津軽藩以前

かんから

文字の大きさ
10 / 105
偽一揆 永禄十二年(1569)正月

岩木山、雪の陣 2-4

しおりを挟む
「安心せい。理右衛門の金は、参加した者ら全てに平等に配る。約束だ。これで皆、ひもじい思いをせずにすむな。」

 そう万次は言うと、腹の底から大きく笑った。

 ……正直、甘く見ていた。後悔もしている。他国者と在来の民の対話など……できるものか。為信がそう思っていると、面松斎は小声で言ってくる。

「他国者とて、悪い人間ばかりではありませぬぞ。」

 ……そうだ。そうだった。ここにいる。……それにここには他国者だけではない、在来の民でも同じように振る舞うやつもいる。荒れた奴らが他国者に多いだけ。


 戦国の梟雄 “津軽為信” になるのは、もう少し先である。


 為信は途中まで面松斎と山を下り、そこからは雪しかない原野を進む。次第に雲は薄くなり、日が差してきた。雪もやんだ。地面が、輝く。

 陣に戻る。白い幕を手で上に除け、兵士らの中に入る。家来衆とは違い、兵士たちは為信の帰還を素直に喜んでくれた。なんだかんだで我らの殿さまであろうから。

 為信は気を取り直し、大声で叫んだ。

「和は成った。一揆勢は今夜中に引き上げる。」

 兵士らは歓声をあげた。早く帰りたい一心だった彼らは、為信の快挙に喜んだ。誰も、こんな寒い中外にいたくない。
 千人のその雄叫びは、家来衆をも驚かせた。森岡などはたいそう悔しがり、“一揆勢は嘘をついて、こちらを油断させようとしていないか” と勘繰る始末。
 為信の大浦軍は、今夜は付陣したままとし、明日の朝に岩木山の大寺を接収。確認が取れ次第、引き返す運びとなった。


 しかし……異変が起きたのは夜。兵士らがうとうととし始めたころである。

 大浦軍を遥かに凌ぐ人影が、東南より近づく。……あれは一揆勢か。

 ……いや違う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...