させるのに十分だった。いや、本当にどういう意味なんだ?俺はたずねた。自然と声は低くなっていた。 

「今度行われる騎士試験で俺と一対一で勝負しろ。お前の言っていることが本心かどうか確かめてやる」
 そう、きたか……これは全く予想していなかった。

 ほかの三人と違い、フィンだけはどうしても納得がいかないらしい。
 いや、まぁ、確かにさっきの言い訳はかなり苦しい部類ではあったけど。だが、ほかの三人が納得してるんだから、ここは引いてほしかった。お互いこれ以上無駄なトラブルは避けるべきじゃないのか?

「わかった。なら、決勝でお互いあたったらその時は真剣勝負で決めよう」
「本当だろうな?」
「ああ、男に二言は無いよ」
 俺の言葉にようやく納得してくれたのか、彼は表情をようやく緩めてくれた。

「大丈夫ですか先輩?やめたほうがいいと思いますけど」
「二人がそんなことで戦わなくてもいいじゃない?」
「いや心配しなくてもいいよ二人とも。大丈夫だからさ」

 心配するコハナちゃんと後輩君。
 それとやれやれという表情で、また面倒くさいことになりそうだとでも考えてるであろうリーレイ。
 三人に声をかけて、俺は彼らに背中を向けた。
「どういうつもりだ?」
「俺はこの辺で帰ることにするよ、色々とやることがあってね」
「お、おいクラウディン!まだ話は終わってないぞ!」

 静止するフィンの声を無視して、俺は手を振りながら、そのまま歩みを進めた。

「いや、俺の方はすんだよ。お互い意思の確認は出来た。次は試験の決勝で会おう」
 俺は適当な決め台詞を吐いて、その場を後にした。
 なんか変なことになってしまったが……まぁ、問題はないだろう。

 俺の優先順位は変わってはいない。
 まずは図書館の事についていろいろ準備をする。そして体を戻す方法を調べるまずはそれが優先だ。見送る4人を後にして、俺は校舎裏を後にした。





「エリザさんそんなところで何やってんの?」
「べ、べべべべべべつになんでもいいでしょ」
「はぁ……」

 俺が校舎裏を抜けて角を曲がると、地面に直に体育すわりでうずくまっているエリザさんを見つけた。
 なんとなく顔を赤くしている様に見えた。いや俺の見間違いだろうな、今は夕暮れ時だし。

 しかしなぜ、エリザさんはこんな所にいるのだろうか。てっきりもう屋敷に帰ったと思ったのだが。
 まさか、心配になって様子を見に来てくれたのだろうか?もしそうだったら嬉しい限りだ。

 俺はこの異世界では一人ぼっちなのだ。
 普段はそんなこと考えもしないが、ふとした瞬間に寂しさにさいいなまれることがある。特に就寝中のベットの上とかで、ぼんやりしているとよくある。

 そんな俺が、ようやく相談できて心配もしてくれる相手を見つけられた。
 正直言おうと、俺は心細いと感じていたのかもしれない。先ほどのフィンたちとの修羅場を終えて、彼女の顔を見たらどうしてかホッとした。

 俺は、なぜか硬直している彼女を連れて、馬車を留めている馬繋場に向かった。



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